台湾の子会社が社員からセクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)の申告を受けると、会社は再発を防ぐ措置をとり、その社員が働く地域の主管機関に通知し、申告を受けた翌日から2か月以内に調査を終えなければなりません。相手が自社の社員でなく、日本本社からの出張者や取引先の担当者であっても、この義務は生じます。根拠は性別平等工作法と、同法に基づく工作場所性騷擾防治措施準則(以下、準則)です。
2023年8月16日公布の改正で、法律の名称が性別工作平等法から改められ、第13条の改正と第32条の1などの新設が行われました(法令沿革)。これらの条文と準則は、2024年3月8日に施行されています(第40条、準則第21条)。
本社からの出張者が相手だった場合
例えば、日本本社の部長が台北の子会社へ出張するたびに、会議の席で現地採用の社員Aさんの外見について性的な冗談を言い、夜にはメッセージアプリで二人きりの食事に何度も誘っていたとします。Aさんは子会社の人事担当者に申告しました。
第12条第1項が定めるセクハラは二つです。一つは、労働者が職務を行う際に、誰かが性的な要求や、性的な意味を持つ言動、性差別的な言動によって、敵対的、脅迫的または侮辱的な職場環境を生じさせ、人格の尊厳や身体の自由を侵し、または仕事に影響を与える場合です。条文は行為者を「任何人」としており、同僚に限りません。もう一つは、使用者が労働者や求職者にそうした言動をし、採用、配置、報酬、考課、昇進などの交換条件にする場合です。自分の指揮・監督を受ける人に対し、権勢や機会を利用して行うものは「權勢性騷擾」と呼ばれ(第2項)、申立期限と賠償額が変わります。
会議での発言は職務中の出来事です。夜のメッセージのような勤務時間外の行為にこの法律が適用されるのは、三つの場合です(第3項)。同じ事業単位の同一人物から継続的に受けた場合、共同作業や業務上の往来がある別の事業単位の同一人物から継続的に受けた場合、最高責任者(最高負責人)または使用者本人(僱用人)から受けた場合です。「継続的」とは、行為が勤務時間内と時間外の両方で起き、時間的に近接していることをいいます(施行細則第4条の2第2項)。
駐在員が子会社の代表者として登記されている場合
最高責任者は、会社登記などに対外的な代表者として記載された人です。代表者の業務を実質的に執行している人、または人事・財務・経営を実質的に支配している人のうち、現職もしくは元の董事・監察人である、株式を20%以上持つといった事情に当たる人も、地方の主管機関の判断により最高責任者に含まれます(第12条第8項、施行細則第4条の2第3項)。
日本から赴任した駐在員が子会社の代表者として登記されていて、その人が申立ての相手になると、扱いが変わります。勤務時間外の行為でも継続性は問われません。社員は社内の手続きを経ずに主管機関へ申し立てることができ(第32条の1)、權勢性騷擾に当たれば懲罰的賠償金の倍率は上がり(第27条第6項)、主管機関がセクハラと認定すれば本人に過料(罰鍰)が科されます(第38条の2)。
雇用人数ごとの事前の備え
第13条第1項と準則は、雇用する労働者の数に応じて整えておくものを定めています。人数は分支機構と附属単位の分を含めて数えます(施行細則第5条)。
| 雇用する労働者の数 | 整えておくもの(かっこ内は準則の条文) |
|---|---|
| 10人以上30人未満 | 専用電話やメールアドレスなどの申立窓口を定め、職場の目につく場所に掲示(第2条) |
| 30人以上 | 上記に加え、防止措置・申立て・懲戒の規程を定めて掲示(第3条)、教育訓練(第9条)、申立処理単位(申訴處理單位)の設置(第12条) |
| 100人以上 | 上記に加え、外部の専門家を含む調査チーム(申訴調查小組)による調査(第13条) |
| 500人以上 | 申立人または被害者の求めがあれば、心理カウンセリングを2回以上提供(第6条第4項) |
申立処理単位には性別意識を備えた専門家を入れ、女性の割合を2分の1以上にしなければなりません。規程には、最高責任者または使用者本人が相手のときは主管機関に直接申し立てられることも明記します。管理職と、申立ての処理・調査・決議に関わる人には、毎年定期的に教育訓練を行います。
申告を受けてから調査を終えるまで
使用者は、セクハラを知ったときは、直ちに有効な是正・救済措置をとらなければなりません(第13条第2項)。
被害者の申立てで知った場合は、再発を防ぐ措置、相談・医療・心理カウンセリング・社会福祉資源の提供または紹介、事件の調査、行為者に対する適切な懲戒または処理を行います。申立人と相手方を分離する措置は申立人の意向を考慮して決め、申立人の賃金などの労働条件を不利に変更してはなりません(準則第6条第2項)。申立て以外の経緯で知った場合は、事実関係を確認し、被害者が望めば申立てを支援し、仕事の内容や場所を適度に調整し、被害者が望めば相談や医療などを提供または紹介します。被害者が申立てを望まない場合も、会社はこの措置をとらなければなりません(同条第3項)。
申立てを受けた使用者は、被害者が労務を提供している地の直轄市または県(市)の主管機関に通知し、セクハラと認定したときは処理の結果も通知します(第13条第4項、施行細則第4条の3第2項)。労働部が通報システムを設けています。
調査は、客観・公正・専門性の原則に従い、非公開で、当事者に十分な陳述と弁明の機会を与えて行います(第13条第3項、準則第12条)。使用者は理由を付した決議を申立人と相手方に書面で通知し(準則第17条)、申立てを受けた日の翌日から2か月以内に終結させます。必要があれば1か月延長でき、その場合は当事者に通知します(準則第18条)。
相手方が権勢のある立場にあり、事案が重大で必要があるときは、使用者は調査の間、その職務を一時的に停止または調整できます。セクハラと認定されなかったときは、停止していた期間の賃金を支払わなければなりません。セクハラと認定され、事案が重大であるときは、調査結果を知った日から30日以内に、予告なしで労働契約を終了できます(第13条の1)。解雇の事由と手順は台湾子会社で従業員を解雇するにはで説明しています。
冒頭の例のように、行為者が共同作業や業務上の往来がある別の事業単位に属している場合は、その使用者も同じ義務を負います(第13条第2項)。どちらの使用者も、セクハラを知ったときは相手側に知らせ、解決や救済の方法を共同で協議しなければなりません(準則第7条)。子会社は、相手が本社の社員であることを理由に調査を先送りすることはできません。
社員が主管機関に直接申し立てられる場合
申立ては使用者に対して行うのが原則です。ただし、相手が最高責任者または使用者本人である場合と、使用者が処理をしない場合または相手方の使用者による調査や懲戒の結果に不服がある場合は、地方の主管機関に直接申し立てることができます(第32条の1)。労働部は問合せ先として各地の労工局(処)または社会局(処)を挙げています(2024年10月4日付の発表)。
この申立ての期限は、セクハラを知った時から2年、行為が終わった時から5年で、相手方が権勢のある立場にあるときはそれぞれ3年と7年です。行為の当時に申立人が未成年だった場合は成年に達した日から3年以内、相手が最高責任者または使用者本人である場合は退職した日から1年以内(行為が終わった時から10年まで)にも申し立てることができ、前の期限のほうが長ければ長いほうによります。
最高責任者または使用者本人が相手の場合、申立人は、主管機関が調査している間、職務や勤務形態の調整を使用者に申請でき、調整は調査結果が使用者に送達された日から30日まで続けられます。使用者はこれを拒めません(第32条の2第5項)。使用者が直ちに措置をとらなかった場合や、申立てを理由に不利益な取扱いをした場合も、労働者は主管機関に申し立てることができます(第34条第1項)。
賠償責任と過料
セクハラによる財産上・非財産上の損害は、使用者と行為者が連帯して賠償します。使用者は、この法律の防止規定を守り、発生を防ぐために力を尽くしたことを証明すれば責任を免れますが、その場合も、裁判所は被害者の申立てにより、双方の経済状況を考慮して賠償を命じることができます(第27条第1項、第2項)。權勢性騷擾では、裁判所は被害者の請求により損害額の1倍から3倍の懲罰的賠償金を定めることができ、行為者が最高責任者または使用者本人であれば、被害者は3倍から5倍を請求できます(同条第5項、第6項)。直ちに措置をとる義務に違反して生じた損害は、使用者が賠償します(第28条)。請求権は、損害と賠償義務者を知った時から2年、行為の時から10年で消滅します(第30条)。
過料の額は、直ちに措置をとる義務に違反した使用者について2万~100万台湾元、規程を定めていない30人以上の使用者について2万~30万台湾元、申立窓口を設けていない10人以上30人未満の使用者については、期限までに改善しなかったときに1万~10万台湾元です。主管機関は使用者の名称、責任者(負責人)の氏名、処分の日、違反した条文、過料の額を公表します(第38条の1)。最高責任者または使用者本人が主管機関からセクハラと認定されたときは、その人に1万~100万台湾元の過料が科されます(第38条の2)。
使用者は、労働者が申立てをしたこと、または他人の申立てに協力したことを理由に、解雇、配置転換その他の不利益な処分をしてはならず(第36条)、違反には2万~30万台湾元の過料があります(第38条)。
本社の規程と台湾の会社の義務
グループの行動規範や本社の通報窓口があっても、職場での掲示、主管機関への通知、申立処理単位の構成、2か月の終結期限、書面での通知は、台湾の使用者として別に整える必要があります。使用者と労働者の取決めがこの法律より有利であれば取決めによるため(第2条第1項)、本社の基準のほうが厳しい部分は上乗せして運用できます。
董事長や経理人に就いた駐在員個人の責任は、台湾子会社の董事長・経理人になったらで取り上げています。
ご相談の際は、出来事のあった日、当事者の所属と役職、台湾の会社の雇用人数を添えて、昊鼎国際法律事務所へメール(wei@hoveringlaw.com.tw)でお知らせください。この記事は一般的な説明であり、個別の事案の結論は事実関係と証拠によって変わります。
参考にした公的資料
- 台湾 性別平等工作法(2023年8月16日改正公布) 第2条、第12条、第13条、第13条の1、第27条、第28条、第30条、第32条の1、第32条の2、第34条、第36条、第38条、第38条の1、第38条の2、第40条、法令沿革
- 台湾 性別平等工作法施行細則(2026年4月8日改正) 第4条の2、第4条の3、第5条
- 台湾 工作場所性騷擾防治措施準則(2024年1月17日改正、2024年3月8日施行) 第2条、第3条、第6条、第7条、第9条、第12条、第13条、第17条、第18条、第21条
- 台湾 労働部(勞動部) 職場性騷擾案件通報系統の案内、113年上半年の職場性騷擾通報案件に関する発表(2024年10月4日)
確認日:2026年10月6日
よくある質問
- 相手が子会社の社員ではなく、日本本社からの出張者でも、子会社は対応しなければなりませんか?
- 対応が必要です。性別平等工作法第12条第1項第1款は、労働者が職務を行う際に「任何人」(誰であっても)から受けるセクハラを対象にしており、第13条第2項は、使用者がセクハラを知ったときに直ちに有効な是正・救済措置をとるよう定めています。被害者と行為者が別の事業単位に属し、共同作業や業務上の往来がある場合は行為者の使用者も同じ義務を負い、準則第7条により、どちらの使用者も相手側に知らせて解決方法を共同で協議しなければなりません。
- 社員が会社を通さずに行政へ申し立てられるのは、どのような場合ですか?
- 第32条の1が定める二つの場合です。相手が最高責任者または使用者本人(僱用人)である場合と、使用者が処理をしない場合または相手方の使用者による調査・懲戒の結果に不服がある場合です。期限は、セクハラを知った時から2年・行為が終わった時から5年で、相手方が指揮・監督する立場にあるときは3年・7年です。
- 社内の調査はいつまでに終える必要がありますか?
- 準則第18条により、申立てを受けた日の翌日から2か月以内に終結させなければなりません。必要があれば1か月延長でき、その場合は当事者に通知します。あわせて、申立てを受けた時点で地方の主管機関に通知し、セクハラと認定したときは処理の結果も通知します(第13条第4項)。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



