日本で車同士の物損事故を起こせば、警察に連絡するのが普通です。台湾でも同じでしょうか。
原則は同じです。日本の道路交通法第72条第1項は、交通事故の運転者に、事故の日時と場所、死傷者の数に加えて「損壊した物及びその損壊の程度」まで警察官に報告するよう定めています。物損だけの事故も報告の対象です。台湾の道路交通事故処理弁法(道路交通事故處理辦法)第3条第1項第5号も、警察に知らせて調査に協力することを原則にしています。ただ、けが人も死者もなく、当事者がその場で和解したときは、この通知が要りません。
写真で「標繪」してから動かす
けが人がなく車が自走できる事故では、車の位置と現場の痕跡を先に記録し、交通の妨げにならない場所へ車を移します(同条第1項第4号)。この記録(標繪)は、写真や動画で行ってかまいません(同条第2項)。
車道や路肩での事故なら、三角表示板などの警告設備を後方に置き、現場が片づいたら撤去します(同条第1項第1号)。距離は第4条で決まっていて、制限速度50キロ以下の道路なら30メートル、高速公路(高速道路)なら100メートルです。雨や霧で見通しが悪いときは、さらに離します。
規則どおりにしなかったときの罰則は道路交通管理処罰条例(道路交通管理處罰條例)第62条にあります。けが人のない事故を規定どおりに処理しなければ第1項で1,000〜3,000台湾ドルの罰鍰、逃げれば運転免許の停止1〜3か月が加わります。車が動くのに位置を記録して路肩へ速やかに移さず、交通を妨げた場合は、第2項で運転者に600〜1,800台湾ドルです。
その場の示談と保険会社
警察を呼ばずに和解すると、警察の資料は残りません。当事者登記聯単、7日後から申請できる現場図と現場写真、30日後の初歩分析研判表は、どれも警察が処理した事故の資料です(処理弁法第13条)。申請の時期と方法は台湾の交通事故、警察の書類はいつから申請できるかにまとめています。警察が来ていても、その場で調査記録を作れなかったり作るのが適当でなかったりしたときは、事故の日かその事情がなくなった日から7日以内に担当部署へ連絡し、記録を補います(第10条第3項)。
保険の側にも条件があります。事故を知ってからの保険会社への通知期限は、法律や契約に別の定めがなければ5日です(台湾の保険法第58条)。そして第93条は、被保険人が保険会社の関与なしに第三者に対してした責任の承認・和解・賠償に、保険会社が拘束されない旨を約定することを認めています。その場で非を認めて金額まで決めてしまうと、保険契約にこの条項がある場合、保険会社はその金額どおりには支払わないかもしれません。保険会社に通知して関与を求めたのに、正当な理由なく断られたり引き延ばされたりしたときは、和解に拘束されます。
修理代から引かれる減価
修理代の根拠は民法第196条です。物を壊された人は、壊れたことで減った価額の賠償を求めることができます。原状回復に必要な費用を金銭で請求する道は第213条第3項にあります。
計算の実際は、基隆地方法院基隆簡易庭の114年度基小字第952号少額民事判決(2025年6月18日、第一審)でわかります。交差点でバイクが導引線の表示に注意しないまま対向車線へ左折し、直進してきた乗用車とぶつかった事故で、乗用車の車両保険(車體損失險)を引き受けた保険会社が修理代51,894台湾ドル(工賃16,960、部品34,934)を払ったあと、バイクの運転者に請求しました。
裁判所は、保険会社の代位請求(保険法第53条第1項)は債権の移転なので、被保険者がもともと請求できた額が上限だとしました。そのうえで、古い部品を新品に替えた分は減価すべきだとしています。出荷から事故まで4年11か月あまり。行政院の固定資産耐用年数表で耐用年数5年、定率法で毎年0.369を償却すると、部品代は3,494台湾ドルまで下がります。これに工賃16,960台湾ドルを足した20,454台湾ドルが認容額です。バイクの運転者の上訴は、同じ法院の114年度小上字第27号裁定(2025年9月23日)で却下され、この裁定には不服を申し立てられません。
動かしたあとで損傷を否定されたら
車を動かしたあと、相手が「その傷は前からあった」と言い出すこともあります。桃園地方法院の114年度小上字第37号判決(2025年9月30日、少額事件の第二審で、これ以上上訴できません)は、病院の駐車場で後退中の営業車が止まっていた車の右前バンパーに接触した事故です。修理は53日後でした。裁判所は事故当日の夜にメッセージアプリで送られた写真が衝突位置と合うとして修理代を認め、位置の合わない左前フェンダーの修理と塗装だけを外しました。
過失の立証では、運転者の側が不利な位置から始まります。民法第191条の2は、動力車両の使用中に他人に損害を与えた運転者に賠償を命じ、損害を防ぐために相当の注意を尽くしたと示せた場合だけ責任を免れるとしています。被害者にも過失があれば、裁判所は賠償額を減らすか、免除することができます(第217条第1項)。
帰国が迫っているとき
損害賠償の請求権は、損害と賠償義務者を知った時から2年、事故から10年で消えます(民法第197条第1項)。上の二つの判決はどちらも少額事件で、10万台湾ドル以下の請求はこの手続になります(民事訴訟法第436条の8)。日本に戻ったあとに第一審判決への上訴を考えるときの期限は、台湾の少額訴訟判決に海外から上訴するときで説明しました。
帰国の日が決まっているなら、その前に台湾の弁護士に頼みたいことは二つです。警察資料(現場図・初歩分析研判表)の申請と、その場で書いた和解書やメッセージが何を認めたことになるかの確認です。日本に戻ったあとも、委任状があれば、相手方の見積書と事故当日の写真の照合、少額訴訟の提起、保険会社からの代位請求への応訴を任せられます。民事事件のご相談はwei@hoveringlaw.com.twへ。昊鼎国際法律事務所の台北事務所は台北市大同区承徳路一段35号7階の2(臺北市大同區承德路一段35號7樓之2)にあります。
日本の第72条は、物損だけの事故でも警察官への報告を求めています。台湾で警察に知らせずに済むのは、けが人がなく、その場で当事者が和解したときだけです。和解するかどうかにかかわらず、記録して車をどかす手順が先に来ます。
参考にした資料
確認日:2026年10月28日。
- 道路交通管理処罰条例(道路交通管理處罰條例)第62条
- 道路交通事故処理弁法(道路交通事故處理辦法)第3条
- 道路交通事故処理弁法第4条
- 道路交通事故処理弁法第10条
- 道路交通事故処理弁法第13条
- 民法第191条の2
- 民法第196条
- 民法第197条
- 民法第213条
- 民法第216条
- 民法第217条
- 保険法(保險法)第53条
- 保険法第58条
- 保険法第93条
- 民事訴訟法第436条の8
- 民事訴訟法第436条の24
- 司法院裁判書検索:臺灣基隆地方法院基隆簡易庭114年度基小字第952號小額民事判決(2025年6月18日、第一審)、臺灣基隆地方法院114年度小上字第27號民事裁定(2025年9月23日、上訴却下)
- 司法院裁判書検索:臺灣桃園地方法院114年度小上字第37號民事判決(2025年9月30日、少額事件第二審、上訴不可)
- e-Gov法令検索:道路交通法(昭和35年法律第105号)第72条
よくある質問
- 警察を呼ばずにその場で示談した場合、あとから警察の書類をもらえますか。
- 警察が処理していない事故には、警察の資料は作られません(道路交通事故処理弁法第13条)。あとで相手が損傷や過失を争ったときに使えるのは、自分で撮った写真や動画、ドライブレコーダーの映像、相手とのやり取りの記録が中心になります。
- 修理代の見積額を全部請求できないのはなぜですか。
- 民法第196条は、物を壊された人に、壊れたことで減った価額の賠償を認めています。裁判所はこれを修理費で測りつつ、必要な範囲に限り、古い部品を新品に替えた分は減価を差し引きます。基隆地方法院の判決(114年度基小字第952号)では、使用4年11か月の車の部品代34,934台湾ドルが、耐用年数5年・定率法で3,494台湾ドルとされました。工賃は差し引かれていません。代車費用や修理後の評価額の下落は別の損害で、実際に生じたことを示す必要があります(民法第216条)。
- 請求額が少ないとき、裁判はどの手続になりますか。
- 10万台湾ドル以下の金銭請求は少額訴訟手続で、50万台湾ドル以下なら当事者が書面で合意すれば少額手続を使えます(民事訴訟法第436条の8)。少額事件の第一審判決には、法令違反を理由にしなければ上訴できません(民事訴訟法第436条の24第2項)。海外から上訴するときの期限は別のコラムで扱っています。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



