台北に駐在している日本人の会社員が、台湾人の知人に2回に分けてNT$800,000を送金しました。二人が署名した取り決めには、知人がこのお金で本人に代わって暗号資産を売買すると書かれています(架空の例です)。知人は自分名義の取引所口座で取引を始め、最初の数週間は残高の画面を送ってきました。いまは返事がありません。
取り決めに台湾民法が適用され、民法上の委任にあたるかを、まず確かめる必要があります。委任なら、第540条により処理中は進行状況を、委任関係の終了時は顛末を明確に報告しなければなりません。第541条は委任事務の処理で受け取った金銭の引渡しと、自分の名義で委任者のために取得した権利の移転を定めます。
委任かどうかは、二人が何を約束したかで決まります
民法第528条は、委任を、当事者の約定により一方が他方に事務の処理を委託し、他方がその処理を引き受ける契約と定義しています。見るべきなのは約定の中身です。送金記録からわかるのは、お金が知人の口座に移ったことまでです。処理を委託し、相手が引き受けたという約定は、それだけでは読み取れません。長い付き合いの友人だという事情も、約定の代わりにはなりません。
出発点になるのは、署名した取り決めです。誰のお金で、誰が、何を売買するのか、結果をどう知らせるのかを、取り決めの文言から確かめます。送金記録には日付、金額、受取口座が残ります。当時交わしたメッセージや、知人が送ってきた残高画面も、同じ約定を裏づける資料になります。
同じNT$800,000でも貸したお金なら別の問題であり、個人間の貸付けの利息や返還は台湾の知人への貸付け:利息の上限、借用書と返還の催告を参照してください。
書面が短い場合もあります。「代わりに売買する」という一行と署名だけで、報告の方法は書いていない、という形です。委任にあたるなら、書面に報告方法がなくても民法第540条の報告義務は適用されます。受任者は、委任事務の処理で受け取った金銭・物品・果実を、第541条第1項に従って委任者に引き渡さなければなりません。
取引の途中は進行状況、終わったときは顛末
取引が続いているあいだは、終わるまで待つしかないのでしょうか。待つ必要はありません。民法第540条の前半によれば、受任者(受任人)は委任事務の進行状況を委任者(委任人)に報告しなければなりません。取り決めが委任であれば、知人は取引を続けている間も、どこまで進んだかを知らせる義務を負うことになります。
委任関係が終わったときは、その顛末、つまり処理の経過全体を明確に報告しなければなりません(第540条後段)。取引を任せている間に知りたいのは進行状況です。関係が終わったときに求めるのは、顛末の明確な報告になります。
どちらの段階かによって、知人に送る書面の書き方も変わります。途中であれば「現在までの進行状況」を、委任関係が終わったときは「最初から最後までの経過」を、第540条の文言に沿って求めます。
第540条が委任者に与えているのは、報告を受ける権利です。知人の取引所口座に自分でログインさせてもらう権利や、すべての取引履歴を決まった形式で出させる権利は、条文には書かれていません。それでも、報告を求めるときに知りたい項目を具体的に挙げることはできます。送金したお金がいつ取引所口座に入ったか、何をいつ売買したか、いま何が残っているか、といった項目です。そのどこまでが報告義務に含まれるかは、取り決めと実際の記録に照らして判断されます。
残高画面を1枚送ってきただけなら、報告は済んだことになるのでしょうか。そうとは限りません。画面はある時点の数字を示すだけで、その数字に至るまでに何を売買したかは示しません。委任関係が終わるときに第540条が求めているのは、顛末の明確な報告です。その経過は、あらためて尋ねることができます。
残った台湾ドルと、知人の名義で得た権利
民法第541条第1項は、受任者が委任事務の処理によって受け取った金銭、物品、果実(孳息)を委任者に引き渡すよう定めています。売却代金が知人の取引所口座や銀行口座に入った場合や、取引に使っていた口座に台湾ドルの残高がある場合は、どうでしょうか。そのお金が委任事務の処理で受け取ったものであれば、引渡しの対象になります。それを示すのは記録です。
知人は自分名義の口座で取引しました。ただ、口座の名義だけでは、移すべき権利は決まりません。受任者が自分の名義で委任者のために取得した権利なら、委任者に移転しなければなりません(第541条第2項)。取り決めと取引記録から、誰のためにどんな権利を取得したのかを確かめます。請求の書面では、第1項による引渡しと第2項による権利の移転を分けて示すと明確です。
第541条第2項が定めるのは、受任者が自分の名義で委任者のために取得した権利の移転です。知人の取引所口座そのものを引き継ぐ権利まで定めてはいません。
報告と引渡しの請求で、損失までは埋まりません
相場が下がっていたら、どうなるのでしょうか。第540条と第541条が定めるのは、報告、委任事務の処理で受け取ったものの引渡し、自分名義で委任者のために取得した権利の移転です。二つの条文は、相場の下落による損失を埋めて、最初に送ったNT$800,000全額を返す義務まで定めてはいません。知人が事務をどう処理したかによって損害賠償の責任を負うかは、別に検討します。
損失が出ても、委任なら報告義務は変わりません。第540条は取引結果を条件とせず、処理中は進行状況を、委任関係が終わったときは顛末を明確に報告するよう定めています。
二人の取り決めが委任なら、知人への書面では、委任が続いている間は進行状況を、終わったときは顛末を明確に報告するよう求められます(第540条)。委任事務の処理で受け取った金銭の引渡しと、知人が自分の名義で委任者のために取得した権利の移転は、それぞれ分けて記します(第541条第1・2項)。
冒頭の会社員の手元にあるのは、署名した取り決め1枚、送金記録2件、数枚の残高画面です。取引所での売買の記録は、知人の側にあります。報告と引渡しの請求は、どちらもこの資料をもとに組み立てます。
台湾の弁護士に依頼できること
台湾の弁護士は、署名した取り決め、銀行の送金記録、残高画面やメッセージを読み、二人が民法第528条の委任を約束したかを検討できます。委任なら、第540条に基づく処理中の進行状況または終了時の顛末の報告、第541条第1項に基づく委任事務の処理で受け取った金銭の引渡し、同条第2項に基づく知人名義で委任者のために取得した権利の移転を、請求書面に具体的に示して送付できます。弁護士はその資料をもとに交渉し、必要なら民事上の請求を組み立てて訴訟で代理します。中国語のメッセージも検討する資料です。相場の損失の回復や取引所口座へのアクセスは約束できません。
昊鼎国際法律事務所への相談は、wei@hoveringlaw.com.twにメールでお問い合わせください。事務所は台北市大同区承徳路一段35号7F-2にあります。署名した取り決め、2件の送金記録、知人が送った残高画面が、相談で確認したい資料です。
参考にした公的資料
いずれも2026年10月16日に確認した条文です。
よくある質問
- 知人への送金記録があれば、委任と認められますか。
- 送金記録からわかるのは、お金が知人に渡ったことです。[台湾民法第528条](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=528)の委任には、一方が事務の処理を委託し、他方が引き受ける約定が必要です。署名した取り決めや当時のメッセージをあわせて読みます。送金だけで委任とは決まりません。
- 取引がまだ続いていても、報告を求められますか。
- 取り決めに台湾民法が適用され、委任にあたるなら求められます。[民法第540条](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=540)は、事務の処理中には進行状況を、委任関係の終了時には顛末を明確に報告するよう受任者に義務づけています。知人の取引所口座へのログインや、全取引履歴を決まった形式で受け取る権利まで定めた条文ではありません。
- 相場が下がって損をした場合、送った金額を全額返してもらえますか。
- 台湾民法上の委任であることを前提に、[第540条](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=540)と[第541条](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=541)が定めるのは、報告、委任事務の処理で受け取った金銭・物品・果実の引渡し、自分の名義で委任者のために取得した権利の移転です。この二条が、相場の損失の補填や元本全額の回収を保証するわけではありません。損害賠償の責任は別に検討します。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



