ATMでカードが使えません。ネットバンキングにも入れません。日本の家族が送った生活費は「戻ってきた」と連絡が来ます。支店に行くと、窓口の担当者は「警示帳戶です」とだけ言って、理由も期限も教えてくれません。本人に心当たりがなくても、銀行の窓口は理由を説明できません。
警示帳戶を決めるのは銀行ではなく、解除できるのも銀行ではないからです。口座が止まった側にも、詐欺の被害でお金を振り込んでしまった側にも、動かせる手続はそれぞれあります。
止めたのは裁判所・検察・警察
警示帳戶とは、裁判所、検察署または司法警察機関が刑事事件の捜査のために、銀行に通報して警示扱いにした預金口座のことです(存款帳戶及其疑似不法或顯屬異常交易管理辦法第3条)。通報は公文書で行い、緊急の場合は電話やファクスで先に通知して5営業日以内に文書を届けます。
2024年に制定された詐欺犯罪危害防制条例は、司法警察機関が詐欺犯罪の調査のために、疑わしい預金口座、電子決済口座、クレジットカード、仮想資産の口座を直接警示にして全取引機能を止められると定めました(第9条第4項)。つまり、口座が止まった時点で、どこかの警察署が自分の口座を詐欺事件の資金の通り道だと見ているということです。本人が加害者と疑われているとは限りません。被害者の振込先として使われただけでも、通報は来ます。
銀行がすること、できないこと
通報を受けた銀行は、その口座の全取引機能を停止し、振り込まれてきた款項は送金元の銀行へ退匯します(第5条第1項第1款(二))。日本からの送金が「戻った」のはこの処理です。
同じ人が同じ銀行に持つ他の口座は「衍生管制帳戶」になります。キャッシュカード、音声振替、ネット振替などの電子機能が止まり、入金は同じく退匯されます。窓口での引き出しや振込は可能ですが、銀行は取引の合理性を示す資料を求めることができ、説明できなければ断れます(同款(三))。給与口座と生活口座を同じ銀行に持っていると、両方が同時に使いにくくなるのはこのためです。
銀行は理由を本人に説明できる立場にありません。警示に疑義があるときは、口座名義人が通報した機関に対して処理を求め、銀行は必要に応じて協力する、と辦法は書いています(第9条第2項)。まず銀行にどこの機関からの通報かを確認し、その機関に行きます。
期限は2年、解除は通報機関からしか来ない
期限は通報から2年で、過ぎれば自動的に効力を失います。ただし継続の必要があれば、通報機関が期限前に再通報して延長でき、延長は1回・1年までです(第9条第1項)。
銀行が制限を解けるのは、通報機関から解除の通報が来たときか、期限が満了したときだけです(第10条)。衍生管制帳戶の方は、銀行が疑わしい事情が消えたと確認すれば解除します。
何もしなければ2年です。通報した機関に出向いて、口座の資金の流れを自分の側から説明できる資料(給与明細、送金の目的がわかる書類、相手とのやり取り)を出すことが、2年を待たずに解除へ動かす現実的な経路です。
「圈存」は48時間の仮止め
圈存という段階が、警示より手前にあります。被害者が警察に届け出ると、司法警察機関の通報を受けた受取側の銀行は、通報された金額を口座の中で圈存(凍結)して監視します(詐欺犯罪危害防制条例第10条)。
圈存の後、通報した司法警察機関は48時間以内に、その口座を警示にするか圈存を解くかを銀行に通知しなければならず、通知がなければ銀行は圈存を解除します(應遵循事項辦法第30条)。口座の一部だけが動かない状態が数日続いたら、この段階にある可能性があります。
被害者側:残っている分は警察の書面で返る
詐欺で振り込んでしまった側の手続は、2025年4月1日以後に警示になった口座について新しい辦法に移りました(管理辦法第11条第7項)。
口座に被害者の振込がまだ引き出されずに残っていれば、司法警察機関が銀行に書面で通知し、口座名義人にも副本を送ったうえで、銀行は残額を被害者に返還できます(條例第11条、應遵循事項辦法第52条)。銀行は送金元の銀行を通じて被害者に連絡し、被害者は身分証明書、警察の受理案件証明、申請が事実と違って銀行に損失が出たら自分が責任を負うという誓約書の3点を出します。返還は、振込の時間順に未引出し分を認定し、最後の振込から前へ遡って残高がゼロになるまでです(第53条)。
残額が作業コストに見合わないほど少ないとき、通知から3か月たっても被害者と連絡が取れないとき、被害者が届出や受取に出てこないとき。この三つの場合、銀行は口座を清算して残額を別勘定に移し、後で正当な受取人が申請したときに処理します(第54条)。
「残っていれば返る」が前提です。相手が引き出した後の分は、刑事告訴と民事の損害賠償で追うことになり、こちらは別の記事(台湾で詐欺の被害に遭ったときの告訴)に書きました。
なぜ自分の口座が、という三つの入口
台湾に住む日本人の口座が警示や管制になる入口は、主に三つあります。
一つ目は口座を人に使わせたこと。自分や他人の銀行口座を他人に交付・提供することは禁止で、違反すると警察が告誡処分をし、対価を受け取っていた、合計3口座以上を渡した、処分から5年以内に繰り返した、のいずれかなら3年以下の有期徒刑、拘役、または100万元以下の罰金で、有期徒刑と罰金の併科もあります。金融機関は違反者の口座機能を一定期間止めるか閉鎖します(洗錢防制法第22条)。「通常の商取引や親族・友人間の信頼関係その他正当な理由」は除外されますが、知人に頼まれて通帳とカードを預けた、副業の報酬を自分の口座で受けて転送した、というケースは、除外に入らないと判断されることがあります。
二つ目は居留証の失効。銀行が管理辦法で「疑わしい取引口座」として扱える類型の中に、外国籍の人が口座開設時に提示した居留証などの身分証明書が期限前に取り消されたか、期限を過ぎて居留している、または行方不明と通報された場合があります(第4条第2款(八))。帰国前に口座を残したまま居留証が切れると、警察の通報がなくても銀行の側で電子機能を止められることがあります。
三つ目は、被害者の振込先として使われたこと。中古品の売買代金やアルバイト報酬として受け取った金が、実は別の被害者が詐欺で振り込んだ金だった、という場合です。この場合は本人が被害者と加害者の両方の側面を持つので、通報機関に行くときの説明の組み立てが変わります。
止まっている間に新しい口座は作れるか
原則として作れません。他の口座が警示で未解除の人には、銀行は開設を断ります。例外は、就業の給与振込用に在職証明を出す場合、銀行の融資が審査を通って実行される場合、他の法律に定めがある場合です(第13条第2項第5款)。給与口座が必要なら、勤務先の証明を持って別の銀行に行くのがこの例外です。
相談に来るときに
通報をした機関の名前(銀行で確認します)、口座の直近3か月の入出金明細、問題になった振込の相手と目的がわかるもの、居留証の写し。これだけあれば、通報機関への説明書類が作れます。昊鼎国際法律事務所は、通報機関への説明の同行と、被害者側の返還申請を日本語で引き受けています(wei@hoveringlaw.com.tw)。
参考にした公的資料
- 存款帳戶及其疑似不法或顯屬異常交易管理辦法 第3条・第4条・第5条・第9条・第10条・第11条・第13条(2026年8月31日修正)
- 詐欺犯罪危害防制条例 第8条・第9条・第10条・第11条
- 金融機構及提供虛擬資產服務之事業或人員防制詐欺犯罪危害應遵循事項辦法 第30条・第52条〜第54条(2026年7月20日修正)
- 洗錢防制法 第22条
条文の確認日:2026年10月6日(台湾時間)。銀行ごとの内部手続(必要書類の様式、窓口での対応)は各行で異なります。
よくある質問
- 警示帳戶の解除を銀行に頼めますか?
- 頼めません。銀行は、通報した裁判所・検察・司法警察機関からの解除通報か、警示期限の満了によってしか制限を解けません(存款帳戶及其疑似不法或顯屬異常交易管理辦法第10条)。期限は通報から2年で、必要があれば通報機関が期限前に再通報して1回・1年まで延長できます(第9条)。口座名義人が警示に疑義を持つときは通報機関に対して処理を求め、銀行は必要に応じて協力します。
- 警示帳戶にされた口座に日本から送金したらどうなりますか?
- 銀行は警示帳戶の全取引機能を停止し、振り込まれた款項はそのまま送金元の銀行へ退匯(返金)します(同辦法第5条第1項第1款(二))。口座には入りません。生活費や給与の受取口座が警示になったときは、別の受取方法を先に用意します。
- 詐欺の被害に遭って振り込んでしまいました。相手の口座が警示になれば、お金は戻りますか?
- 口座に被害者が振り込んだ款項がまだ引き出されずに残っていれば、司法警察機関が銀行に書面で通知し、銀行はそれを受けて被害者に返還できます(詐欺犯罪危害防制条例第11条、金融機構及提供虛擬資產服務之事業或人員防制詐欺犯罪危害應遵循事項辦法第52条)。被害者は身分証明書、警察の受理案件証明、不実申請の責任を負う旨の誓約書を出します(第53条)。すでに引き出された分は、この手続では戻りません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



