台湾の取引先が売掛金を払わない:支払命令・仮差押え・強制執行の進め方
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台湾の取引先が売掛金を払わない:支払命令・仮差押え・強制執行の進め方

約12分

台湾の販売先に製品を納め、請求書は出したのに、期日を過ぎても入金がない。日本の経理部門から法務部門に相談が回ってくるのは、たいていこの段階です。逆に、前払金を送ったのに台湾の仕入先が出荷しない、というご相談も同じ手順で考えます。

日本側の初動でいちばん差がつくのは、時効の起算点を把握しているかどうかと、資料が揃っているかどうかです。台湾の会社に対しては、日本から電話で催促を重ねるより、台湾の裁判所の手続きに乗せたほうが手続きを進めやすくなる場合があります。

契約書と手元の証拠を確認する

基本契約書、個別の注文書、請求書の裏面の取引条件のうち、どれが契約の内容になっているかをまず確定します。そのうえで、次の三か所を探してください。

一つ目は準拠法です。台湾の涉外民事法律適用法第20条は、契約から生じる債権関係の成立と効力について、当事者の意思で適用法を定めるとしています。明示の合意がなければ関係が最も密接な法によります。日本法を選んでいても、台湾の裁判所で審理される以上、手続きは台湾の民事訴訟法で進みます。

二つ目は管轄条項です。台湾の民事訴訟法では、被告の住所地や主たる営業所所在地の裁判所が管轄を持つのが原則で(第1条、第2条)、契約で履行地が定められていれば、その履行地の裁判所も選べます(第12条)。「東京地方裁判所を専属管轄とする」という専属的な合意がある場合、台湾で訴えても相手方がそれを主張すれば、訴えが退けられる可能性があります。かといって日本で勝てば済むとも限りません。相手の資産が台湾にあるなら、日本の判決は台湾で改めて執行許可を受ける必要があるからです(後述)。

三つ目は仲裁条項です。仲裁合意は書面が要件で、書簡、電報その他これに類する通信から仲裁の合意が認められる場合も含まれます(仲裁法第1条)。仲裁合意があるのに台湾の裁判所へ訴えを起こすと、相手方の申立てで訴訟が停止され、期間内に仲裁の申立てをするよう命じられます(同法第4条)。仲裁条項が入っていると分かっていれば、最初から仲裁で進めるかどうかを決められます。

台湾の裁判所に出す書類は、日本語のままでは足りず、中国語訳が要ります。訳す前に、日本側で次の資料を一か所に集めてください。

  • 基本契約書・覚書・個別契約(署名・押印のあるもの)
  • 発注書(PO)、注文請書、注文確認のメール
  • 納品書、出荷記録、船荷証券(B/L)やエアウェイビル、検収書・受領サイン
  • 請求書とその送付記録、入金消込の一覧
  • 催促のメールやチャットの履歴(LINE、WeChat、Teamsを含め、日付が分かる形で)
  • 相手方が値引きや不良を主張しているなら、その連絡記録

相手方については、経済部商業発展署の商工登記公示資料查詢服務で、会社名、代表者、登記上の所在地などを確認します。契約書の会社名が旧名称や略称であることもあるので、登記簿上の正式名称を照合します。登記上の所在地は、後で裁判所に書面を送る際の宛先にもなります。

時効:日本の感覚だと足元をすくわれる

日本の民法では、権利を行使できることを知った時から5年が原則です(2020年4月施行の改正後)。同じ感覚で台湾の取引先への請求を寝かせておくと、思わぬ短さで権利を失うことがあります。台湾の民法第125条は請求権を15年で消滅させるとしつつ、法律に短い期間の定めがあればそちらによるとしています。その短期規定のひとつが第127条です。第8号に「商人、製造人、手工業人所供給之商品及產物之代價」とあり、商人・製造人・手工業人が供給した商品と産物の代金は2年間行使しないと消滅します。加工賃のように請負(承攬)の報酬にあたるものは、第7号で同じく2年です。サービス料や前払金の返還請求が2年か15年かは、契約の性質と事実関係で分かれます。

起算点は、請求権を行使できる時からです(第128条)。請求書の支払期日が3月末なら、その翌日から数えるのが基本の考え方です。時効が完成すると、債務者は支払いを拒むことができます(第144条)。

ただし、この2年がそのまま日本の売主に当てはまるとは限りません。時効に適用される法律は、その債権の準拠法と同じです(涉外民事法律適用法第36条)。契約で日本法を選んでいれば、台湾の裁判所でも日本民法の時効(権利を行使できることを知った時から5年など)で判断されます。準拠法の定めがなくても、売主の引渡しのように契約を特徴づける債務を負う側の住所地法が、最も関係の深い法律と推定されます(同法第20条第3項)。日本の売主なら日本法が推定されやすい一方、これは推定にすぎず、争いになることもあります。どの法律によるか固まらないうちは2年で動く、というのが安全側の選択です。すでに2年を過ぎていても、準拠法によっては請求できる場合があるので、諦める前に確認してください。

時効を止める(中断させる)方法は第129条にあります。請求、承認、起訴の三つです。督促手続で支払命令を申し立てること、調停の申立て、仲裁の申立て、強制執行の申立てなども、起訴と同じ効力があるとされています。ここに落とし穴があります。請求で中断させた場合、請求から6か月以内に訴えを起こさないと、中断しなかったものとみなされます(第130条)。催促を何度繰り返しても、6か月以内に訴えを起こさなければ中断の効果は保てない、というのが最高法院71年台上字第3435號判例の立場です。存證信函を半年ごとに送り直して時効を延ばす、という使い方はできません。

相手の担当者が「来月払います」とメールで認めたなら、それは「承認」にあたる可能性があります。支払いの猶予を求める連絡も承認にあたるとした最高法院51年台上字第1216號判例があり、承認による中断には、この6か月の制限はかかりません。日付の入った書面やメールは、時効の面でも大切な証拠です。中断後は、その事由が終わった時点から時効が新たに進み始めます(第137条)。判決で確定した債権は、元の時効が5年未満でも、その後の時効期間は5年になります(同条第3項)。ただし2015年の民事訴訟法改正以降、確定した支払命令は執行名義にはなっても確定判決と同じ効力は持たないため、この5年への延長は当然には及ばないと考えて期限を管理してください。

存證信函で正式に請求する

台湾で日本の内容証明郵便にあたるのが「存證信函」で、差し出した文面の副本が郵便局に保管されます。中華郵政が所定の書式と差出しの手順を案内していますが、部数や外国語・国外住所の扱いなど細かい条件は、差出し前に郵便局で確認してください。

時効を中断させる「請求」(民法第129条)には決まった方式がなく、支払いを求める意思が相手に届けば足りるとされています(最高法院51年台上字第3500號判例)。存證信函は、いつ何を請求したかを後で証明するための手段です。配達の記録が残る方法で送り、控えを保管してください。送ってから6か月以内に訴えか支払命令の申立てまで進めなければ、中断の効果は残りません。

実際には、台湾の弁護士名義で出すほうが、相手方の反応が変わることがよくあります。書く内容は、契約の特定、金額(元本と、契約にある遅延損害金)、支払期限、期限までに支払わない場合は法的手続きに入る、という点です。台湾民法上、利率の約定がなければ年5%が法定利率で(第203条)、金銭債務の遅延利息は法定利率で請求できます。約定利率が法定利率より高いときは原則としてその利率によりますが、民法第205条は年16%を超える約定部分を無効としています(第233条、第205条)。期限を定めない債務では、債務者に催告が届いた時点から遅滞責任が生じ、支払期日が明確なら期日の経過で遅滞になります(第229条)。

前払金を払ったのに出荷されない場合は、納期の遅れに対して相当の期間を定めて履行を催告し、それでも履行がなければ契約を解除できます(第254条)。催告と、期限内に履行がなければ契約を解除する旨を、同じ書面にはっきり書いておきます。解除後は、受け取った金銭を利息付きで返還する義務が相手に生じます(第259条)。

支払命令:書面だけで出る督促手続

金額が明確で、争いの余地が小さい売掛金なら、まず支付命令(以下「支払命令」。日本の支払督促に相当)を検討します。金銭その他の代替物・有価証券の一定数量を請求する場合に使えます。裁判所は債務者を呼び出さず、書面で審査して命令を出します(第512条)。

使えない場面もあります。こちらの反対給付が未履行の場合、命令の送達が外国でしかできない場合、公示送達になる場合は、支払命令を使えません(第509条)。台湾に所在する台湾の会社が相手なら、送達が外国になることは通常ありませんが、代表者や所在が不明だと公示送達になるおそれがあります。管轄は、債務者の本店(主たる営業所)所在地の裁判所など第510条が挙げる裁判所に専属し、前述の履行地の裁判所は使えません。

申立書には、当事者、請求の数量、請求の原因事実、命令を求める旨、裁判所を書き、請求は「疎明」します(第511条)。ここで、前節の書類が役に立ちます。司法院の案内では、所定の用紙で申し立て、申立費用は1件500元とされています。台湾に送達場所のない申立人・原告は、台湾内の送達代収人を指定しなければなりません(第133条第2項)。日本の会社が直接申し立てるなら、この点も準備が要ります。

命令が出て債務者に届いてから、債務者には20日の不変期間があります。理由を付けなくても異議を出せます(第516条)。異議が出ると、その範囲で命令は効力を失い、申立ては訴えの提起(または調停の申立て)とみなされます(第519条)。異議がなければ、支払命令が執行名義(日本の債務名義に相当)になり、裁判所が確定証明書を付与します(第521条)。命令の発行から3か月以内に債務者へ送達できないと、命令は効力を失います(第515条)。

相手が黙っていれば早く執行名義が取れ、争ってきたら通常訴訟に移る二段構えです。争いが見込まれる案件では、最初から通常訴訟のほうが筋が通る場合もあります。

仮差押え:資産が動く前に

「相手が工場の設備や在庫を売りに出している」「代表者が会社の不動産を処分し始めた」といった兆候があるときは、判決を待っている間に財産がなくなってしまいます。金銭債権を保全するために、仮差押え(假扣押)を申し立てる方法があります。

要件は、将来強制執行ができない、または著しく困難になるおそれがあることです(第523条)。請求の存在と、この「おそれ」(保全の原因)は、疎明しなければなりません。疎明が足りなくても、債権者が担保を差し出す意思を示すか、裁判所が適当と認めれば、担保を立てることを条件に仮差押えが命じられることがあります。疎明が足りている場合でも、裁判所が担保を命じることがあります(第526条)。担保の額は裁判所が決めるため、事前に一律の目安は示せません。

管轄は、本案の管轄裁判所か、差押えの対象財産の所在地の地方裁判所です(第524条)。債務者が担保金か請求額を供託すれば、仮差押えを免れたり取り消してもらったりできます(第527条)。

本案訴訟がまだ始まっていなければ、債務者の申立てで、裁判所が期間内に訴えを起こすよう命じます。起こさないと、債務者の申立てにより仮差押えは取り消されます。支払命令の申立てや、仲裁手続の開始は、この「訴え」と同じ扱いになります(第529条)。仮差押えが自始不当だったとして、あるいは起訴命令の期間内に提訴しなかったために取り消された場合、債権者は債務者の損害を賠償する責任を負います(第531条)。相手の財産がどこにあるのか(口座、不動産、売掛金、在庫)をあらかじめ特定しておくことが、実務では一番の課題になります。

台湾で訴える

支払命令に異議が出た、あるいは最初から争いになる見込みなら、台湾の地方裁判所に通常訴訟を提起します。訴状には当事者、訴訟物とその原因事実、求める判決を書きます(第244条)。請求額が50万台湾元以下なら簡易手続(10万元以下は少額手続)になり、その場合は原則として訴え提起前に裁判所の調停を経ます(第403条第1項第11号、第427条、第436条の8)。

日本の会社が原告になる場合に、見落とされやすい点が二つあります。

一つは訴訟費用の担保です。原告が台湾に住所も事務所も営業所もない場合、被告の申立てにより、裁判所は訴訟費用の担保を立てるよう命じます。被告に争いのない部分や、原告が台湾に訴訟費用を賠償するに足りる資産を持っている場合は適用されません(第96条)。担保を立てるまで、被告は本案の弁論を拒めます(第98条)。台湾に支店等を持つ日本企業かどうかで、初動の段取りが変わってきます。台湾側の拠点の位置づけは子会社と支店の違いで整理しています。

もう一つは、書類の準備です。日本で作成した契約書や委任状は、中国語訳を付け、必要に応じて台湾の在外機関(台北駐日経済文化代表処など)による認証を受けます。どの書類にどの認証が要るかは、事件の内容と提出先で変わるので、弁護士と相談しながら進めます。

裁判費(裁判所に納める手数料)は訴額に応じて決まります。民事訴訟法第77条の13の基本額に、臺灣高等法院の「費用提高徵收額數標準」(2024年12月30日改正)による加算が上乗せされます。この基準では、10万元以下の部分は5割、10万元を超え1,000万元までの部分は3割の加算です。たとえば訴額100万台湾元の第一審なら、基本額1万元が加算後は1万3,200元になる計算です。上訴審の費用や審理期間の見通しは案件ごとに異なるため、ここでは数字を出しません。

判決を取ったあと:強制執行

確定判決や、確定証明書付きの支払命令、仮差押命令(裁定)などが、強制執行法第4条にいう執行名義になります。仮差押命令は財産を凍結するためのもので、そこから支払いを受けるには判決などが別に必要です。申立てには、判決正本と確定証明書などを提出します(第6条)。

執行裁判所は、必要があれば債権者に財産の調査報告を命じ、税務機関などに債務者の財産状況を照会することもできます(第19条)。見つかった財産で足りない場合は、債務者に財産状況の報告を命じることもできます(第20条)。財産が見つからないときは、債権者が1か月以内に調査して報告し、報告がない、または財産なしとなった場合は、財産が見つかったら再度執行できる旨を記した債権憑証(債權憑證)が交付されます(第27条)。判決を取れば必ず回収できるわけではありません。

執行費は、執行する金額が5,000元以上の場合、強制執行法第28条の2の基本額(100元につき0.7元)に、前記の加算基準で7分の1が加わり、執行金額の0.8%になります。

日本の判決・仲裁判断を台湾で使えるか

外国判決は、強制執行法第4条の1により、民事訴訟法第402条の各事由に当たらず、かつ台湾の裁判所が判決で執行を許可して初めて、強制執行ができます。許可を求める訴えの管轄、承認されない場合、準備する書類など手続の全体像は、台湾での外国判決の執行で整理しています。

日台間に国交がないため相互の承認を心配される方は多いのですが、台湾の裁判所には、日本の判決について相互の承認があると判断し、執行を許可した例があります(臺灣高等法院113年度重上字第493號民事判決など)。実務でつまずきやすいのは、むしろ送達です。第402条第1項第2号は、敗訴した被告が応訴していない場合、訴訟開始の通知が相当の時期に日本で適法に送達されたか、台湾の法律上の協助によって送達されたのでなければ、判決の効力を認めないとしています。台湾の会社が日本の訴訟に一切応じず、日本の裁判所が公示送達と国際郵便で書類を送っただけだった事案では、台湾の裁判所は執行を許可しませんでした(臺灣士林地方法院111年度重訴字第331號民事判決)。

そのため、日本で訴えを起こすなら、台湾の相手方への送達がどの方法で行われるかを日本の代理人と確認し、送達の記録と、判決の確定を示す書類を必ず手元に残してください。相手が応訴しそうにない、資産が台湾中心という見込みなら、日本の判決を取るより台湾で直接手続きをするほうが現実的な場合もあります。

仲裁判断は別の枠組みです。台湾の外で作られた仲裁判断は「外国仲裁判断」とされ、裁判所の承認の裁定を受けると、当事者間で確定判決と同じ効力を持ち、執行名義になります(仲裁法第47条)。申立書には、仲裁判断書の正本または認証済み謄本、仲裁合意の原本または認証済み謄本を添え、外国語なら中国語訳が要ります。日本の仲裁法や仲裁機関の規則が適用された場合は、その全文も添付します。認証は台湾の在外機関が行います(第48条)。公序良俗に反する場合や、台湾法で仲裁できない事項の場合は、裁判所は申立てを却下します(第49条)。仲裁合意の無効、適切な通知を欠いた手続などについては、相手方が通知を受けてから20日以内に却下を求められます(第50条)。

台湾側の債権回収・訴訟の相談

昊鼎国際法律事務所(Hovering International Law Firm)の弁護士・曾雋崴(広告責任弁護士)への相談では、契約書と個別契約、請求書と納品記録、未払い金額と期日、相手方の登記上の名称、これまでの督促の経緯を簡潔にお知らせください。ご希望の相談言語も添えてください。メール:wei@hoveringlaw.com.tw。所在地:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2。

参照した公式資料

確認日:2026年9月29日。 条文、申立費用、提出書類の取扱いは、最新の公式案内でご確認ください。

よくある質問

台湾の取引先への売掛金は、何年で時効になりますか?
台湾民法が適用される場合、商人・製造人が供給した商品の代金は2年間行使しないと消滅します(民法第127条第8号)。契約の準拠法が日本法なら、台湾の裁判所でも日本法の時効で判断されます(涉外民事法律適用法第36条)。準拠法がはっきりしないうちは、2年を目安に早めに手続きを取るのが安全です。
日本の裁判所の判決は、台湾でそのまま強制執行できますか?
できません。台湾の裁判所に執行許可の訴えを起こし、判決で許可を得る必要があります(強制執行法第4条の1)。日本の判決の執行を許可した例はありますが、相手が日本の訴訟に応じず、公示送達などで手続きが進んだ場合は許可されないことがあります。
台湾の会社が資産を移しそうなとき、先に押さえる方法はありますか?
金銭債権を保全するため、台湾の裁判所に仮差押え(假扣押)を申し立てる制度があります。債権の存在と、将来の執行が困難になるおそれを疎明する必要があり、担保金の提供を命じられることもあります。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。