台湾の医療法第71条(醫療法)は、医療機関は患者の求めに応じてカルテ(病歴)の写しを、必要なときは中国語の病歴要約を提供しなければならず、理由なく遅らせたり拒んだりしてはならない、と定めています。費用は患者の負担です。治療の結果に納得がいかないとき、最初に手に入れるべき資料はこれです。
より具体的な期限と手続は、2024年1月1日に施行された医療事故予防及び紛争処理法(醫療事故預防及爭議處理法)が定めています。制定は2022年です。
カルテと同意書の写しは7営業日以内
患者本人や代理人、法定代理人、相続人がカルテの写しを申請した場合、医療紛争が起きているときは、医療機関は申請の翌日から7営業日以内に、カルテと一緒に保存している同意書の写しを提供しなければなりません(同法第10条)。手術や麻酔の同意書は、説明を受けた内容を確かめる手がかりになります。
カルテの保存期間は少なくとも7年で、未成年の患者は成人してから7年です(医療法第70条)。古い治療でも、まず請求してみる価値はあります。台湾の別の病院で治療を続ける場合は、患者や家族の同意を得たうえで、その病院が元の病院にカルテの写しや検査報告を求めることができ、元の病院は拒めません(医療法第74条)。
ここでいう医療紛争は、患者側が「この悪い結果は医療者や医療機関が責任を負うべきだ」と考えて生じた争いを広く指します(医療事故予防及び紛争処理法第3条第2号)。一方、医療事故は、医療サービスを受けて重大な傷害や死亡という結果が生じたもので、病気そのものや、医療処置では避けられない結果は含みません(同条第1号)。
病院からの説明と、言葉の壁
事故が起きると、医療機関は「医療事故関懐小組」(醫療事故關懷小組)というチームをつくり、事故の翌日から5営業日以内に患者や家族に説明し、話し合い、支援をすることになっています(第6条)。99床以下の病院や診療所は、専門の担当者を指定したり外部の機関に任せたりできます。
外国人に関わるのは同条第3項です。患者や家族が言語や文化の違いで意思疎通が難しいときは、相応の訓練を受けた人が説明や話し合いを手助けすることとされています。中国語での説明が十分に理解できなければ、その旨を病院に伝えて、この規定に沿った対応を求められます。
患者が薬害救済法(藥害救濟法)、生産事故救済条例(生產事故救濟條例)、伝染病防治法(傳染病防治法)の予防接種被害救済の対象に当たる場合、医療機関は自分から関連情報を伝え、手続を手伝うことになっています(同条第5項)。薬の副作用や出産時の事故では、賠償を求める前にこうした救済制度が使えるかどうかを確かめる意味があります。
この説明の場で病院側が遺憾の意や謝罪を述べても、当事者全員が同意しない限り、その発言は後の訴訟で証拠や判断の基礎にはされません(第7条)。説明の場での謝罪が、そのまま責任を認めた証拠になるわけではありません。
訴える前に、医療紛争調解会での調解が必要
順番は決まっています。医療紛争で民事訴訟を起こすには、その前に、医療事故予防及び紛争処理法に基づく調解を申し立てなければなりません(第15条第1項)。申し立てずに訴えると、第一審の裁判所が事件を調解会に回し、その間は訴訟が止まります(同条第2項)。不成立に終わったときは、不成立証明書が届いた翌日から6か月以内に訴えれば、調解を申し立てた時に訴えたものとみなされます(同条第3項)。
調解を行うのは、直轄市や県・市の政府がつくる医療紛争調解会です(第12条)。委員は医学、法律などの専門家9人から45人です。医学以外の委員が3分の1以上を占めます。患者の住所と医療機関が同じ自治体にあればその自治体の調解会、違えば医療機関の所在地の調解会が担当します。当事者全員が同意し、申立てを受けた調解会も同意すれば、別の自治体の調解会でも調解できます(第13条第2項)。台湾に住所がない旅行者なら、治療を受けた病院の所在地の調解会になるのが基本です。
書類がそろってから45日以内に、調解会は調解の会議を開き、3か月以内に終えます。必要なら1回だけ3か月延長でき、当事者が合意すればもう1回延ばせます。期間内に終わらなければ不成立とみなされます(第14条)。費用はかかりません(第30条)。
当事者は本人か代理人が出席し、それぞれ1人から3人を同席させることができます。代理人を立てれば、帰国後も続けられます。医療機関は、調解で決める権限を持つ代表者を出席させなければなりません(第19条)。第21条により、自治体は調解のために、医療機関にカルテや診療記録の提出を期限付きで命じることができます。調解の場での謝罪や譲歩も、当事者全員の同意がなければ訴訟で使えません(第23条)。手続は原則として非公開で、調解委員と相手方の同意なしに、調解の様子を録音・録画したり広めたりすることは禁じられています(第18条)。録音はできません。調解の内容は、成立したときに作られる調解書で確かめます。調解書は成立した当日に作られ、当事者、代理人、出席した調解委員が署名または押印します(第26条第1項)。
成立すれば調解書が作られ、裁判所の核定(承認)を受けます(第27条)。核定された民事の調解は確定判決と同じ効力を持ち、同じ件で改めて訴えることはできなくなります(第28条)。
刑事事件では、検察官が捜査し、または裁判所が審理する医療紛争の事件が、原則として先に調解会に回され、その間は捜査や審理が止まります(第16条第1項)。この法律による調解がすでに不成立に終わっている事件や、刑事訴訟法の一定の規定(第161条第2項、第252条第1号から第9号、第302条から第304条など)に当たる事件には、この移付の規定が適用されません(同条第4項)。調解が不成立に終わったときは、不成立証明書が届いた翌日から6か月以内に告訴すれば、調解を申し立てた時に告訴したものとみなされます(同条第3項)。
専門家の意見を聞く手段
医学的な見方を調解の前後に知りたいときは、カルテの写しを添えて費用を払い、国の委託を受けた財団法人に医事専門諮詢(専門的な相談)を申請できます(第9条)。ただし、ここでの意見は、当事者全員が同意しない限り訴訟の証拠にはなりません(第4条第4項)。あくまで参考資料です。
医師と病院の賠償責任
出発点の一つは、治療前の説明です。医療法第81条は、医療機関は患者や家族に、病状、治療方針、処置、薬、予後、起こり得る副作用を告げなければならないとしています。どの説明を受け、どの同意書に署名したか。先に請求した同意書の写しと照らし合わせます。
医療法第82条は、医師など医療者個人が患者に与えた損害を賠償するのは、故意の場合か、医療上必要な注意義務に違反し、かつ合理的な臨床の専門的裁量を超えた場合に限るとしています。その判断は、その医療分野の当時・当地の医療常規、医療水準、設備、勤務条件、緊急性といった客観的な状況によります。これに対し、医療機関は故意または過失があれば賠償責任を負います(同条第5項)。病院を相手にするか医師個人を相手にするかで、立証すべき内容が違います。
不法行為による損害賠償請求権は、損害と賠償義務者を知った時から2年、行為の時から10年で時効により消滅します(民法第197条)。契約に基づく請求など別の根拠を使うときは、期限の数え方が変わり得ます。帰国して治療を続けるうちに期限が近づくこともあるので、調解の申立て時期は早めに考えておく必要があります。
カルテ請求の書面から調解会への申立て、期日への代理出席、訴訟に進む場合の見通しまでは、昊鼎国際法律事務所(wei@hoveringlaw.com.tw)に日本語で相談できます。治療を受けた病院名と期間、手元の診断書や領収書、病院とのやり取りの記録があれば、手続の順番は早く決まります。初回相談は1時間NT$3,000、オンラインでも受け付けています。
参考にした公的資料
- 医療事故予防及び紛争処理法 第3条、第4条、第6条、第7条、第9条、第10条、第12条、第13条、第14条、第15条、第16条、第18条、第19条、第20条、第21条、第23条、第26条、第27条、第28条、第30条、第42条(民国111年6月22日制定公布、民国113年1月1日施行)
- 医療法 第70条、第71条、第74条、第81条、第82条(民国115年9月23日改正版)
- 民法 第197条
- 全国法規資料庫 医療事故予防及び紛争処理法の沿革(行政院令による施行日)
確認日:2026年10月6日(台湾時間)
よくある質問
- 日本に帰国した後でも、台湾の医療紛争調解に参加できますか?
- 医療事故予防及び紛争処理法第19条第1項は、当事人は本人が出席するか代理人に委任して出席するとしています。代理人に任せれば、帰国後も手続を続けられます。正当な理由なく本人も代理人も出席しないと、調解は不成立とみなされ(第20条)、過料の対象にもなります(第42条)。
- 調解を申し立てずに、いきなり訴訟を起こしたらどうなりますか?
- 医療事故予防及び紛争処理法第15条第2項により、第一審の裁判所は事件を管轄の調解会に回して先に調解をさせ、その間は訴訟手続が止まります。訴えが却下されるわけではありませんが、結局は調解を経ることになります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



