寄り付き直後に台湾株の売り注文を入れようとしたら、証券会社のアプリが「処理中」のまま動きません。台北に駐在する日本人の会社員は何度か送信を試し、つながったのは40分後でした。株価はその間に下がっています(架空の例です)。
下がった分を、証券会社に請求できるのでしょうか。台湾法の答えは「場合による」です。ただ、何によって分かれるのかは、かなりはっきりしています。
失ったのは「売れたはずの値段」
民法第216条は、賠償の範囲を受けた損害と失った利益に限ります。通常の経過で、またはすでに決まっていた計画などから見込めた利益は、失った利益とみなされます。売り注文が通らなかった場合に問題になるのは、ほぼこの「失った利益」です。
難しいのはその金額です。障害がなければ何時何分に、いくらで約定したのか。自分に有利な事実は主張する側が証明するのが原則です(民事訴訟法第277条)。アプリのエラー表示を時刻入りで撮った画面、送ろうとした注文の内容、ほかの経路で注文を試みた記録が、ここで効いてきます。
救いになる条文もあります。損害を受けたことは証明できたのに、その額の証明ができないか著しく困難な場合、裁判所は一切の事情を考慮して額を定めなければなりません(民事訴訟法第222条第2項)。その前提として、損害があったこと自体は示しておく必要があります。
逆向きの調整もあります。損害の発生や拡大に被害者自身の過失が加わったとき、裁判所は賠償額を減らすことも、免除することもできます(民法第217条)。障害に気づいた後、ほかの手段を試す余地があったのに何もしなかった、という事情は会社側が持ち出すことが考えられます。
証券会社が負う義務の出どころ
証券会社は自社の名義で、顧客の計算により、手数料を受けて売買を執行します。民法第576条の「行紀」(自分の名義で他人の計算により取引をする営業)にあたるとみれば、委任の規定が適用されます(第577条)。報酬を受ける受任者には善良な管理者の注意が求められ、処理に過失があれば損害を賠償しなければなりません(第535条、第544条)。
行紀という枠組みを使わなくても、債務不履行の一般規定で請求を組み立てることはできます。債務者は自分の故意・過失に責任を負います(第220条)。責めに帰すべき事由で不完全な給付をしたときは、債権者は遅延や不能の規定に従って権利を行使でき、それ以外に生じた損害の賠償も求められます(第227条)。履行に使う代理人や使用人の故意・過失は、別段の定めがない限り、会社自身の故意・過失と同じに扱われます(第224条)。
監督法令の側では、証券会社は内部統制制度を定め、法令・定款・内部統制制度に従って業務を行うことになっています(証券商管理規則第2条)。金融消費者保護法第7条第3項は、金融サービス業者に善良な管理者の注意義務を課しています。
約款の免責条項はどこまで効くか
口座開設の書類や電子取引の約款に、システム障害時の会社の責任を制限する条項が入っていることがあります。
会社が同じ種類の契約に使うためにあらかじめ用意した条項なら、責任を免除・軽減する部分は、事情に照らして著しく不公平であれば無効です(民法第247条の1)。故意または重大な過失の責任となると、約款の書き方に関係なく、あらかじめ免除することはできません(第222条)。金融消費者保護法第7条第2項も、著しく不公平な条項を無効とし、疑義のある条項は金融消費者に有利に解釈すると定めます。文言だけでは決まりません。
手元に残すものと、会社に出してもらうもの
約定した取引ごとに、証券会社は約定後に売買報告書(買賣報告書)を作ります(証券商管理規則第42条)。帳簿振替で決済する場合などは顧客の署名が省かれますが、報告書を作ること自体は求められます(金融機関が兼営する証券会社には例外があります)。障害の時間帯に実際に何が約定したかは、この報告書と取引明細で確かめられます。
先物口座なら、保存の規定がさらに具体的です。電話注文は同時録音、コンピューターシステムで送った委託内容は保存が義務づけられ、どちらも少なくとも1年、争いがあれば解決まで保存されます(期貨商管理規則第36条)。月次の取引明細書は翌月5日までに作成され、1部が顧客に送られ、会社の控えは2年保存です(第52条)。顧客の取引の照会に必要な回答や処理をせず、顧客の権益を損なうことも禁じられています(第55条第8款)。
記憶も材料になります。40分のあいだに試した操作は、記憶が新しいうちに時刻と一緒に書き出しておけば、後で画面の記録と突き合わせることができます。
評議か裁判か、40分の損失で考える
40分の値下がりがいくらになるかは、評議を使うかどうかにも関わります。会社が評議決定を拒めないのは、評議手続に従うことを事前に書面で同意したり契約書などで示したりした会社について、1件あたり一定額以下の決定に限られます。決定額がその額を超えても、利用者が一定額まで減らすと申し出れば同じです(金融消費者保護法第29条第2項)。その額を定めた金融監督管理委員会の2022年3月18日の公告は、信託や全権委託などを列挙して120万元、それ以外を12万元としており、上場株式の受託売買は列挙にないため12万元です(金管会公告)。それを超える損失を全額求めるなら、証券投資人及期貨交易人保護センター(投保センター)の調処や訴訟という道もあります。調処については台湾の証券会社の営業担当者が口座を勝手に動かしたらで扱いました。
評議中心へ申請できる時期は、会社の対応しだいで決まります。会社は申立てを受けた日から30日以内に処理して結果を返さなければならず、利用者は、その結果に納得できなければ受け取った日から、30日以内に処理されなければ期限が切れた日から、60日以内に金融消費評議中心へ評議を申請できます(同法第13条第2項)。申立てを経ていない申請、会社がまだ処理していて30日たっていない段階の申請、60日を過ぎた申請は受理されません(同法第24条第2項)。評議が成立すれば、利用者は90日の不変期間内に評議中心へ申請して評議書を裁判所の核可に回してもらうことができ、核可された評議書は確定した民事判決と同じ効力を持ちます(同法第30条)。
裁判で請求するときの期限は、根拠ごとに違います。まず懲罰的賠償です。会社が金融消費者保護法の規定に違反して賠償責任を負うと認められれば、裁判所は過失でも損害額の1倍以下、故意なら3倍以下で定めることができ、その請求権は原因を知った時から2年、原因の発生から5年で消滅します(金融消費者保護法第11条の3)。通常の損害賠償は、不法行為なら損害と賠償義務者を知った時から2年、行為の時から10年(民法第197条第1項)、契約上の請求権なら原則15年です(民法第125条)。
当局の処分は、この計算に入りません。内部統制制度を確実に実行しなかった証券会社には30万元以上600万元以下の罰鍰と期限付きの改善命令があり得ますが(証券取引法第178条の1第1項第4款)、罰鍰が顧客に支払われる仕組みはありません。先物会社が管理規則に違反した場合の罰鍰は、12万元以上240万元以下です(期貨交易法第119条第1項第2款)。
台湾に住む日本人の立場
金融消費者保護法の「金融消費者」に国籍の要件はありません。除かれるのは専門投資機関と、一定の資力や専門能力の基準を満たす個人・法人です(第4条)。台湾の証券口座を持つ在台日本人も、通常はこの手続を使えます。口座への第三者の不正アクセスが原因なら論点が変わり、GMOのFX自動売買サーバー不正アクセスを台湾から見るが参考になります。
台湾の弁護士に依頼できること
最初の段階で頼めるのは、受託契約と電子取引の約款を民法第222条・第247条の1、金融消費者保護法第7条に照らして読むこと、そして中国語で会社への申立書と記録の開示請求を書くことです。その後は、売買報告書や取引明細から損害額を組み立て、評議の申請や投保センターの調処、訴訟の代理まで任せられます(民事・損害賠償の取扱分野)。ご相談は wei@hoveringlaw.com.tw へ。昊鼎国際法律事務所の台北事務所は、台北市大同区承徳路一段35号7階の2(臺北市大同區承德路一段35號7樓之2)にあります。
40分の空白を埋める材料は、あの朝の画面にしか残っていません。エラー表示の時刻と、出そうとした売り注文の値段です。
参考資料
確認日:2026年10月28日。
よくある質問
- 障害がなければ売れたはずの値段との差額も請求できますか。
- 民法第216条は、賠償の範囲を実際に受けた損害と失った利益とし、通常の経過で得られたはずの利益を失った利益とみなします。ただ、障害がなければいつ、いくらで約定したかについては、注文画面やエラー表示、発注しようとした時刻の記録が材料になります。損害があったことを証明できても額の証明が著しく困難なときは、裁判所が一切の事情を考慮して額を定めます(民事訴訟法第222条第2項)。
- 口座開設時の約款に「システム障害による損害は負わない」とあれば、請求はできませんか。
- それだけで終わるとは限りません。故意または重大な過失の責任は事前に免除できず(民法第222条)、定型約款のうち作成者の責任を免除・軽減する部分は、事情に照らして著しく不公平なら無効です(第247条の1)。金融消費者保護法第7条も、著しく不公平な契約条項を無効とし、疑義のある条項は金融消費者に有利に解釈するとしています。
- 証券会社に懲罰的賠償を求めることはできますか。
- 会社が金融消費者保護法の規定に違反して賠償責任を負う場合、裁判所は金融消費者の請求により、故意なら損害額の3倍以下、過失でも1倍以下の懲罰的賠償を定めることができます(金融消費者保護法第11条の3第1項)。認めるかどうかと額は、侵害の情状を見て裁判所が決めます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



