遺体のまま日本へ運ぶのか、台湾で火葬して遺骨を持ち帰るのか。どちらを選ぶにしても、葬儀社と日程を詰める前に、解剖を求めるかどうかを決めておくことになります。火葬の後に解剖はできません。
解剖を求める人、命じる人
請求できるのは、亡くなった人の配偶者と、親や子などの直系血族です。相験の後にその請求が出れば、法医師は検察官に解剖処分を書面で建議しなければなりません(法医師法第10条第1号)。兄弟姉妹の請求はこの号に入りません。もっとも、解剖しなければ死因が分からないときなど同条第2号から第9号の場合には、誰が求めたかにかかわらず法医師が建議します。命じるかどうかは、検証(勘験)の権限を持つ検察官の判断です(刑事訴訟法第212条、第213条第4号)。
病院が負う報告と説明
遺体を検案した医師は、病死でない疑いを持てば検察機関に報告しなければなりません(医師法第16条)。病死でない死亡やその疑いがある死亡では、検察官が速やかに相験(検視)をします(刑事訴訟法第218条)。家族への説明も病院の仕事です。2024年1月1日に施行された医療事故予防及び紛争処理法(醫療事故預防及爭議處理法)により、医療事故があった医療機関は、翌日から5営業日以内に家族へ説明し、話し合いに応じなければなりません(第6条第1項)。言葉や文化の違いで話が通じにくければ、訓練を受けた人が間に入ります(同条第3項)。
その席での謝罪は、後で証拠になるのでしょうか。遺憾や謝罪、譲歩の言葉は、医療紛争の当事者全員が同意しない限り、本案の訴訟で証拠にも裁判の基礎にもならないと第7条が定めています。説明の中身は病院が記録に残し、少なくとも3年保存します(第6条第4項)。
告訴しても、捜査より先に調解
告訴できるのは、配偶者、直系血族、三親等内の傍系血族、二親等内の姻親、家長・家族です(刑事訴訟法第233条第2項)。過失致死罪(刑法第276条)は親告罪ではありません(刑法第287条)。親告罪に限られる6か月の告訴期間(刑事訴訟法第237条)も、ここでは関係しません。
では、告訴状を出せば捜査はすぐ進むのでしょうか。医療紛争の刑事事件なら、検察官はまず事件を管轄の調解会に移さなければならず、移したことは告訴人や家族にも通知されます。調解の間、捜査は止まります(医療事故予防及び紛争処理法第16条第1項・第2項)。調解会は書類がそろってから45日以内に会議を開き、3か月以内に終えるのが原則で、延長しても期間内に終わらなければ不成立とみなされます(第14条)。この法律による調解がすでに不成立に終わった事件などは、先に調解へ回す扱いから外れます(第16条第4項)。
捜査の末に不起訴となれば、告訴人は再議を申し立てられます(刑事訴訟法第256条第1項)。期限は、処分書を受け取ってから10日です。
日本から調解に加わる
担当する調解会は原則として、患者の住所(居所)と病院が同じ直轄市・県(市)にあればその調解会、そうでなければ病院がある直轄市・県(市)の調解会です(医療事故予防及び紛争処理法第13条第2項)。台湾に住所・居所・事務所・営業所のない遺族は、台湾に住所か事務所・営業所のある代理人を立てて申し立てます(医療紛争調解会組織及び運作辦法第7条第2項)。費用はかかりません(医療事故予防及び紛争処理法第30条)。
医療紛争になれば、カルテの写しは相続人も申請でき、病院は申請の翌日から7営業日以内に出さなければなりません(第10条第1項)。費用は申請者の負担です(同条第2項)。損害賠償を求めるときも、訴訟より前にこの調解を申し立てます。いきなり訴えても、第一審の裁判所が調解会に回し、その間は訴訟が止まります(医療事故予防及び紛争処理法第15条第1項・第2項)。不成立証明書が届いた翌日から6か月以内に訴えれば、調解を申し立てた時に訴えたものとみなされます(同条第3項)。求められるのは、医療費・葬儀費用、亡くなった人が法律上扶養義務を負っていた人の扶養料(民法第192条)、父母・子・配偶者の慰謝料(第194条)です。けがの場合のカルテ請求と調解の流れは台湾の病院で治療後に損害が出たときにまとめています。
死因がはっきりしても、過失は別に問われる
基準は医療法にあります。医療者が刑事責任を負うのは、医療上必要な注意義務に違反し、合理的な臨床裁量を超えた場合に限られます(医療法第82条第3項)。
当日は身体拘束が必要だったとはいえず、ベッド柵が上がっていなかったという証言も一人分では足りない。新竹地方法院は2024年12月31日、そう判断して遺族の70万台湾ドルの請求を棄却しました(判決)。入院中に病室で転倒し、翌日亡くなった患者の事件です。地検署の相験証明書には「病床から転落し、頭部鈍力損傷、頭蓋内出血」とあり、看護師らへの告訴は不起訴、再議も退けられていました。第一審判決で、裁判書検索にはその後の審級の記録が見当たりません。
嘉義地方法院では、口頭弁論を終えて言渡しを待っていた遺族の訴訟が、2026年5月7日に弁論再開となりました。訴える前に調解を申し立てていなかったためで、事件は県の調解に回されました(裁定)。調解は不成立。同院はカルテと、衛生福利部の医事審議委員会の鑑定意見を見たうえで、9月9日に請求を棄却しました。検察官や裁判所は、過失を判断するためにこの委員会へ鑑定を委託できます(医療法第98条第1項第4号)。遺族が控訴しており、判決は確定していません(判決、第一審)。
台湾の弁護士は、解剖の請求や告訴状の作成、再議の申立て、民事訴訟を引き受けられ、調解会の運作辦法第7条にいう代理人として調解に出ることもできます。昊鼎国際法律事務所への相談はwei@hoveringlaw.com.twで受け付けています。台北事務所は103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2、台中事務所は40453 臺中市北區館前路19號6樓之1です。台湾にいる間に出しておけるのは、解剖の請求とカルテの写しの申請、そして告訴です。
参考にした公的資料
確認日:2026年10月22日
- 医療事故予防及び紛争処理法(醫療事故預防及爭議處理法)第6条、第7条、第10条、第13条、第14条、第15条、第16条、第28条、第30条。施行日は行政院公報。
- 医療紛争調解会組織及び運作辦法(醫療爭議調解會組織及運作辦法)第7条。
- 刑事訴訟法第212条、第213条、第218条、第233条、第237条、第256条。
- 法医師法(法醫師法)第10条、医師法(醫師法)第16条。
- 医療法(醫療法)第82条、第98条。
- 刑法(中華民國刑法)第276条、第287条。
- 民法第192条、第194条。
- 司法院裁判書検索:臺灣嘉義地方法院113年度醫字第4號 2026年5月7日裁定、2026年9月9日判決(第一審)、2026年10月5日裁定(控訴の裁判費補正命令);臺灣新竹地方法院113年度醫字第2號(2024年12月31日、第一審)。
よくある質問
- 解剖を求められるのは誰ですか。
- 亡くなった人の配偶者か、親や子などの直系血族です。相験の後にその請求があれば、法医師は検察官に解剖処分を書面で建議しなければなりません(法医師法第10条第1号)。解剖しなければ死因が分からないときなど、同条第2号から第9号に当たる場合は、誰が求めたかにかかわらず法医師が建議します。解剖するかどうかは検察官が決めます(刑事訴訟法第212条、第213条第4号)。
- 日本にいる遺族が調解を申し立てるとき、台湾の代理人は必要ですか。
- 必要です。台湾に住所・居所・事務所・営業所がない申立人は、台湾に住所か事務所・営業所のある代理人に委任しなければなりません(医療紛争調解会組織及び運作辦法第7条)。調解の手続に費用はかかりません(医療事故予防及び紛争処理法第30条)。
- 調解が成立した後で、医師を告訴できますか。
- 裁判所の核定を受けた調解の後は、同じ民事事件で改めて訴えることも、医療紛争の刑事事件で告訴や自訴をすることもできません(医療事故予防及び紛争処理法第28条)。合意の前に、刑事手続をどうするかも決めておく必要があります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



