日本の菓子メーカーが、5年ほど取引した台湾の輸入代理店から別の会社に販売を切り替えようとしました。そこで止まります。新しい取引先の返事は「その名前は台湾では前の代理店が商標登録しているので、うちでは売れない」というものでした。調べると、ブランド名は確かに前の代理店の名義で登録されていました(架空の例です)。
台湾の商標法には、この種の登録を取り消すための規定があります。中心になるのは商標法第30条第1項第12号で、使える手続と期限は、登録公告からどれだけ経ったかによって変わります。
台湾の商標は登録で生まれる
第2条は、商標権を取得しようとする者は商標法に基づいて登録を申請しなければならないと定めています。権利が生じるのは登録公告の日からで、存続期間は10年、10年ごとに更新できます(第33条)。台湾では、登録した人が権利者です。日本で登録を持っていても、台湾で出願していなければ、台湾で同じ名前を登録した人が、その登録が取り消されるまでは台湾の商標権者です。
出願の受付と審査は、経済部が指定する専責機関(第3条)、つまり経済部智慧財産局が担います。異議・評定・廃止の申立てもここに出します。
代理店の「先取り」を拒む第30条第1項第12号
第12号が登録を認めないのは、他人が先に同一・類似の商品やサービスに使っていた商標と同一・類似の商標を、申請人が真似る意図で出願した場合です。申請人が契約、地縁、業務上の取引その他の関係によってその商標の存在を知っていたことも、要件に入っています。輸入代理店や販売店は、まさに「契約」や「業務上の取引」で商標を知る立場にあります。
先に使っていたかどうかは、出願の時点を基準に判断されます(第30条第2項)。代理店との契約書、発注や出荷の記録、ブランド名入りの商品を代理店に送った資料など、代理店が出願より前にこのブランドを知っていたことを示す書類が、主張の土台になります。
ただし、ブランドの持ち主が登録に同意していた場合は、この号は適用されません(第12号ただし書)。過去のメールで「台湾での商標登録はそちらでお願いします」とやり取りしていた、という事情があれば話が変わります。同意の有無を契約書の条項だけで判断できるとは限らず、当時のやり取り全体が問題になると考えられます。
ブランドが台湾で広く知られている場合は、第11号(著名商標と同一・類似で混同や識別力の毀損のおそれがあるもの)も主張できる可能性があります。第11号には、5年が過ぎても悪意があれば評定できる例外があり(第58条第2項)、第12号にはその例外がありません。
公告から3か月なら異議、5年以内なら評定
登録公告から3か月以内であれば、異議を申し立てられます(第48条第1項)。申立人に資格の制限はありません。ブランドの持ち主自身でなくても、新しい販売先が申し立てることもできるということです。異議書には事実と理由を書き、副本を付けます(第49条)。違法な登録かどうかは、原則として登録公告時の規定で判断されます(第50条)。
代理店がロゴ、カタカナ表記、中国語の表記をそれぞれ別の商標として登録していることもあります。異議は登録ごとに一件ずつ申し立てるもので(第48条第3項)、指定商品・サービスの一部に絞って申し立てることもできます(同条第2項)。たとえば菓子とコーヒーの両方を指定した登録で、自社が扱うのが菓子だけなら、菓子の部分に絞る選択肢があります。申し立てた後は、智慧財産局が異議書を代理店に送って答弁を求め、答弁書が出ればそれをこちらに送って意見を求める、という順で書面のやり取りが進みます(第49条第2項)。手続が遅れるおそれがあるときや事実関係がすでに明らかなときは、答弁や意見を求めずに審理されることもあります(同条第3項)。
3か月を過ぎても、利害関係人は評定を申し立てられます(第57条第1項)。申し立てられる人は限られます。その代わり、期限は長くなります。第30条第1項第9号から第15号に当たることを理由とする評定は、登録公告から5年が経つと申し立てられません(第58条第1項)。
見落としやすいのは、5年の制限を外す悪意の例外(第58条第2項)が、第9号と第11号にしか書かれていない点です。代理店がどれほど意図的に先取りしていても、第12号だけを理由にする評定は5年で締め切られます。登録を見つけたら、最初に確かめたいのは登録公告の日です。期限はそこから数えます。公告日が起点です。仮に2022年3月に公告された登録なら、異議の期間はとうに過ぎています。評定の期限は別です。第12号を理由とする評定は、満5年となる2027年3月まで申し立てられる計算です。期間の末日の数え方は個別に確認が要るので、余裕を持って準備を始めるほうが安全です。
5年を過ぎた後に残る道
一つは、ブランドが台湾で著名だったと示して第11号を主張し、代理店の悪意を立証する方法です。もっとも、著名かどうかの判断は出願時が基準で(第30条第2項)、台湾での販売規模や報道、広告の資料が必要になります。
もう一つは不使用による廃止です。登録後、正当な理由なく3年以上使われていないか、いったん使った後で3年以上使用をやめていれば、廃止を申請できます(第63条第1項第2号)。ただし、使用許諾を受けた者が使っている場合は、この理由では廃止されません(同号ただし書)。取引をやめた代理店が商品を扱っていないなら、この道が現実的なこともあります。ただし、廃止の申請時に使用が再開されていれば、廃止の申請が出ると知って申請前3か月以内に使い始めた場合を除き、登録は廃止されません(第63条第3項)。
代理店側から侵害だと言われたら
取消しが決まるまでは、代理店が商標権者のままです。立場は逆転します。商標権者の同意なく同一の商品に同一の商標を使うことなどは侵害とされ(第68条)、差止めや損害賠償の請求を受けるおそれがあります(第69条)。
第36条第1項第4号は、他人の出願日より前から善意で使っていた商標には商標権が及ばないとしています。ただ、守られるのは元の使用の範囲に限られ、商標権者は区別のための表示を求めることができます。新しい販売先に切り替えて取扱商品を広げる計画なら、この規定だけに頼るのは危うく、登録そのものを争う手続と並行して進めるのが現実的です。
登録が消えても、自社の権利は自動では生まれない
異議や評定で代理店の登録が取り消されても、その権利がブランドの持ち主に移るわけではありません。空白が生まれます。台湾で商標権を持つには自社名義で出願して登録を受ける必要があり(第2条)、権利が生じるのはその登録公告の日からです(第33条)。並行して自社名義の出願を出しておけば、その空白を短くできます。
代理店の登録より後に出願すると、審査で代理店の登録や先の出願と同一・類似だと指摘されることがあります(第30条第1項第10号)。どの順番で何を出すかは、代理店名義の登録がいくつあるか、それぞれの公告日がいつかを並べてから決めます。
代理店契約に書いておくこと
これから台湾の代理店と契約するなら、商標は自社に帰属し代理店は台湾で出願しないこと、代理店名義で登録してしまった場合は無償で譲渡すること、を契約に入れておくと、第12号の「契約関係」と「知っていたこと」を示す材料にもなります。自社名義で台湾に出願しておけば、そもそもこの問題は起きにくくなります。
最初に見るのは、台湾の登録公報の写し(登録番号でも構いません)です。公告日がわかれば、異議・評定・廃止のどれが間に合うかをすぐ数えられます。代理店との契約書と、取引の開始時期がわかるメールや発注書もあれば、第12号の主張の土台が見えてきます。申立書の作成や代理店契約の商標条項の確認は、昊鼎国際法律事務所が日本語で引き受けています。初回相談は1時間NT$3,000で、オンラインでも受け付けています。連絡先はwei@hoveringlaw.com.twです。
参考にした公的資料
確認日:2026年10月6日(台湾時間)
よくある質問
- 登録公告から3か月を過ぎてしまいました。もう争えませんか?
- 異議の期間(商標法第48条)は過ぎていても、利害関係人であれば評定を申し立てられます(第57条)。代理店が契約や取引を通じて商標を知りながら真似て出願したという理由(第30条第1項第12号)による評定は、登録公告から5年が経つとできなくなります(第58条第1項)。
- 代理店名義の登録から5年以上経っていたら、取り戻す方法はありませんか?
- 第58条第2項は、著名商標と同一・類似の登録(第30条第1項第11号)で悪意がある場合を5年の制限の例外としています。また、登録後に正当な理由なく3年以上使われていなければ、第63条第1項第2号により登録の廃止を申請できます。どちらも、著名性や不使用を示す証拠がそろうかどうかで見通しが変わります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



