存證信函(cúnzhèng xìnhán)は、書留の信函と同じ内容の副本を、台湾の郵便局が3年間保管する制度です。日本の内容証明も、日本郵便が文書の内容を証明する制度で(郵便法第48条)、いつ、どんな内容を出したかを残すために使います。どちらも、出したこと自体に支払いや解除の効力が結び付くわけではありません。日本では民法第97条第1項の到達が、台湾では民法第95条の到達と第229条の催告が、効力を決めます。問われるのは、何をいつ相手に到達させたかです。
郵便局が同じ内容の副本を3年間保管する
定義は郵件處理規則第34条にあります。書留の信函を差し出すときに存證の料金を加え、中華郵政の定める方式で書き、内容が完全に同じ副本を郵便局に残して証拠に備えるもの。それが存證信函です。副本の保存は差出日から3年間で、期間が過ぎると廃棄されます。
では何が証明できるのか。「この内容の文書を、この日に、この宛先へ書留で差し出した」という事実です。相手がいつ受け取ったかは、書留に回執を付けておくと、受取人が署名して返送する回執で確かめられます(郵件處理規則第28条第2項)。3年を過ぎると郵便局の副本はなくなるので、長い争いが予想される場合は自分の控えと配達記録を別に保管しておきます。
書き方は中華郵政の様式に従います。文面は中国語で作るのが通常です。日本語の文面をそのまま入れることは実務上勧めません。相手が読めない文面は、到達したとしても内容が伝わったかを争われる余地を残すからです。
効力は「到達」と「催告」から生じる
意思表示が効力を生じる時点は、台湾民法の第95条が定めています。対話者でない相手への意思表示は、通知が相手に到達した時に効力を生じます。契約の解除、賃貸借の終了通知、相殺の意思表示など、相手に届いて初めて意味を持つ通知は、この「到達」をどう証明するかが争点になります。存證信函と書留の配達記録は、その証明のために使われます。
支払いの請求では第229条が働きます。期限が決まっている債務なら、債務者は期限が来ただけで遅延責任を負います。期限の定めがない債務は、債権者が請求できる状態になった後に催告し、それでも支払われなければ催告を受けた時から遅延責任が始まります。催告に期限を付けた場合は、その期限が過ぎた時からです。訴状の送達や支払命令の送達も催告と同じ効力を持つと同条は定めています。
契約で支払期日を決めてあれば、第229条第1項により、期日が過ぎた時から債務者は遅延責任を負い、金銭債務なら法定利率(年5%)か、より高い約定利率の遅延利息を請求できます(第233条第1項、第203条)。この場合、存證信函がなくても遅延責任は生じています。請求書に書いた支払期日が契約上の合意と言えるかどうかは、契約書と取引の経過で判断します。期日の定めがない請求や、契約上「催告後○日以内に支払わなければ解除できる」といった条項がある場合に、催告の日付を固定する手段として存證信函が意味を持ちます。
存證信函を使う場面
取引先が売掛金を払わないとき、存證信函は訴訟や支払命令の前段階として使われます。相手に「このまま放置すれば法的手続に進む」という認識を与え、後の手続で催告の事実を示すためです。売掛金の回収の流れ全体は台湾の取引先が売掛金を払わないで扱っています。
解除や更新拒絶の通知、賃貸借で借主や貸主に是正を求める通知、保証金の返還請求も典型的な場面です。通知の内容に期限と、期限を過ぎたときに何をするかを書き、相手が到達を否定しにくい住所(登記上の本店所在地や契約書記載の住所)へ送ります。
存證信函に支払いを強制する力はありません。出す前に、期限が来たら支払命令や訴訟へ進むかどうかを決めておくと、文面に書く期限と次の手続を具体的にできます。
時効との関係:催告だけでは6か月しか持たない
時効対策として送る場合は、条文の細部が結果を分けます。台湾民法の消滅時効は第125条により原則15年ですが、第127条は商人や製造業者が供給した商品の代金、運送費、宿泊費・飲食費、医師や弁護士の報酬、請負人の報酬などについて2年の短い時効を定めています。契約の準拠法が台湾法である場合、日本の会社が台湾の販売先に納めた商品の代金は、この2年に当たる可能性が高い請求権です。準拠法は当事者の意思で決められるため(涉外民事法律適用法第20条第1項)、日本法を準拠法とする契約では、時効の期間を台湾民法だけで判断できるとは限りません。時効は第128条により請求できる時から進みます。
中断の事由は第129条が定めていて、請求、承認、起訴の三つです。支払命令の申立て、調解や仲裁の申立て、強制執行の申立てなどは起訴と同じ効力を持ちます。存證信函による催告は、このうちの「請求」に当たります。
落とし穴は第130条です。請求によって中断した時効は、請求の後6か月以内に訴えを起こさなければ中断しなかったものとみなされます。送っただけで安心して半年が過ぎると、中断はなかったものとみなされ、時効は催告がなかった場合と同じように進みます。2年の時効が迫っている売掛金に存證信函を送るなら、その日から6か月以内に支払命令や訴訟へ進む予定とセットで考えることになります。相手が債務を認める返事(承認)をすれば別の中断事由になるので、返信があればその書面も保管します。
次の一手:支払命令は、送達から20日以内に異議がなければ執行名義になる
次の一手は多くの場合、民事訴訟法第508条の支払命令(支付命令)です。裁判所は債務者を審尋せずに申立てだけで命令を出し(第512条)、債務者は第516条により送達から20日以内なら理由を付けずに異議を出せます。異議が出れば、その範囲で命令は効力を失い、申立ては起訴または調解の申立てとみなされて通常の訴訟や調解に移ります(第519条第1項)が、異議がなければ第521条により支払命令はそのまま執行名義になり、裁判所が確定証明書を出します。
催告した日付と内容は、この申立てで請求の経緯を示す資料になります。6か月以内に支払命令を申し立てれば、第129条第2項により起訴と同じ効力があります。6か月以内に申し立てるか訴えを起こすかが、第130条との関係で分かれ目になります。
日本からの依頼で実際に起こること
日本の会社や個人が台湾の相手に通知を出す場合、台湾の弁護士が依頼者の指示で文面を中国語で作り、台湾の郵便局から差し出すのが通常の流れです。差出人を弁護士名にするか依頼者名にするかは、通知の性質と、その後の交渉を誰が担当するかで決めます。文面の確認には、契約書、請求書、これまでのやり取りのメール、相手の登記情報が要ります。
通知の文面と送付先、その後の支払命令や訴訟の段取りは、昊鼎国際法律事務所(wei@hoveringlaw.com.tw)へ日本語でご連絡ください。相手との契約書、未払いの請求書と支払期日、相手の会社名と登記上の住所がわかる資料を添えていただくと、催告の日付と時効の残りを先に確認できます。
参考にした公的資料
確認日:2026年10月6日(台湾時間)。
よくある質問
- 存證信函を送れば、相手は支払わなければならなくなりますか?
- 書面そのものに支払いを強制する力はありません。効力は民法から生じます。支払期限の定めがない債務は、第229条第2項により、債権者が催告しても支払われなければ催告を受けた時から遅延責任が始まります。期限を定めて催告すれば、その期限が過ぎた時から遅延責任を負います(同条第3項)。存證信函は、その催告がいつ届いたかを証明する手段です。
- 日本から送れますか?
- 存證信函は台湾の郵便局で書留に存證の料金を加えて出すもので、中華郵政の定める書き方に従います。日本からは、台湾の弁護士に依頼して台湾内で差し出すのが通常です。日本の内容証明は日本郵便の制度(郵便法第48条)で、台湾の郵便局が副本を3年間保管する存證信函の仕組みとは別です。存證信函を使うなら、台湾の郵便局で差し出すことになります。
- 相手が受け取りを拒んだら無意味ですか?
- 民法第95条第1項は、対話者でない相手への意思表示は通知が相手に到達した時に効力を生じると定めています。受取拒否や不在で返送された場合に到達したと扱われるかは、条文だけでは決まらず、送付先の住所が正しいか、相手が受領を避けたと言える事情があるかを見て個別に判断されます。返送された封筒は開封せずに保管します。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



