2023年7月3日正午、国道1号の南行き、泰山から林口・亀山へ向かう区間。白い乗用車は、黒い乗用車の後ろを走っていました。白い車のドライブレコーダーは12時00分00秒に時速89キロ、02秒からは101キロを表示します。白い車が左の車線へ移ると、右前方の黒い車も左ウインカーを出しました。白い車は減速せず、表示は123キロ。08秒には両車がさらに内側の車線へ移り、09秒に衝突しました。一審が白い車の映像を調べて記した場面です。臺灣新北地方法院113年度訴字第756號刑事判決(2025年4月30日)
ところが、白い車の運転者は最高法院への上訴で、極端な速度の数字はすべて黒い車のドラレコに出たものだと争いました。相手の猛スピードを根拠に、自分まで競い合っていたと推定してよいのか。この反論に対し、判決が参照したのは、2台それぞれの映像と、その中で入れ替わる車の位置でした。最高法院115年度台上字第2709號刑事判決(2026年8月27日)
151キロの画面に、もう1台が戻ってくる
裁判所が映像を直接確認する手続きは、台湾の判決では「勘驗」と記されます。この事件では両車のドラレコが調べられました。一審は、11時56分48秒から11時58分41秒までの間に、黒い車が少なくとも7回車線を変え、時速127キロ、151キロで走ったと認定しています。その区間の制限速度は100キロでした。
台湾高等法院(以下、高裁)の勘驗記録では、11時58分04秒、黒い車の右側に白い車が現れます。黒い車は加速し、08秒には表示116キロで白い車を追い越し、21秒に151キロ。28秒には白い車が左側に現れ、続けて車線を移り、33秒には黒い車の前を走っています。40秒には白い車がハザードランプを点滅させ、ブレーキ灯が点灯。41秒にもブレーキ灯が点きました。臺灣高等法院114年度上訴字第5220號刑事判決(2026年2月25日)
ここでの151キロは、黒い車のドラレコに表示された値です。白い車を直接測った数字として読むことはできません。それでも、高速で走る黒い車の前に白い車が出てくる動きは映っています。最高法院は、黒い車の映像に残る相互の追走からも、白い車の速度は黒い車に劣らなかったはずだとする推論を示しました。速度表示の出所と、映像からの推論は、判決を読む際にも分けておきたいところです。
白い車自身の記録もありました。高裁は、白い車側が出した別の映像について、11時56分59秒に102キロ、11時57分05秒に125キロと記しています。黒い車が前に戻った後、白い車が加速して追いついたと判断しました。さらに、冒頭の正午の速度は一審が白い車の映像から認定したものです。相手のドラレコで自分の速度を決めた、という白い車側の主張を、高裁は誤解だと退けています。
判決には時刻表記のずれもあります。一審の黒い車の映像欄は接触を12時00分07秒とする一方、白い車の映像欄は09秒と記しています。本稿の冒頭は後者に沿ったものです。別々の記録を、秒単位で完全に一致した一つの映像のようには扱えません。
41B出口へそれても、追走は続いていたのか
白い車側は、黒い車が41B出口の導流帯や路肩に入った段階で、高速道路から実質的に離れ、先ほどのもめ事は終わったと認識した、と主張しました。その後に黒い車が本線へ戻って衝突したのであって、追走が続いていたわけではない、という説明です(最高法院判決)。
高裁の記録では、11時58分51秒、黒い車は前方の大型トラックを避けるように右の路肩へ進み、導流帯を通って41B出口方向へ走ります。54秒にはランプの制限速度50キロの標識が映り、ドラレコの表示は103キロでした。しかし、11時59分12秒の記録には、黒い車は右の出口から下りず南へ進んだとあります。そして21秒、左側に白い車が再び現れました。
高裁は、本線にいた白い車が黒い車を追い続け、追い越して前で2回ブレーキをかけ、本線への再合流時にも脇にいたことを重視しました。2台の動きは時間と場所の両面で強くつながっている、という判断です。道路が一時的に分かれたという説明だけでは、この連続した動きを説明できないとしたのです。最高法院もこの認定に経験則・論理則に反する点はないと判断しました。
黒い車側にも言い分がありました。急いでいて空いている車線へ移っただけで、面識のない相手とたまたま同じ経路を走ったにすぎない、と控訴しています。高裁は、車線変更をめぐるトラブル後に、2台が前後を入れ替えながら追い越しを続けた経過と合わないとして退けました。
ブレーキ灯だけでは、踏んだ理由まで映らない
白い車側は、前の車列が減速したので安全な車間を保つためにブレーキをかけた、とも主張しました。カメラの誤差や死角を無視して、故意に相手を妨害したと決めつけている、という反論です(最高法院判決)。
ブレーキ灯が点いたことと、なぜ踏んだかは別の問題です。高裁は、この場面で前方の渋滞のため短時間に続けて急停止する必要があったという証拠はないと判断しました。白い車が相手を追い越して前へ出て、2回ブレーキをかけた動きを、それまでの追走と結びつけています。最高法院は、衝突直前にも白い車が黒い車の車線変更を見ながら減速せず走り続けた点を挙げ、この説明を支持しました。死角が一般に存在し得ることだけで、その場面の認定が覆ったわけではありません。
速度表示の誤差を争ったのは、黒い車側も同じです。衛星との信号のやり取りや橋・高架の影響で表示が正確とは限らない、と主張しました。高裁は、当該機器の値を採用できない具体的な理由や資料が示されていないと指摘し、しかも相互の追走という映像上の動きもあるとして、反論を退けています。すべてのドラレコに誤差がないと認定した判決ではありません。
道路側の監視カメラについて、白い車側は映像が計11秒で、並走や同じ車線での追走は映っていないと主張しました。高裁は両車のドラレコを含む証拠を検討し、無罪の主張を採りませんでした。道路側の映像をもう一度調べるよう求めた弁護側の申立ても、一審が2025年3月19日に勘驗済みで、その勘驗のどこに問題があるか示されていないとして退けました。
争ったのは2台でも、危険は2台の中に収まらない
白い車側はさらに、台湾刑法185条が守るのは不特定の公衆であり、ほかの車は普通に走っていたのだから、この罪には当たらないと主張しました。道路をふさいだり、通行をまひさせたりするほどではなかった、という言い分です。「道路に2台しかいなかった」という事実認定ではありません。判決は、当時の道路に車が多く、前後の間隔も広くなかったと記しています(最高法院判決)。
両運転者に適用されたのは、公衆往来安全妨害罪(妨害公眾往來安全罪)です(一審判決)。台湾刑法185条1項は、道路などを壊したりふさいだりする場合に加え、その他の方法で往来に危険を生じさせる行為も処罰します。法定刑は5年以下の有期徒刑、拘役、または1万5,000台湾元以下の罰金です。
一審は、高速で追いかけ合い、追い越し、進路を妨げる運転も、この「その他の方法」に含まれると説明しました。ただし、犯罪の成立には具体的な危険が必要です。実際に第三者へ被害が出たことまでは必要なく、客観的にいつ事故が起きてもおかしくない危険な状態に至っていればよい、という判断です。この事件では、速度超過と車線変更、安全な車間を欠く追走が重なり、最後には2台が衝突して車両も損傷しました。ほかの車が避けたり急停止したりする様子が映っていない、という反論は認められませんでした。
だからといって、速度超過や車線変更があれば、すべて185条違反になるという話でもありません。一審が刑事処罰の理由としたのは、この運転の連続が周囲の人や車に及ぼす具体的な危険です。衝突した2台のどちらが先に車線へ入ったか、という一点だけで判断した事件ではありません。
2人に5か月、最高法院が退けた上訴
新北地方法院は2人にそれぞれ有期徒刑5か月を言い渡しました。易科罰金、つまり刑の執行を金銭の納付で代える場合の換算額は、1日につき1,000台湾元です。高裁は両者の控訴を棄却しました。最高法院判決には黒い車側はすでに高裁で有罪が確定したと記され、同院が審理したのは白い車側の上訴でした。
| 裁判所 | 事件番号 | 判決日 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 新北地方法院 | 113年度訴字第756號 | 2025年4月30日 | 両者に有期徒刑5か月。易科罰金は各1日1,000台湾元 |
| 台湾高等法院 | 114年度上訴字第5220號 | 2026年2月25日 | 両者の控訴を棄却、一審を維持 |
| 最高法院 | 115年度台上字第2709號 | 2026年8月27日 | 白い車側の上訴を、法定の方式に適合しないとして棄却 |
表の出典:臺灣新北地方法院113年度訴字第756號刑事判決(2025年4月30日)、臺灣高等法院114年度上訴字第5220號刑事判決(2026年2月25日)、最高法院115年度台上字第2709號刑事判決(2026年8月27日)
5か月という刑を決める際には、高速で流れる車の間で互いへの不満から危険な運転を繰り返したこと、犯行を否認する態度を有利に評価できないこと、動機・手段・危険の程度や各人の事情が考慮されています(高等法院判決)。
易科罰金は、この事件で別途1,000台湾元の罰金が科されたという意味ではありません。制度の背景となる台湾刑法41条1項は、法定の最も重い刑が5年以下の有期徒刑以下で、6か月以下の有期徒刑または拘役を言い渡された場合、1日1,000・2,000・3,000台湾元での換算を認めます。ただし、矯正の効果を得にくい場合や法秩序の維持が困難な場合は除かれます。実際にこの2人が納付したかは、3件の判決からは分かりません。
最高法院は映像を一から評価し直したわけではありません。第三審への上訴には原判決の法令違反を具体的に示す必要があり、白い車側の主張は原審での説明の繰り返しや事実認定への不服にとどまるとして退けました。相手のドラレコさえあれば自車の正確な速度を認定できる、という一般原則を打ち出した判決とは読めません。
台湾で自分の走行映像を証拠にする際、この事件から参考になるのは、衝突前後の経過と、どの車の記録なのかを一緒に残しておくことです。白い車が提出した映像には、黒い車に先を越されブレーキをかけられた場面も、その後に白い車が加速した場面もありました。誤差を争うなら、問題だとする表示やその理由を具体的に示すことにも意味があります。いずれも高裁の証拠の読み方から導ける対応であり、映像の保存方法を命じた判決ではありません。
なお、この3件が判断したのは刑事責任です。警察の違反通知書は証拠として出てきますが、行政上の制裁金の確定額や免許・ナンバープレートの処分結果、民事の修理費や過失割合までは示されていません。ここに書かれている5か月と1日1,000台湾元から、それらの結論を推測することはできません。
出典
判決
- 臺灣新北地方法院113年度訴字第756號刑事判決(2025年4月30日)
- 臺灣高等法院114年度上訴字第5220號刑事判決(2026年2月25日)
- 最高法院115年度台上字第2709號刑事判決(2026年8月27日)
法令
- 中華民國刑法185条
- 中華民國刑法41条(易科罰金制度の背景)
この記事は公開判決文と法令をもとに作成しました。資料確認日:2026年10月3日。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



