2025年6月3日、午前7時14分ごろ。台北市万華区の交差点で、乗用車が左のウインカーを出し、隣の車線を走る黒いSUVを先に通しました。続いて左後方から白い車が近づくと、乗用車はブレーキをかけて停止。約2秒後、白い車が通過すると再び走り出しました。すぐ後ろを走っていた車の映像が、この停止をめぐる通報の証拠になりました。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)
臺北市交通事件裁決所が科したのは、2万4,000台湾元の制裁金、道路交通安全講習、車のナンバープレートの6か月停止でした。運転者は取消しを求めて行政訴訟を起こし、一審で二つの処分がともに取り消されます。裁決所は上訴しましたが、二審も取消しを維持しました。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)
通報映像に残っていた、止まる前の速度
二審判決が紹介する一審の証拠調べは、通報者のドライブレコーダー映像を連続して切り出した画像に基づいています。画面時刻の07:14:42〜50、乗用車は左に移ろうとウインカーを出し、SUVを先に行かせていました。07:14:52〜53ごろには、左側の車線を後ろから来る白い車が接近し、乗用車が止まっています。
ここで裁判所が着目したのは、停止より前の動きです。後続車の画面に表示された速度は、すでに時速30キロ台から10キロ台へ下がっていました。これは乗用車そのものの速度を測った数値ではありません。それでも、すぐ後ろを走る車の記録から、乗用車が車線変更のため徐々に減速し、白い車との衝突を避けようとして止まった可能性を排除できない、と一審は判断しました。
白い車を通した後、乗用車は外側の車線をしばらく進み、左から近づく車がなくなってから、三つの車線を移って最も左の左折専用車線へ向かっています。通報者の車とは加速して距離を広げ、その後は再び止まったり進路をふさいだりしていませんでした。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)、理由四(二)
裁決所は、停止と左への車線変更をひと続きに捉えること自体がおかしい、と反論しました。その説明では、07:14:50の急ブレーキ後に右へ寄り、07:14:57には右のウインカーを点灯。100メートル近く進んで交差点を一つ過ぎ、07:15:06になって左のウインカーを出したので、別々の行為だというのです。また、外側の車線の前方は空いていたのだから、そのまま進んで機会を待てたはずで、急ブレーキは必要な方法ではなかったと主張しました。
この二審判決は、運転者の一審での主張については原判決を引用すると記すにとどまります。運転者がどのような言葉で説明したかを補うことはできません。また、裁決所が主張する停止時刻と、一審の認定として紹介された時刻も、同じものとして扱うべきではありません。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)、理由二・三
約2秒なら許される、という判決ではない
処分の根拠は、道路交通管理處罰條例43条1項4号です。突発的な状況でもないのに、走行中、むやみに急減速や制動をしたり、車線上で一時停止したりする行為を対象としています。同項の制裁金は6,000〜3万6,000台湾元で、その場で運転を禁止する規定もあります。さらに4項は、その車のナンバープレートを6か月停止する「吊扣」を定めています。ここでいう6か月の対象は車のプレートで、運転免許ではありません。道路交通管理處罰條例43条
今回の二つの事件は、この行政上の処分を争う裁判です。2万4,000台湾元と1万6,000台湾元は、刑事罰の罰金ではなく、台湾法の「罰鍰」にあたる行政上の制裁金です。有罪・無罪や、相手への損害賠償を決めた判決ではありません。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)、同法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)
乗用車事件の二審は立法経緯もたどり、43条1項4号が、悪意をもって他車をあおる危険な運転を処罰する規定だと説明しました。「突発状況」は、直ちに減速や停止をしなければ事故や人の生命・身体への危険が生じる、切迫した状況を指すとしています。
そのうえで一審の判断を支持しました。約2秒の停止とその後の動きを見ても、悪意をもって後続車を妨げる危険運転だったという十分な証拠はなく、裁決所は、突発状況がなく正当な理由もない停止だったと証明できていません。一審の証拠評価や法解釈に誤りはないとして、上訴を退けたのです。短い停止なら一律に許される、という時間の基準を作ったわけではありません。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)、理由四・五
橋の上では、クラクションの後に止まった
もう一つの事件は、2025年11月25日午後5時13分、台北市文山区の橋の上です。バイクの運転者は、大きなクラクションとエンジン音を聞き、左の大型トラックを避けようとしたところ、右側が相手の車に接触して車体が揺れた、と訴えました。身を守るための停止であり、後で相手に警察を呼ぼうと伝えたことからも、あおる悪意はなかったという説明です。裁決所は、映像には2度の急ブレーキが見られる一方、接触事故も前をふさぐ車も見えないと反論しました。臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)、事実及び理由二〜四
裁判所が映像を直接確かめた「勘驗」の記録は、17:13:24から始まります。撮影車は右折矢印のある外側車線から、青信号の交差点を直進。左側に現れたバイクと交差点を抜け、撮影車は道路の外側の「機慢車道」付近を走っています。バイクは17:13:29〜31に一般車線から右へ移り、その車線に入ります。この間に長いクラクションが聞こえました。
17:13:32、バイクは撮影車の前に完全に入り、軽くブレーキをかけますが、まだ止まりません。34秒には少し加速し、左の一般車線の銀色のバンと並びます。そこで短いクラクション。35〜38秒にバイクはブレーキをかけて停止し、運転者が後ろを振り返りました。前方にほかの車はいません。撮影車は左に寄って追い越し、互いに罵り合いますが、接触に言及するやり取りは記録されていません。臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)、事実及び理由五(一)
運転者の説明と映像の間には隔たりがありました。裁判所は、明らかな接触、車体のふらつき、転倒や制御不能の様子を認めませんでした。いったん軽く制動して再び加速できており、前方に障害物も、急に進路へ入ってくる車もありません。クラクションも、バイクが撮影車の進路へ近づいて入った時点で鳴っているため、むしろ車線変更に対する警告と見られる、と判断しています。
同乗者は左後方にぶつかったように感じたと証言しました。しかし裁判所は、映像上の位置関係から、仮に接触があったなら、バイクの右側か右後方であった可能性が高いと指摘しました。さらに、接触を疑った場合や軽い接触があった場合でも、それだけで直ちに車線上で急停止する必要があったとはいえない、としています。「全く触れていない」と断定することと、「その場で急停止しなければ危険だった」と認めることは、別の判断です。臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)、事実及び理由五(一)・(二)
「悪意」の説明は一致していない
バイク事件の裁判所は、43条1項4号について「並不以駕駛人具有惡意逼車或報復意圖為限」(運転者に悪意あるあおりや報復の意図がある場合に限られない)と明記しました。後で警察を呼ぼうと言ったことも、停止後に紛争を処理しようとした事情にすぎず、橋の上で直ちに止まる必要があった証明にはならないとしています。臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)、事実及び理由五(二)
これは、悪意あるあおり運転を対象にするという乗用車事件の二審の説明と、表現上の違いがあります。別々の事件の二つの判決だけから、悪意の要否について統一された結論を引き出すことはできません。一方、証拠に関する判断の違いは明確です。乗用車事件では衝突回避のための停止だった可能性が残り、バイク事件では直ちに止まるべき客観的な切迫状況が認められませんでした。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)、同法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)
| 裁判所・事件番号 | 判決日 | 結果 |
|---|---|---|
| 臺北高等行政法院地方庭114年度交字第2626號(乗用車・一審) | 2025年12月29日 | 2万4,000台湾元・安全講習と、プレート6か月停止の両処分を取消し |
| 臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號(乗用車・二審) | 2026年8月24日 | 裁決所の上訴を棄却。上訴審費用750台湾元は裁決所負担。上訴不可 |
| 臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號(バイク・一審) | 2026年5月26日 | 請求棄却。1万6,000台湾元・安全講習・プレート6か月停止を維持。訴訟費用800台湾元は運転者負担 |
乗用車の一審の内容は、二審判決の記載に基づきます。バイクの1万6,000台湾元は、処分当時の裁罰基準表で、期限内に納付または出頭して裁決を受ける場合の二輪車に定められた額でした。この一審判決には、送達後20日以内に、判決の法令違反を理由として上訴できる旨の案内があります。その後、上訴されたかどうかは今回の資料では分かりません。臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)、同法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)
相手の走り方と、自分が止まる場所
バイクの運転者は、相手が右折車線から直進したことも問題にしました。裁判所は、相手の走り方に問題があるかと、その前へ入って急停止してよいかは別だと述べています。後続車との距離が近い状態で止まれば、後ろの車に短時間で回避や制動を迫り、追突や周囲を巻き込む危険を増やすからです。
接触したか確認したい、警察を呼びたい。その必要を感じた場合について、この判決が示したのは、徐々に減速して車体を安定させ、前後左右を見て、安全を確認してから路肩や交通を妨げない場所へ止まるという対応でした。これは、直ちに停止しなければ危険な場合まで走り続けよという意味ではありません。映像上、まだ安定して走れていたこのバイクについて、裁判所は停止するまでの方法と場所を問いました。臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)、事実及び理由五(二)
出典
- 臺北高等行政法院高等庭115年度交上字第76號判決(2026年8月24日)。乗用車の一審・114年度交字第2626號判決(2025年12月29日)は、この二審判決による参照です。
- 臺北高等行政法院地方庭115年度交字第54號判決(2026年5月26日)
- 道路交通管理處罰條例43条
この記事は公開判決文と法令に基づいて作成しました。資料確認日:2026年10月3日。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



