台湾の民法は、夫婦の借金を原則として別々に扱います。例外は、家庭生活費から生じた債務です。こちらは夫婦が連帯して責任を負います(民法第1023条、第1003条の1)。
その債務が本当に家庭生活費から生じたといえるのか。2024年と2025年に出た二つの地方法院の判決は、この点で結論が分かれました。新北地方法院は夫の3年以上に及ぶ入院の医療費を妻にも連帯して支払うよう命じ、基隆地方法院は、夫が借りたお金について元妻への請求を棄却しています。
自分の借金は自分で返すのが原則です
民法第1023条第1項は、夫婦はそれぞれ自分の債務について弁済の責任を負うと定めています。夫が自分の名義で借りたお金は、原則として夫の借金です。結婚しても変わりません。同じ条文の第2項によれば、夫婦の一方が自分の財産で相手の債務を弁済したときは、婚姻中であっても償還を請求できます。
家庭生活費から生じた債務は夫婦の連帯責任です
例外を定める第1003条の1は、二つの項で役割が違います。第1項が定めているのは、夫婦の間で家庭生活費をどう分けるかです。法律や契約に別段の定めがない限り、夫婦がそれぞれの経済力、家事労働その他の事情に応じて分担します。債権者に対する責任を決めるのは第2項で、家庭生活費から生じた債務は夫婦が連帯して責任を負います。
連帯債務の債権者は、債務者のうち一人、数人または全員に対して、同時にまたは順に、全部または一部の給付を請求できます(第273条第1項)。家庭生活費の債務なら、債権者は夫を飛ばして妻に全額を請求してもかまいません。夫婦の間でどう負担を分けるかは、その後に第1003条の1第1項に沿って決めることになります。
3年以上続いた入院の費用:新北地方法院2024年判決
夫は2019年10月に前立腺肥大で入院し、翌日に手術を受けました。術後まもなく脳卒中が起きました。治療は2023年1月の退院まで続きました。病院は未払いの医療費を夫婦が連帯して支払うよう求めて提訴し、新北地方法院が2024年8月29日に第一審の判決(111年度訴字第1294号)を言い渡しています。
裁判所は最高法院の先例を引き、家庭生活にかかわる衣・食・住・交通・教育・娯楽や医療などの必要な事項は、家庭生活に必要な行為であって「日常家務」に当たるとしました。脳卒中の後、夫は運動機能と認知機能に明らかな障害が生じ、身の回りのことをすべて他人に頼る状態でした。裁判所は、治療の必要性は明らかだと認めました。そのうえで医療費246万4,623台湾元を第1003条の1第2項にいう「家庭生活費から生じた債務」と判断し、全額に年5%の利息を付けて夫婦が連帯して支払うよう命じました。
「日常家務」は第1003条の言葉です。第1項によれば、夫婦は日常の家事について互いに代理人になります。一方がこの代理権を濫用したときは、他方はこれを制限できます。ただし、その制限を善意の第三者に対抗することはできません(第2項)。
この事件の夫婦は、別の理由で病院の請求を争いましたが、金額には異議がなく、妻に第1003条第1項と第1003条の1に基づく支払義務があることも否定していませんでした。義務そのものを正面から争った配偶者が同じ結論になるかどうかは、この判決だけではわかりません。
「生活費に使った」は誰が証明するのか:基隆地方法院2025年判決
基隆の事件の夫婦は、2021年6月に結婚して子ども2人をもうけ、2023年11月に離婚しました。夫にお金を貸した人は、婚姻中に夫が負った債務が66万9,160台湾元あると主張しました。2022年10月から1年ほどの間に何度にもわたって貸したお金に、バイクと車を担保に金融会社から借りて夫に貸したお金の、未払いの分割返済分を加えた額です。基隆地方法院は2025年4月7日、この事件(113年度訴字第602号)で第一審の判決を言い渡しました。
貸した人は、このお金がおむつやミルク、家賃といった生活費に使われたと主張し、第1003条の1を根拠に元妻にも連帯して返すよう求めました。元妻名義の口座に5回に分けて振り込んだ1万7,000台湾元については、元妻自身が借りたお金だとも主張しています。夫は借入れそのものは争いませんでした。一部は生活費に使ったものの、そちらのほうが少なく、どれが生活費だったかは忘れた、と述べています。
結果は分かれました。夫には返済が命じられ、元妻への請求はすべて棄却されています。
夫が法廷で一部は生活費に使ったと述べた点は、自白としての効力を認められませんでした。借りたお金が家庭生活費に使われたかどうかという事実は、共同被告の間で異なる認定ができない、と裁判所は考えました。そのため、形式上ほかの共同被告に不利になる夫の自白は、夫本人を含む被告全員について効力を生じないとしたのです。
では、生活費に使ったことは誰が証明するのでしょうか。裁判所の答えは、貸した側でした。民事訴訟法第277条は、自分に有利な事実を主張する当事者がその事実について証明責任を負うと定め、法律に別段の定めがある場合や、事情に照らして明らかに公平を欠く場合を例外としています。
証拠は足りませんでした。夫が「彼女に送るお金」「ミルク代と生活費」と書いたメッセージはありましたが、その日の借入れは今回の請求に入っていませんでした。春節の紅包1万1,000台湾元、家具の買い替え1万8,800台湾元といった使い道の明細は、貸した人が自分で作ったものでした。元妻は否認しています。夫は、ほかの人と共同でカラオケ店を経営し、平均で月に3万〜4万台湾元ほどの収入があったとも述べていました。暮らしの費用を借りたお金でまかなったのか、夫の収入でまかなったのか。裁判所は、どちらとも判断できないとしました。
1万7,000台湾元も同じです。夫は法廷で元妻の口座を自分も使っていたと述べ、貸した人と夫の間には長く続いた貸し借りもありました。振込の記録だけでは、元妻との間に貸し借りの合意があったことも、元妻にお金を渡したことも証明されない、と裁判所は判断しました。元妻が送った「家のおむつが残り半パック」というメッセージにも、そのお金についての具体的な話は出てきません。
借りたお金が家庭生活費の債務になることはない、と判決が述べたわけではありません。この事実関係のもとで、貸した人が証明できなかったのです。
国籍の違う夫婦にも台湾の民法が適用されるのか
渉外民事法律適用法第47条は、婚姻の効力について、夫婦に共通の本国法、それがなければ共通の住所地法、それもなければ婚姻関係に最も密接に関係する地の法によるとしています。夫婦財産制を定めるのは第48条です。一方の本国法または住所地法を夫婦が書面で合意していればその法により(第1項)、合意がないか、合意がその法によれば無効であれば、第47条と同じ順序で決まります(第2項)。夫婦の不動産について所在地法が特別の規定に従うよう求めている場合は、第1項と第2項は適用されません(第3項)。
日本人と台湾人の夫婦が台湾に共通の住所を置いて暮らし、書面による合意をしていなければ、二人に共通の本国法はありません。そのため第47条と第48条のどちらでも、共通の住所地である台湾の法律になります。海外に住んでいる夫婦や、準拠法を書面で決めている夫婦は、別に確認が必要です。夫婦の財産と離婚時の分配については日台夫婦の財産はどちらの法律で決まるかで取り上げました。日本にある財産や日本で生じた債務がかかわるときは、日本側の扱いを日本の専門家にご確認ください。
配偶者のローンに保証人や連帯借主として署名した場合は、ご自身が結んだ契約の問題として別に検討が要ります。亡くなった配偶者の借金は相続の問題になり、相続人の順位は台湾で遺言なく亡くなったとき、誰がどれだけ相続するかで説明しています。債権者が実際に口座を差し押さえる手続きと、それに対する異議は、強制執行に関する法令が別に定めています。
給与口座が心配なとき、まず見るべきなのは、請求された借金がいつ、何のために生じたのかです。基隆の事件で元妻が夫の借金を負わずに済んだのも、そのお金が家庭生活費に使われたことを、貸した人が証明できなかったからでした。
台湾の弁護士に依頼できること
台湾の弁護士は、督促状や訴状を読み、その債務がいつ、何のために生じたのかをまず整理します。「家庭生活費だ」という主張に答えるには、夫婦の口座の記録や領収書、借りた側の配偶者の収入資料が要ります。弁護士はこうした資料を集めて債権者に回答し、訴訟になれば法廷で代理します。基隆の事件では、生活費に使われたことを証明する責任は貸した側にありました。反論もそこから組み立てます。配偶者の個人的な借金を自分の財産ですでに肩代わりしたのであれば、第1023条第2項による償還請求も検討できます。配偶者が日常家務の代理権を濫用しているときは、第1003条第2項による制限と、それを善意の第三者に対抗できないという限界をふまえて助言します。離婚や財産分与の手続きが進んでいる場合は、その手続きとの調整も任せられます。
昊鼎国際法律事務所の所在地は台北市大同区承徳路一段35号7F-2です。ご相談はメール(wei@hoveringlaw.com.tw)でお寄せください。届いた書類とあわせて、結婚した時期と借金が生じた時期をお書き添えください。
参考にした公的資料
- 台湾 民法 第273条、第1003条、第1003条の1、第1023条(現行条文)
- 台湾 民事訴訟法 第277条(現行条文)
- 台湾 渉外民事法律適用法 第47条、第48条(現行条文)
- 新北地方法院111年度訴字第1294号民事判決(2024年8月29日、第一審、司法院裁判書検索システム)
- 基隆地方法院113年度訴字第602号民事判決(2025年4月7日、第一審、司法院裁判書検索システム)
確認日:2026年10月19日
よくある質問
- 台湾人の夫が知人から借りたお金を、私にも返すよう求められています。払う必要がありますか?
- 台湾の民法第1023条第1項により、夫婦はそれぞれ自分の債務を弁済するのが原則です。その借金が家庭生活費から生じたものであれば、第1003条の1第2項により夫婦が連帯して責任を負います。基隆地方法院の2025年の第一審判決では、貸した人がお金が生活費に使われたことを証明できず、元妻への請求は棄却されました。結論は、お金の使い道と、それが証明できるかどうかで変わります。
- 夫の入院費の請求が私にも来ました。全額を払わなければなりませんか?
- 必要な治療費が家庭生活費から生じた債務に当たる場合、夫婦は連帯して責任を負い、債権者は民法第273条第1項により、夫婦のどちらか一人に全部または一部を請求できます。新北地方法院の2024年の第一審判決は、手術後の脳卒中で長く治療を受けた夫の医療費全額について、妻にも夫と連帯して支払うよう命じました。この事件の妻は、支払義務そのものは争っていませんでした。夫婦の間の分担は、第1003条の1第1項が別に定めています。
- 日本人と台湾人の夫婦にも台湾の民法が適用されますか?
- 国籍が異なり、台湾に共通の住所があり、渉外民事法律適用法第48条第1項の書面による合意がなければ、婚姻の効力を定める第47条と夫婦財産制を定める第48条のどちらによっても台湾法になります。ただし、夫婦の不動産について所在地法が特別の規定に従うよう求めている場合は、第48条第1項・第2項は適用されません(同条第3項)。海外に住んでいる夫婦や、準拠法を書面で決めている夫婦は、別に確認が必要です。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



