売買契約書への署名だけでは、台湾の土地の所有権は移りません。民法第758条第1項は、法律行為による不動産物権の取得には登記が必要だと定めています。
署名だけでは登記簿は変わりません
高雄郊外の土地を買った台湾人の夫と売主は、銀行の融資が下りたら所有権を移転すると約束しました(架空の例です)。
民法第758条第1項によれば、審査中の登記簿の名義人は売主のままです。夫には移転請求権があります。融資の承認が条件です(土地法第79条の1第1項第1号・第3号)。まだ所有者ではありません。売主が同じ土地をほかの人に売ったらどうなるでしょうか。抵当権が設定された場合も気になります。
夫の移転請求権については、土地法第79条の1第1項の預告登記が考えられます。日本国籍の妻が買主になるなら、外国人による取得の可否は別の問題です。
申請には売主の同意書が要ります
保全の対象になる請求権は、土地法第79条の1第1項が三つ挙げています。土地の権利の移転またはその消滅に関する請求権(第1号)、土地の権利の内容または順位の変更の請求権(第2号)、条件付きまたは期限付きの請求権(第3号)です。融資が下りたら所有権を移してもらうという夫の権利は、第1号の移転請求権にあたります。まだ満たされていない条件にかかる請求権は、第3号にも明記されています。条件が残っていることを理由に対象から外れるわけではありません。
土地法第79条の1第1項による申請は、請求権者が登記名義人の同意書を添えて行わなければなりません。この例なら夫が請求権者で、売主が登記名義人です。土地登記規則第137条第1項は、第34条に掲げる書類に加えて、名義人の同意書を求めています。第137条第2項では、名義人は列挙された例外に該当しない限り、本人が出頭して第40条の手続を踏まなければなりません。売主が海外にいる場合は、例外に当たるか事前に確認しておく必要があります。
同意書は欠かせません。同意書をもらえなければ、土地法第79条の1第1項の申請要件を満たせません。移転の日だけを契約で決めても、この問題は残ります。いつ同意書を受け取り、どの請求権を記載するか。夫と売主が話し合うべきなのは、そこです。
売主が「同意書は融資が下りてから書く」と言ったらどうでしょう。登記はまだです。その間に預告登記がなければ、土地法第79条の1第2項の効力もまだ生じません。融資を待つ期間こそ、夫が気にしている期間です。
売主から同意書を受け取ったら、請求権の記載を契約書と照らし合わせます。土地法第79条の1第2項が守るのは「所登記之請求權」、つまり登記された請求権です。どの土地のどの権利を、どの条件が整ったら移すのか。それが同意書と申請書類に正確に書かれていてこそ、後で売主がした処分がその請求権を妨げるかどうかを判断する基準ができます。契約書に書いた融資の条件と同意書の文言も、そろえておくのがよいでしょう。
売主の処分が無効になるとき
第79条の1第2項によると、預告登記が抹消される前に登記名義人がその土地についてした処分は、登記された請求権を妨げるものであれば無効です。一つ目の限定は時期で、預告登記がまだ抹消されていない間の処分に限られます。二つ目は中身で、無効になるのは登記された請求権を妨げる処分だけです。登記名義人の行為やその後の登記が、すべて止まるわけではありません。
では、預告登記の後に売主が同じ土地を第三者に移転したらどうなるのでしょうか。買主がいちばん恐れる場面です。第三者の側から見れば、預告登記が登記簿に載っている土地を買うことになります。預告登記が抹消されていない状態で、その処分が登記された移転請求権を妨げるのであれば、第79条の1第2項により無効になります。
抵当権が設定された場合は、直ちに無効と決められません。登記簿の謄本、契約書、記録された移転請求権を照らし、妨げになる処分かを検討します。後から抵当権の登記が入っていても、土地法第79条の1第2項の要件に当たるかは別の判断です。預告登記が抹消されれば、同項の効力は終わります。
収用・判決・強制執行による登記は排除できません
例外を定めるのは第79条の1第3項です。預告登記は、収用、裁判所の判決または強制執行によってされる新たな登記を排除する効力をもたないと定めています。売主の債権者がその土地に強制執行をすれば、その手続による新たな登記は、預告登記があっても排除されません。判決と収用も同じです。裁判所の判決による新たな登記も、土地の収用による新たな登記も、預告登記では止められません。登記簿の動きをすべて凍結する仕組みではないのです。売主に債務がないかを契約前に確かめておきたいのは、このためです。
預告登記が所有権を移すわけでもありません。この登記は土地法第79条の1第1項の移転請求権を保全するためのもので、所有権は民法第758条第1項のとおり、移転登記を終えてはじめて買主に移ります。
融資が下りて移転登記をするとき
抹消申請には、もとの請求権者の同意書が必要です。土地登記規則第146条第1項・第2項は、列挙された例外に当たらない請求権者に、本人の出頭と第40条の手続も求めています。売主が抹消を申請する場合にも、この要件は変わりません。融資の審査中に売主から抹消の同意を求められたら、先に移転登記の予定を確かめたいところです。実際に預告登記が抹消されれば、土地法第79条の1第2項の効力は終わります。
移転請求権を保全する預告登記には、土地登記規則第146条第3項が別の扱いを定めています。請求権者が移転登記を共同で申請し、その申請書の備考欄に預告登記の抹消も同時に行うと記載すれば、第1項と第2項の手続による必要はありません。融資の審査中に土地法第79条の1第2項の効力を保つには、預告登記が抹消されていないことが前提です。融資の承認後、夫は売主と移転登記を申請する際に、抹消を併せて申請するか検討できます。
台湾の弁護士に依頼できること
台湾の弁護士には、売買契約書、土地登記簿の謄本、売主が書く同意書をあわせて確認してもらえます。どの土地のどの権利を、どの条件で移転してもらうのか、預告登記で保全する請求権の記載を整理する仕事です。登記簿の謄本にすでに載っている他の登記の確認、同意書を出す時期を売買契約書にどう書き込むかの検討、同意書と申請書類の作成や点検、登記後に売主がした処分が登記された請求権を妨げるかどうかの検討も、依頼できます。売主の出頭が難しい場合に土地登記規則第137条第2項の例外にあたるかの確認や、移転登記の申請時に抹消をあわせて行う旨が備考欄に記載されているかも第146条第3項に照らして確認できます。預告登記は登記名義人の同意書を要件としているため、弁護士の仕事も、その要件を整え、保護が及ぶ範囲を確かめることに向けられます。
相談のお申し込みは、昊鼎国際法律事務所(台北市大同区承徳路一段35号7F-2)のメール(wei@hoveringlaw.com.tw)で受け付けています。お手元には、融資の条件が書かれた売買契約書と現在の登記簿の謄本をご用意ください。
参考にした公的資料
確認日:2026年10月16日(いずれも現行条文)
よくある質問
- 売主が同意書を書いてくれなくても、預告登記はできますか。
- [台湾の土地法第79条の1第1項](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0060001&flno=79-1)は、預告登記の申請は請求権者が登記名義人の同意書を添えて行わなければならないと定め、[土地登記規則第137条第1項](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0060003&flno=137)も申請時に登記名義人の同意書の提出を求めています。同意書がなければこの規定による預告登記は申請できないため、移転を先に延ばす約束をするときに、同意書をいつ受け取るかもあわせて決めておくほうが安全です。
- 預告登記をすれば、売主はその土地を売ったり抵当に入れたりできなくなりますか。
- すべての処分が止まるわけではありません。[土地法第79条の1第2項](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0060001&flno=79-1)により無効になるのは、預告登記が抹消される前に登記名義人がその土地についてした処分のうち、登記された請求権を妨げるものです。[同条第3項](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0060001&flno=79-1)により、収用、裁判所の判決、強制執行による新たな登記は排除できません。ある処分が請求権を妨げるかどうかは、登記簿と契約書をもとに検討する必要があります。
- 預告登記をすると、所有権は買主に移るのですか。
- 移りません。[台湾の民法第758条第1項](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=758)により、法律行為による不動産物権の取得は登記をしなければ効力を生じないため、所有権は移転登記を終えてはじめて移ります。預告登記は、それまでの間、[土地法第79条の1第1項](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0060001&flno=79-1)の移転請求権を保全するための登記です。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



