2023年1月21日、夜10時14分2秒。新北市の新北環河快速道路を新北大橋から三重方面へ走っていた乗用車(判決でいうA車)が右へ車線を変えると、後ろの乗用車(B車)が約2秒間クラクションを鳴らしました。15秒後、A車は急に速度を落とします。そこから3分以上にわたって、A車はB車の前で急減速を2回、急停止を5回繰り返し、さらに3回、バックしてB車にぶつかりました(臺灣高等法院114年度上訴字第3183號刑事判決、2025年11月12日)。
2台が走った道には、1車線しかないランプ(閘道)も含まれていました。一審の新北地方法院が認定した事実によると、A車の運転者は後ろからクラクションを鳴らされ、パッシングされたことに不満を抱き、新北大橋と中興橋の一方通行の取付道路(引道)でこうした運転をしました。B車はバンパー、ボンネット、車体に擦り傷がついて損傷し、使用に堪えない状態になりました(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
A車の運転者は、追われていたのは自分の方で、止まって軽く当てたのは「もう追ってくるな」という合図だった、正当防衛だと主張しました。新北地方法院はこの主張を退けて公衆往来安全妨害罪(妨害公眾往來安全罪)で有期徒刑5か月を言い渡し、台湾高等法院も控訴を棄却しました。二審が控訴を退ける根拠として詳しく書き写したのは、B車のドライブレコーダーの記録です。
法廷で確かめられたB車の映像
新北地方法院は2024年11月7日、B車の運転者が提出したドライブレコーダーの映像ファイルを法廷で勘験(勘驗。裁判所が証拠を直接見て確かめる手続き)しました。台湾高等法院の判決は、その結果を画面上の時刻とともに書き写しています(臺灣高等法院114年度上訴字第3183號刑事判決、2025年11月12日)。判決の年は民国暦で書かれていて、民国112年が2023年、113年が2024年、114年が2025年にあたります。
始まりは20秒ほどの出来事です。22時14分2秒にA車が右へ車線を変え、B車が約2秒クラクションを鳴らします。17秒、A車が1回目の急減速。22秒から23秒にかけて、B車が約2秒ハイビームを点滅させ、クラクションを1回鳴らしています。
22時15分8秒、A車は右へ車線を変え、B車の前の車線に入りました。15秒に2回目の急減速、34秒に1回目の急停止。そして44秒から45秒にかけて、A車はバックしてB車にぶつかりました。これが1回目の衝突です。
そこからA車は、進んでは止まることを繰り返します。49秒に前進して52秒に2回目の急停止、56秒に前進して22時16分9秒に3回目の急停止、18秒に前進して59秒に4回目の急停止。直後の22時17分2秒から5秒にかけて2回目のバックでの衝突があり、6秒にはそのままバックを続けてB車を押し、8秒にバックをやめました。
14秒に前進したA車は、34秒から35秒にかけて5回目の急停止をし、37秒から45秒にかけてバックして3回目の衝突をしました。50秒、A車はバックを止め、前に進もうとしています。
22時18分19秒、A車は画面から消え、22時20分6秒に再び現れます。22時21分3秒、A車は右折し、B車は直進しました。その後、A車は映像に出てきません。
数えると、急減速2回、急停止5回、バックでの衝突3回です。二審はこれを、22時14分17秒から22時17分45秒まで3分以上続いた危険な運転とまとめました。映像の中で、前にいたのはA車、後ろにいたのはB車です。
裁判所が使った証拠は、この映像だけではありません。新北地方検察署の検察官がA車とB車それぞれのドライブレコーダー映像を勘験した調書、B車の損傷写真、整備工場の見積書、警察の電話記録や事件受理の記録なども挙げられています。B車の損傷はフロント部分で、法廷の勘験で確かめたA車とB車の衝突位置と一致していました(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
「もう追ってくるなという意味だった」
A車の運転者は、B車とのトラブルがあったこと、判決の別表に整理された一連の運転をしたこと、B車が損傷したことは争いませんでした。否定したのは、それが犯罪になるという点です。一審では、B車の方が先にあおってきた(逼車)ので怖くなり、身を守るためにやったことだと説明しました。バックについても、ゆっくりした速度でB車を押しただけで、もうあおるなという警告が目的だった、あの速度ならB車が壊れることはない、と述べています(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
二審判決は、控訴理由を次のように要約しています。文中の「告訴人」はB車の運転者です(臺灣高等法院114年度上訴字第3183號刑事判決、2025年11月12日)。
否認犯罪,我是正當防衛,從影像資料可知,我只是想脫離告訴人車輛。告訴人對我按喇叭、閃燈,我不理會繼續高速行駛,告訴人開始追我、用燈照我,造成心理恐懼,我擺脫不了告訴人,就減速停車,輕輕碰告訴人車輛,意思是請他不要追了,如果繼續追,我會用車去撞,沒想到告訴人一直追到萬華
(犯罪は否認する。私は正当防衛だ。映像を見れば、私が告訴人の車から離れようとしていただけだと分かる。告訴人は私にクラクションを鳴らし、ライトを点滅させた。私は相手にせず高速で走り続けたが、告訴人は追いかけてきてライトで私を照らし、私は怖くなった。振り切れなかったので、減速して停車し、告訴人の車に軽く当てた。もう追ってこないでほしいという意味で、このまま追ってくるなら車でぶつける、ということだった。ところが告訴人は萬華までずっと追ってきた)
これはA車の運転者の言い分で、裁判所が認めた事実ではありません。萬華まで追ってきたという部分を、判決は取り上げていません。勘験された映像に記録されているのは、22時21分3秒に2台が別々の方向へ進み、その後A車が映らなくなったところまでです。
B車の運転者の説明は違います。警察と検察では、A車の車線変更でぶつかりそうになったのでパッシングした、その後A車が前を走り、急停止やあおり、バックでの衝突を何度も繰り返したので危険を感じた、1車線しかないランプでは行く手をふさがれた、と述べました。あおられたときにはすぐ警察に通報したとも話しています。
A車の運転者の側も、B車の運転者を公衆往来安全妨害、強制、脅迫(恐嚇)の疑いで告訴していました。新北地方検察署の検察官は、犯罪の嫌疑が不十分だとしてこれを不起訴処分にしています(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
クラクションとパッシングは「侵害」だったのか
刑法23条は、現在の不法な侵害(現在不法之侵害)に対して、自分や他人の権利を守るためにした行為を罰しないと定めています。新北地方法院は、ここでいう不法な侵害は客観的に違法な行為でなければならず、現在の不法な侵害を排除するために必要な反撃でなければ防衛を主張する余地はない、という前提から検討しました。
判決はまず、A車の運転者による告訴が不起訴で終わっていることに触れました。そのうえで勘験の結果から、二つの点を指摘しています。一つは位置です。前を走っていたのはA車で、B車は後ろにいました。本件の勘験結果から、裁判所はB車がA車の自由な走行を妨げていたとは認めませんでした。もう一つは順番です。A車の危険な運転は、B車がクラクションで警告した直後に、間を置かずに始まっていました。B車のあおりに対応したというA車側の説明とは合わない、という判断です。
さらに一審は、クラクションはせいぜい前の車への警告にすぎず、正当防衛でいう現在の不法な侵害とは明らかに違うとしました。B車の運転者が、あおられてすぐ警察に通報したと警察で話していたことも、検察官の勘験調書にある録音の書き起こしで裏付けられていました。一審はこれらを総合して、B車の運転者による現在の不法な侵害があったことを示す証拠はないと結論づけています(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
二審は、パッシングも含めて次のように書きました(臺灣高等法院114年度上訴字第3183號刑事判決、2025年11月12日)。
告訴人所為鳴按喇叭、閃大燈之行為至多僅為向前車示警,核與刑法上正當防衛所稱「現在不法侵害行為」有間
(告訴人がクラクションを鳴らし、ハイビームを点滅させた行為は、せいぜい前の車への警告にすぎず、刑法上の正当防衛でいう「現在の不法な侵害行為」とは異なる)
そして、あおられて正当防衛としてやったという主張を、「臨訟卸責之詞」(裁判になってから責任を逃れようとして持ち出した言い分)だとして退けました。
判決が明示しているわけではありませんが、勘験記録の時刻を並べると、B車のパッシング(22時14分22秒から23秒)は、A車の1回目の急減速(22時14分17秒)より後に記録されています。
車線の上で止まり、下がることが「他法」になる
刑法185条1項は、道路や橋など公衆が行き来する設備を壊したりふさいだりすること、または「他法」(その他の方法)によって往来の危険を生じさせることを罰します。法定刑は5年以下の有期徒刑、拘役または罰金です。
新北地方法院は、この罪には具体的な危険が必要だが、実際に事故が起きることまでは必要ないと説明しました。人や車が通れない、あるいは通りにくくなり、無理に通れば危険が生じうる状態が客観的に生まれれば足ります。そして最高法院の判決(101年度台上字第2375號、104年度台上字第1101號)の趣旨を引き、次のように述べています(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
持續性之危險駕駛行為極易導致往來人車通行失控,使車禍之發生及造成傷亡之危險均大幅增加,對於其他用路之車輛、行人造成嚴重之妨害,而有具體之危險性,自屬該罪所稱之「他法」
(継続的な危険運転は、行き交う人や車が制御を失う事態を極めて招きやすく、事故の発生や死傷の危険を大きく高め、ほかの車両や歩行者に深刻な妨げとなる具体的な危険性を持つものであり、当然に同罪のいう「他法」に当たる)
A車の運転を測る物差しとして、裁判所は道路交通安全規則94条を引きました。2項は、突発的な状況で減速しなければならない場合を除き、むやみに急減速や急ブレーキをしたり、車線の中で停止したりしてはならないと定めています。前の車が減速・停止する必要があるときは、あらかじめ灯火や手信号で後ろの車に知らせなければならず、後ろの車の運転者は前の車の動きに常に注意しなければならない、とも書かれています。3項は、蛇行運転やその他の危険な方法での運転を禁じています。判決は、A車の運転がこの2項と3項に明らかに違反すると述べました。
場所と時間帯も判断に入っています。現場は車が速い流れで行き交う快速道路で、夜ではあっても、映像のスクリーンショットからほかの車が走っていたことが分かる。そこで急減速、急停止、バックでの衝突を繰り返したのだから、客観的に公衆の往来に危険を生じさせたことは疑いない、とされました。
故意については、こう判断しています。運転経験の長い大人であれば、後ろのB車がよけきれずに衝突して制御を失い、快速道路を走るほかの車まで衝突の危険にさらされることも、たとえ2台がぶつからなくても、ほかの運転者が慌てて制御を失ったり、よけきれずブレーキも間に合わずにぶつかったりしうることも、知らなかったとは言えない。それにもかかわらず、クラクションを鳴らされた不満だけで危険な運転をした。裁判所はこう述べて、公衆往来安全妨害の故意を認めました。
同じ運転は、刑法304条1項の強制罪と刑法354条の毀損罪にも当たるとされました。急停止もバックも車に向けた行為で、B車の運転者に直接向けられたものではありません。それでも客観的にはB車の運転者に心理的な強制を及ぼすもので、道路を走る権利を妨げたと判断されています。バックはゆっくりだったという主張も、実際に衝突が起きていること、同じ箇所に3回もバックでぶつけていることから、バンパーなどを傷つけることは分かっていたはずだとして退けられました。
10回の行為は、同じ機会に、時間と場所を接して行われ、同じ法益を侵害したとして、まとめて一つの罪(接続犯)とされました。さらに、一つの行為で三つの罪に触れる想像競合犯として、最も重い公衆往来安全妨害罪で処断されています(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
有期徒刑5か月、二審も維持
一審は、運転トラブルだけを理由に危険な運転に及び、快速道路を走るほかの車に深刻な危険を生じさせたこと、B車の運転者が道路を走る権利を妨げ、車を損傷させたことを挙げて、非難に値するとしました。そのうえで、素行、犯行を認めなかった態度、動機・手段・目的・生じた危害、本人の個人的な事情、B車の運転者と和解できず、賠償もしておらず、許しも得ていないこと、検察官・被告人・告訴人の意見を併せて考え、有期徒刑5か月を言い渡しました。易科罰金の基準は1日1,000台湾ドルです(臺灣新北地方法院113年度訴字第513號刑事判決、2025年3月25日)。
刑法41条は、法定刑の上限が5年以下の有期徒刑にとどまる罪で、6か月以下の有期徒刑または拘役(短期の自由刑)を言い渡された場合、1日を1,000、2,000、3,000台湾ドルのいずれかで換算して罰金を納める「易科罰金」ができると定めています。ただし、易科罰金では矯正の効果を上げにくい場合や、法秩序を維持しにくい場合は除かれます。本件の基準は、三つのうち最も低い額でした。
二審の台湾高等法院は、一審判決の事実・証拠・理由を引用したうえで、控訴に対する理由を補足しました。量刑については、一審が行為者の責任を基礎に刑法57条の各事情を詳しく考慮しており、法律の範囲を超えても、権限を濫用してもいないとして、その判断を尊重しています。無罪を求めた控訴は理由がないとして棄却されました(臺灣高等法院114年度上訴字第3183號刑事判決、2025年11月12日)。
| 審級 | 裁判所・事件番号 | 判決日 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 一審 | 臺灣新北地方法院113年度訴字第513號 | 2025年3月25日 | 公衆往来安全妨害罪(強制罪・毀損罪も成立し、最も重い罪で処断)、有期徒刑5か月、易科罰金1日1,000台湾ドル |
| 二審 | 臺灣高等法院114年度上訴字第3183號 | 2025年11月12日 | 被告人の控訴を棄却、一審判決を維持 |
二審判決の末尾には、送達を受けてから20日以内に上訴状を提出できるという案内が付いています。その後に上告があったのか、判決が確定したのかは、この判決文からは分かりません。
2秒のクラクションと2秒のパッシング、裁判所が判断した範囲
裁判所が判断したのは、本件の記録の中に、B車の運転者による現在の不法な侵害を示す証拠がないということです。勘験記録に出てくるB車の行動は、約2秒のクラクションと、約2秒のパッシングにクラクション1回でした。クラクションやパッシングならどんな場合でも問題にならない、あるいは後ろの車が何をしても前の車は正当防衛を主張できない、と述べた判決ではありません。
B車の修理費などの民事上の賠償額は、この刑事判決では決まっていません。見積書の金額も判決文には出てきません。賠償については、一審が量刑の事情として、まだ賠償していないことに触れているだけです。
行政上の処分も、刑事裁判とは別の手続きです。道路交通管理處罰條例43条は1項4号で、突発的な状況でもないのに走行中にむやみに急減速・急ブレーキをしたり、車線の中で停止したりした運転者に、現行(2023年6月30日施行)の基準で6,000〜3万6,000台湾ドルの罰鍰(行政上の制裁金)とその場での運転禁止を定め、4項ではナンバープレートの6か月の吊扣(一時取り上げ)も定めています。本件があった2023年1月当時の上限は2万4,000台湾ドルでした。二つの判決はこの条文に言及しておらず、本件でこうした処分が出たかどうかも分かりません。条文の内容は参考として挙げるものです。
問われたのは、前を走る車がしたこと
この事件で刑事責任を問われたのは、後ろの車のクラクションではなく、その後に前の車が車線の上でしたことでした。警告のつもりだった、軽く当てただけ、ゆっくり押しただけ。A車の運転者のこうした説明は、一審でも二審でも結論を変えていません。
台湾で車を運転する人が、この判決から具体的に読み取れることもあります。裁判所が物差しにした道路交通安全規則94条2項は、突発的な状況を除いて急減速、急ブレーキ、車線内での停止を禁じ、減速・停止が必要なときはあらかじめ灯火や手信号で後ろに知らせなければならないとしています。後ろの車に何かを伝えるための停止やバックは、この判決では、同条の2項と3項に反する危険な運転として扱われました。
もう一つは記録です。どちらが先に動いたのかは、B車のドライブレコーダーの秒単位の時刻で判断されました。危険を感じたB車の運転者はすぐ警察に通報したと話し、その話は録音の書き起こしで裏付けられて、正当防衛の主張を退ける材料の一つになりました。A車の運転者は追われて怖かったと訴えましたが、記録が裏付けたのは、前の車が自分から危険な運転をしてきたというB車の運転者の説明の方でした。
出典
判決
法令
- 中華民國刑法第23條
- 中華民國刑法第41條
- 中華民國刑法第57條
- 中華民國刑法第185條
- 中華民國刑法第304條
- 中華民國刑法第354條
- 道路交通安全規則第94條
- 道路交通管理處罰條例第43條(参考。両判決とも適用していません)
- 道路交通管理處罰條例第43條(2021年1月20日公布、同年6月1日施行の版。本件当時の条文)
この記事は、台湾の公開判決文と法令をもとに作成しました。資料確認日:2026年10月3日。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



