台湾で住宅を借りるとき、押金(敷金に当たる保証金)として預けられる額は家賃の2か月分までです。例えば家賃が月2万5,000台湾元なら、上限は5万台湾元になります。この上限は租賃住宅市場発展及管理条例第7条第1項(租賃住宅市場發展及管理條例)と土地法第99条第1項の両方に書かれています。
退去のあとに押金が戻ってこない、一部しか戻らないというとき、まず押さえたいのはこの上限と、押金が何のために預けられるお金なのかです。この二つが、家主とのやり取りの軸になります。
3か月分を払っていたら
上限を超えて押金を払ってしまった場合、超えた分は家賃の支払いに充てることができます(土地法第99条第2項)。月2万5,000元で3か月分の7万5,000元を払っていたなら、超過した2万5,000元は翌月の家賃に回せる計算です。もっとも、黙って家賃を払わないと滞納と受け取られかねないので、条文を示して書面で伝えておくほうが後の争いを避けられます。
旅行や休暇のための賃貸、賃貸期間が30日に満たない契約などには、条例は適用されません(第4条)。短期滞在用の部屋を借りた場合は、条例の規定がそのまま当てはまるかを別に見る必要があります。
押金が担保するもの
条例は押金を「承租人為擔保租賃住宅之損害賠償行為及處理遺留物責任,預為支付之金錢」と定義しています(第3条第13号)。借主が部屋を傷めたときの損害賠償と、退去後に残した物の処理の責任を担保するために、前もって払うお金という意味です。
裏を返すと、押金は何にでも充てられるお金ではありません。充てられるのは、未払いの家賃など契約から生じた債務(条例第7条第2項)と、借主の損害賠償、そして退去後に残された物を貸主が期限を決めて催告しても借主が取りに来ないときの処理費用(条例第12条第2項)です。民法は、借主は善良な管理者の注意で借りた物を保管し、それに反して壊したり失わせたりしたときに賠償責任を負うとしています。ただし、契約で決めた方法や物の性質に沿って使った結果の変化や傷みは、賠償の対象外です(民法第432条)。日焼けした壁紙や家具を置いていた床のへこみが通常の使用の範囲に入るかは個別の判断になりますが、少なくとも「退去したら一律に清掃代を引く」という扱いが当然に認められるわけではありません。
窓口が管理会社のこともあります。条例は、家主の委託を受けて賃貸住宅を管理する会社を代管業と呼び、その業務に部屋の状態や設備の引渡し確認、家賃の受取りと押金の管理を含めています(第3条第4号・第6号)。押金の精算額に納得できないときは、管理会社に内訳を求めるのが最初の一歩になります。
返すのは、部屋を返して債務を精算したとき
貸主は、契約が終わり、借主が部屋を返し、契約から生じた債務を清算したときに、押金か、債務に充てた後の残りを返さなければなりません(条例第7条第2項)。返す時期は契約の終了日そのものではなく、明け渡しと精算が終わった時点です。最後の月の電気代や水道代の精算を理由に押金の返還が少し遅れることはあり得ますが、差し引いた額と内訳を示してもらうよう求めて構いません。
修理代はどうでしょうか。修繕は、契約に別の定めや慣習がなければ貸主の負担です(民法第429条)。住んでいる間にエアコンが壊れ、それが貸主の負担で直す設備であるのに、貸主に期限を決めて修理を頼んでも直してもらえなかった場合、借主は自分で修理して費用を請求するか、家賃から差し引くことができます(条例第8条第3項、民法第430条)。貸主が負担すべき修理代を、退去時に押金から引くのは筋が違います。
帰任で契約期間の途中に出るとき
駐在の任期が急に短くなって、1年契約の途中で部屋を出ることになったら、どうなるでしょうか。条例第11条が、借主が賠償なしに途中で契約を終えられる場合として挙げているのは四つです。病気や事故で長期の療養が必要になったとき、部屋が住める状態でないのに期限を決めて催告しても修繕されないとき、借主の責任でない理由で部屋の一部が失われて残りに住み続けにくいとき、そして第三者が部屋について権利を主張して住めなくなったときです。この場合も、終了の30日前までに証拠を添えて書面で通知しなければなりません。
転勤や帰任は入っていません。そのため、途中で出るときの扱いは、まず契約書の「提前終止」の条項で決まります。そこに定めた予告期間や違約金は押金の精算に影響するので、違約金の額が妥当かどうかも契約書とあわせて確認します。契約前に、途中解約の条項があるか、あれば何か月前の予告でいくらかかるのかを読んでおくと、帰任の内示が出てから慌てずに済みます。
反対に、貸主のほうから途中で契約を終えられるのは、借主が部屋を壊して修繕も賠償もしないとき、家賃や諸費用の滞納が2か月分に達し催告しても払わないとき、書面の同意なく又貸ししたとき、建て替えのために取り戻す必要があるとき、そのほか法律が途中終了を認めているときです。通知は、30日前(建て替えは3か月前)までに書面で行わなければなりません(条例第10条)。
又貸し(二房東)から借りている場合
持ち主から借りた人(いわゆる二房東)から、さらに借りていることもあります。条例第9条は、又貸しには持ち主の書面による同意が必要で、又貸しする人は契約のときにその同意書面を借主に示し、持ち主との契約の範囲、期間、終了事由を契約書に書かなければならないとしています。押金を預けた相手が誰なのかで返還を請求する相手も変わるので、契約書の貸主欄と振込先の名義が一致しているかを確かめておくと、後で請求先を迷いません。
契約書の条項がおかしいと感じたら
消費者保護法も使えます。条例第5条第1項は、住宅の貸主と借主の関係を消費関係とみなし、消費者保護法を適用するとしています。家主側があらかじめ用意した定型の契約条項(定型化契約条款)のうち、誠実信用の原則に反して借主に著しく不公平なものは無効になり(消費者保護法第12条)、意味がはっきりしない条項は借主に有利に解釈されます(同法第11条)。「理由を問わず押金は返還しない」といった条項は、この観点から争える余地があります。
退去の日に残しておきたい記録
証拠の中心は写真です。入居時に撮った写真があれば、退去の日も同じ場所を同じ角度で撮っておくと、比べやすくなります。鍵を返した日時と相手、立ち会った人、その場で指摘された傷を書き留めておけば、明け渡しが終わった時点を示せます。条例第12条第1項は、返還のときに貸主と借主が共同で部屋と設備の状態を確認する(点交)と定め、一方が立ち会わなくても、他方が期限を決めて催告したのに応じなければ点交は済んだものとみなします。家主とのやり取りはLINEでも構いませんが、日本に帰国した後も読み返せるよう、画面を保存しておくと安心です。
返してもらえないとき
住宅の賃貸をめぐる争いは、貸主も借主も、直轄市や県・市の政府に調処を申し立てられ、費用はかかりません(条例第16条)。
裁判所に請求する場合、請求額が10万台湾元以下の金銭請求には少額訴訟の手続が使われます(民事訴訟法第436条の8)。家賃が月5万台湾元以下なら、2か月分の押金はこの範囲に収まります。
反対に、家主が部屋の損害を理由に借主へ賠償を求める権利は、部屋が返されたときから2年で時効により消滅します(民法第456条)。帰国後しばらくしてから高額な修理代を請求されたときは、この期間も確認材料になります。
賃貸借契約書、押金の振込記録や領収書、入居時と退去時の写真。この三つがそろっていれば、返還を求められる額の見当は最初の相談でつきます。家主への請求書面や、調処・少額訴訟の進め方は、昊鼎国際法律事務所(wei@hoveringlaw.com.tw)で日本語で相談できます。初回相談は1時間NT$3,000、オンラインでも受け付けています。
参考にした公的資料
- 租賃住宅市場発展及管理条例 第3条、第4条、第5条、第7条、第8条、第9条、第10条、第11条、第12条、第16条(民国112年2月8日改正版)
- 土地法 第99条
- 民法 第429条、第430条、第432条、第456条
- 消費者保護法 第11条、第12条
- 民事訴訟法 第436条の8
確認日:2026年10月6日(台湾時間)
よくある質問
- 契約書に「押金は家賃3か月分」と書かれていて、もう払ってしまいました。
- 住宅の押金は家賃2か月分を超えてはならないと、租賃住宅市場発展及管理条例第7条と土地法第99条が定めています。土地法第99条第2項により、上限を超えて払った分は家賃の支払いに充てることができます。
- 退去のとき、家主から壁の汚れの清掃代を押金から差し引くと言われました。
- 押金は、借主の損害賠償と残置物の処理の責任を担保するために預けるお金です(同条例第3条第13号)。契約で決めた方法や部屋の性質に沿って普通に使った結果の変化や傷みについては、借主は賠償責任を負いません(民法第432条第2項ただし書)。汚れが通常の使用の範囲を超えるかどうかが争点になるので、入居時と退去時の写真が判断材料になります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



