台湾の科学園区への入居は、空いている工場を借りるだけでは決まりません。半導体装置の開発、材料の製造、顧客向けの技術サービスなど、台湾拠点が何を行うかによって申請する事業区分が変わり、管理局の審査を受けます。根拠となるのは、科學園區設置管理條例の第4条と第5条です。
2026年10月4日時点で、同条例の最終改正日は2018年6月6日です。本文には主管機関として「科技部」と残っていますが、法令沿革にある2022年7月27日の管轄変更により、現在は國家科學及技術委員會(国科会)が担当します。新竹・中部・南部の各管理局への相談では、候補の園区名に加え、台湾で行う製造・研究・販売・保守の範囲を示すことになります。
研究開発拠点と販売拠点では、審査の出発点が違う
条例第4条の「科學事業」は、園区内で高度技術の製品・サービスの開発、製造、研究開発を行う承認を受けた事業です。法令に従って設立され、または認許を受けた会社、支店その他の事業組織であることが要件です。投資計画についても、台湾の産業発展に沿い、中華民国籍の科学技術者(条文の「本國科學技術人員」)を多く雇用するか育成できること、研究開発費が売上高の一定割合以上を占めることが求められます。さらに、設計能力と全体的な開発計画、製品・サービスの成長段階、革新の可能性など、同条の六つの条件の少なくとも一つに該当しなければなりません。園区への移転と登記には、後述する園區事業投資計畫管理辦法第2条により、投資承認後の期限が別途設けられています。
日本本社に研究所があるという説明だけでは、台湾拠点の計画は分かりません。装置メーカーなら台湾で行う評価試験や改良設計、材料メーカーなら試作と製造の範囲、それに必要な技術者と費用を分けて記載すると、申請事業の内容を示せます。これは計画書の組み立て方の例であり、特定の業務を加えれば承認されるという基準ではありません。
条例第5条は、科學事業のほか、科學事業に運営・管理・技術サービスを提供する承認を受けた事業も「園區事業」に含めます。商社の営業所や保守拠点を検討する場合、顧客が半導体企業だから科學事業に該当するとは判断できません。販売の仲介、在庫保管、修理、技術支援のどこまでを担うのかを説明し、申請区分を管理局と協議する必要があります。
台湾法人と支店の選択は、事業区分とは別の検討です。契約主体や本社の責任範囲などは、半導体部品企業の台湾進出と拠点形態で扱っています。
三つの管理局の申請資料と審査の流れ
三つの管理局には共通の法的枠組みがありますが、提出資料を他の園区からそのまま流用できるとは限りません。2026年10月4日に確認した各管理局の案内には、次の違いがあります。
| 管理局 | 公式案内で確認できる申請資料・相談事項 |
|---|---|
| 新竹科學園區管理局 | 投資申請案内は、投資組との事前相談、技術・チームの初期評価、具体的な事業計画の準備を示しています。汚染物質の総量予測表は、新竹、竹南、銅鑼など候補地別に用意されています。 |
| 中部科學園區管理局 | 投資申請與審核では、事業計画に加え、緊急対応、汚染総量、水・電力の計画を案内しています。用地・標準工場の賃借状況は建管組の意見を求める扱いです。 |
| 南部科學園區管理局 | 投資申請案内は、科學事業とそれ以外の園區事業の様式を分けています。汚染防止計画書も台南・高雄、橋頭、嘉義、屏東などで分かれています。 |
候補地を比べる資料には、顧客との距離だけでなく、台湾拠点に置く設備、使用する物質、水・電力の需要、排水・排気の見込みを含めると、立地と事業計画を一緒に協議できます。実際に購入する装置の仕様が未確定なら、確定値と見込み値を区別します。営業部門が想定する拠点と、設備部門が設計する拠点が違えば、同じ計画書の中で必要面積や電力の数字も食い違います。
国科会の「科學園區管理局投資審查作業要點」第3点は、科學事業の新設投資について、原則として三つの専門機関による書面評価と、その機関が推薦する委員による再審査を定めています。初期評価が全員一致の推薦なら、内部決裁を経て再審査会議を省略できます。その後、管理局の内部審査を通過した案件を園区審議会に提出します。運営・管理・技術サービス事業には、外部専門家等を含む会議による別の審査経路があります。
2026年10月4日に確認した新竹と中部の案内は、外国人・華僑の投資も園区審議会で併せて審査し、別途経済部へ申請する必要はないとしています。したがって、この園区投資手続と園区外での会社設立を同じ順序で扱うことはできません。日本側の出資者、出資方法、台湾での申請主体を明確にし、今回の案件をどの窓口が扱うかを確定させます。
審査期間の案内は、操業開始までの期間を示すものではありません。2026年10月時点の中部管理局の説明も、投資段階の汚染予測の審査と、設備の設置・操業に必要な環境関係の許可を分けています。日本本社への工程表では、投資承認、物件引渡し、必要な許認可、設備搬入、稼働を別の日程として置く方が、延期の影響を把握できます。
投資承認後は、保証金と登記の期限が進む
園區事業投資計畫管理辦法第2条は、承認日から2か月以内に投資保証金を納付するよう定めています。金額は、承認された会社資本金、支店の営業資金、または有限パートナーシップの出資総額の千分の三で、現金または政府債券で納付します。工事費や借入金を含むプロジェクト全体の予算に、一律に千分の三を掛ける規定ではありません。
園区に移転し、会社・支店等の登記を済ませる期限は、承認日から6か月以内です。同規則第2条第2項は、この期限までに移転・登記を終えない場合、管理局が投資承認を廃止できると定めています。
保証金の未納については、条例第11条第1項が、規定どおりに納付しない場合は投資承認を廃止すると定めています。管理辦法第2条第2項も、2か月の期限までに完納しない場合を「廃止できる」対象に含めていますが、保証金不納付を裁量による廃止だけの問題として扱うことはできません。同項は、正当な理由がある場合の期限延長申請を認めています。延長は自動ではないため、本社の送金決裁、賃貸借、登記に必要な書類がいつそろうかを、承認日を起点に管理します。
保証金は入区の手数料とは性質が異なります。同規則第3条では、投資計画を完成した事業者が完成評価と返還を申請できます。評価対象は資金の払込みだけでなく、製品・サービス、技術人材、研究開発、安全衛生・労働条件、環境保護等です。送金が終わった時点で当然に返還されるものではありません。
投資計画の完成期限は、同規則第4条により、園区に移転して登記を終えた日の翌日から原則3年です。期限前に延長を申請できますが、延長後も完成までの期間は最長6年です。正当な理由により期限までに完成できない場合、管理局は期限を定めて改善を通知します。管理局の個別審査で承認を得れば、さらに3年の延長が可能ですが、完成までの総期間は9年を超えられません。承認日から数える保証金・移転・登記の期限とは、起算日も目的も異なります。
土地の賃借と工場建物では権利関係が異なる
条例第13条は、園區事業が必要に応じて管理局に園区の土地の賃借を申請できると定めています。賃料のほか、公共施設の建設費用も負担します。第18条は、承認を得て自社で工場を建てる方法と、管理局が建設した工場を賃借・購入する仕組みを定めています。入区承認書だけで、希望する区画や床面積まで確保したとは扱えません。
土地を借りて自社工場を建てる場合は、土地の賃貸借と建物の工事契約を照合します。工事の開始条件、土地の引渡し、電力等の接続予定、遅延時の費用負担が別々に書かれていると、どの遅延を誰が負担するのか不明確になります。既存工場を借りる場合も、床荷重、搬入口、排気設備、使用できる物質などを、自社の工程と物件仕様に照らす作業が必要です。これらは個別物件の調査・契約事項であり、園区共通の設備保証ではありません。
既存の私有工場を取得する場面では、売主が建物を所有していることと、買主がそこで予定事業を営めることを分けます。条例第19条は、私有工場の譲渡について、承認を受けた園區事業や研究機関の使用に供することを原則としています。売買契約では、買主の事業承認、土地賃貸借の扱い、必要な許認可がそろわなかった場合の処理を定めることが検討対象になります。
2026年10月時点の南部管理局の投資案内は、土地・標準工場の賃料以外にも、管理費、下水道使用料、廃棄物処理費等を掲げています。物件の比較では、賃料だけを本社の固定費予算に載せず、当該物件の利用条件に応じた見積りを取る必要があります。空室、供給能力、適用賃料は候補地と申請時点で確認する事項です。
保税の開始条件と、顧客への納入時の扱い
2026年10月4日現在、科學園區保稅業務管理辦法の最終改正日は2024年5月7日です。第3条は、設立登記を済ませ、税関による承認と監督対象の公告を受けた後に、国外から保税貨物を輸入できると定めます。保税帳簿を設け、専任の担当者も置かなければなりません。日本からの装置出荷日は、投資承認日だけを根拠に確定できません。
登記前に輸入する必要がある場合には、同条に特別申請の経路があります。土地または工場の賃貸借契約等を添えて管理局へ申請し、通関前に輸入税額の保証金を税関に納付します。設立登記と税関の監督対象の公告を終えた後、税関に保証金の返還を申請する仕組みです。この保証金は、前述の投資計画の実施を担保する保証金とは別です。
条例第23条第1・2項は、園區事業が国外から輸入する自家用機械・設備や原材料等について、輸入税、貨物税、営業税の免除を定めています。ただし、自家用機械・設備を輸入後5年以内に課税区域へ搬出する場合は課税されます。原材料、資材(台湾法の「物料」)、燃料、半製品、サンプル、貿易用完成品は、課税区域への搬出時に課税される規定です。「台湾の顧客への納品だから国内配送」とだけ整理すると、こうした保税上の区分を落としてしまいます。
納入先も園區事業である場合は、保稅業務管理辦法第25条に、同じ園区または別の園区の事業者への保税貨物の売渡し手続があります。売主・買主が共同で申告書を作成し、必要書類を添えて売主側の税関で通関するのが原則です。同じ園区内の取引と、別の園区への取引では、月次申告等の扱いも条文上分かれています。取引先の住所だけでなく、その取引で用いる保税上の資格と納入場所を照合する必要があります。
仮に、実在しない日系材料メーカーが園区拠点から、園区内の工場と課税区域の工場へそれぞれ材料を売る計画を立てたとします。前者の保税取引と後者への搬出は、同じ納品処理にできません。社内で使う品目番号、所有者、在庫場所、出荷先、通関書類を結び付けて管理する方法が考えられます。これは架空の計画例であり、特定企業の物流や税務処理を示すものではありません。
帳簿管理は輸入品だけの問題でもありません。条例第26条は、国外・国内から購入した対象貨物や、製造した製品、廃品等について、入出庫数量と金額を帳簿に正確に記載するよう求めています。保守用の在庫を現場担当者が動かす運用なら、その移動を誰が記録し、保税担当者へ伝えるかまで設計しておく必要があります。
管理局との関係は、操業開始後も続く
条例第6条に定める管理局の所掌には、事業設立の審査、商工登記、建築管理、労働行政、環境保護等が含まれます。一方、第9条は、税務、税関、電力・給水等について、各主管機関が設置を承認した部門の業務を定めています。投資組との相談が進んでいても、税関の監督や設備に関する手続まで済んだことにはなりません。
日本本社が台湾拠点の製品や役割を変更するときも、その時点で管理局が承認している投資計画が基準になります。変更承認を受けた後は、変更後の計画に従います。園區事業投資計畫管理辦法第5条は、計画に従った経営を求め、延期や変更には事前に管理局の承認を得るよう定めています。変更案を本社で決裁する際に、現地の承認手続も工程に入れる必要があります。申請書、承認条件、賃貸借契約、設備計画、物流手順を担当部門ごとに分散させず、どの版の事業計画に基づくかを共有しておけば、変更の影響を追えます。
科学園区への進出や拠点契約について相談をご希望の場合は、昊鼎国際法律事務所のパートナー弁護士、曾雋崴(Wei Tseng)へ、まず機密情報を含まない概要をwei@hoveringlaw.com.twにお送りいただけます。台北事務所:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2。
参考資料
資料確認日:2026年10月4日(台湾時間)。法令は法務部・全國法規資料庫の現行条文と沿革、申請実務は各管理局の公開資料を参照しました。
- 法務部・科學園區設置管理條例・全文(最終改正2018年6月6日)、沿革(2022年7月27日の管轄変更を含む)。本文で参照した条文:第4条、第5条、第6条、第9条、第11条、第13条、第18条、第19条、第23条、第26条。
- 法務部・園區事業投資計畫管理辦法(最終改正2018年12月6日):第2条、第3条、第4条、第5条。保証金・登記、完成評価・完成期限、計画変更。
- 法務部・科學園區保稅業務管理辦法・全文(最終改正2024年5月7日)、第3条、第25条。輸入開始の条件、登記前の特別申請、園区事業者間の売買。
- 國家科學及技術委員會・國家科學及技術委員會科學園區管理局投資審查作業要點(2023年2月22日、南部管理局掲載)。第3点の新設投資審査。
- 新竹科學園區管理局・投資申請(2025年4月23日更新)。事前相談、必要書類、外国人投資の審査窓口。
- 中部科學園區管理局・投資申請與審核(2020年1月31日掲載、2026年7月7日更新)。申請資料、土地・工場、水・電力、環境手続、外国人投資。
- 南部科學園區管理局・投資申請(2026年7月8日更新)。事業区分別の申請書、候補地別の汚染防止計画、費用項目。
本稿は一般的な情報であり、個別案件への法律意見ではありません。資料最終確認日:2026年10月4日(台湾時間)。
よくある質問
- 半導体の顧客に納品していれば、販売拠点だけでも科学園区に入れますか。
- 取引先が半導体企業であることだけで入区資格は決まりません。科學園區設置管理條例第4条の科學事業に該当するか、第5条の運営・管理・技術サービスを提供する園區事業として申請するかを、台湾拠点の実際の業務に即して管理局と協議します。いずれも承認が必要です。
- 入区の投資承認が出れば、日本から保税扱いで装置を搬入できますか。
- 科學園區保稅業務管理辦法第3条では、原則として設立登記を済ませ、税関による承認・監督対象の公告を受けてから保税貨物を輸入します。登記前の特別申請もありますが、土地・工場の賃貸借契約等を提出し、輸入税額の保証金を税関に納める手続が必要です。
- 投資保証金の額と、承認後の登記期限はどう決まりますか。
- 園區事業投資計畫管理辦法第2条では、承認された会社資本金、支店の営業資金または有限パートナーシップの出資総額の千分の三を、承認日から2か月以内に現金または政府債券で納めます。園区への移転と登記は承認日から6か月以内です。正当な理由がある場合は期限延長を申請できます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。


