架空の会議室の机に置かれた議事録のファイルと空席。人物や読める文字はない
← コラム一覧へ台湾法律情報

台湾子会社に送る本社の指示、出資者と実質的な指揮者の境目

約5分

架空の情景

日本の出資会社が台湾企業の董事を送り出し、取引条件について意見を伝える場面があります。その関与が、台湾企業の業務を実質的に指揮したと評価されるのはどのような場合でしょうか?董事を交代させる権限がある、という説明だけでは判断できません。

実際に、日本法人の関与を検討した台湾の公開判決があります。肩書や出資関係から一足飛びに責任を決めず、何を指示し、どの業務に関与したかを見る点が、日本側で子会社を担当する人にも関わります。

日本法人への請求で問われた証拠

新竹地方法院108年度金字第5号民事判決(2024年5月3日)は、財務報告を巡る賠償事件で、日本法人の実質的な指揮の有無を検討しました。裁判所は、代表者を交代させられるという権限だけでは足りず、日本側がチップの価格を決めていた資料からも、台湾企業の人事・財務・業務を実質支配して董事を指揮したとは認められないと判断しています。

これは個別の証拠に基づく一審判断です。控訴の記録もあります。公開審級履歴には臺灣高等法院114年度金上字第2号が載っていますが、控訴審判決本文へのリンクはありません(2026年10月21日確認)。当時の第8条第3項は公開発行会社を対象としていましたが、現行法ではその限定が削除されています。価格への関与なら常に責任がない、という一般則でもありません。

台湾で引き受けた役職の中身

現地で董事に就く人は、本社からの出向者であっても台湾会社の負責人です。監察人も職務を執行する範囲で負責人に含まれます(公司法第8条)。董事会と監察人を置く股份有限公司では、それぞれに異なる条文上の職務があります。

監察人には独自の対応があります。業務執行を監督する義務があり、帳簿の確認・複写や業務・財務の調査、董事会や経理人への報告要求ができます。また、会社を代表して弁護士や会計師に審査を委任することもできます(第218条)。

董事会や董事の業務執行が法令・定款・株主総会決議に違反すれば、監察人は直ちに董事会または董事へ行為の中止を通知しなければなりません(第218条の2)。本社宛ての報告書を残しても、その報告だけでは現地の通知義務を果たしたとは限りません。

誰に通知しますか。何を止めますか。送付記録と対象の業務資料があれば、監察人の実際の対応を検討できます。職務上の法令・定款違反や職務懈怠で会社に損害を与えれば第224条の責任を負い、董事にも会社または第三者への同じ賠償責任があれば第226条による連帯債務となります。

本社の意向と董事会での異議

現地の董事には忠実義務と善管注意義務があり、それに反して会社に損害を与えれば賠償責任を負います(第23条第1項)。本社の承認資料も照合します。

董事会が法令・定款・株主総会決議に反する決議をし、会社に損害を生じさせた場合、参加した董事は賠償責任を負います。ただし、異議を述べ、その事実が記録または書面による声明で証明される董事は、同項の責任を免れます(第193条)。

日本側の稟議には懸念を書き、台湾側の会議では黙っていたとすれば、台湾の決議に異議を述べたことをどの記録が示すのかが問題になります。第193条は記録または書面による声明を認めています。実際の異議とその決議を結び付けて確認できることが必要です。決議後に別途行った違法な執行は、その行為について責任を検討します。

登記にない担当者まで検討が及ぶとき

本社側の担当者が董事の業務を実質的に執行する場合も、会社の人事・財務・業務を実質支配して董事を実質的に指揮する場合も、第8条第3項の対象です。該当者は董事と同じ民事・刑事・行政罰の責任を負いますが、各責任の成立要件は別に満たす必要があります。政府の公益目的による指名董事への指揮には例外があるものの、一般の外国親会社の指示はそこに含まれません。

第三者への賠償も別に検討します。第23条第2項が会社との連帯賠償を定めるのは、業務執行中の法令違反によって他人に損害を与えた場合です。本社の指示、現地の決議、実行された取引のつながりを確かめるには、それぞれの記録が必要になります。

昊鼎国際法律事務所では、wei@hoveringlaw.com.twでご相談を受け付けています。日本側の承認資料と台湾側の議事録に食い違いがあれば、どの役職の、どの義務に関わる食い違いなのかから検討できます。

参照した資料

確認日:2026年10月21日

よくある質問

日本本社の指示どおりにした董事も責任を負いますか?
本社の指示だけで公司法第23条の義務は免除されません。会社に対する賠償は義務違反による会社の損害を、第三者に対する会社との連帯賠償は業務執行における法令違反とそれによる損害を、それぞれ検討します。
反対意見が議事録に載っていないと免責されませんか?
第193条第2項は、異議を述べた董事に記録または書面による声明の証拠があれば、同項の決議に関する賠償責任を免除すると定めています。議事録だけに限定されませんが、どの決議に異議を述べたかを証明できる資料が必要です。
監察人は違法行為を本社に報告すれば足りますか?
第218条の2は、董事会や董事の業務執行が法令・定款・株主総会決議に違反する場合、直ちに董事会または董事へ行為の中止を通知するよう求めています。本社への報告だけで、この通知を済ませたことになるとは限りません。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。