青と薄茶色のフォルダーに載せた書類を、机の上で見比べている様子。
← コラム一覧へ台湾法律情報

台湾の取引先から「請求書は別会社へ」と言われたら

約7分

架空の情景

台湾のA社から注文を受けて納品した後、「請求書はグループのB社宛てに出し直してください」と言われたとします。「承知しました」とだけ返すと、書類の宛先を変えたのか、代金を支払う会社まで変えたのかが、後から争われる余地を残します。

A社が買主で、B社が代わりに振り込むだけなら、A社を支払義務から外す必要はありません。一方、今後はB社だけに請求するという合意なら、B社が払わなかったときにA社へ戻って請求できるかが問題になります。

以下は、関係する契約や代理に台湾法が適用される場合の説明です。日本企業が台湾へ納める取引だからといって、すべて台湾法で決まるわけではありません。台湾の裁判所で問題になる場合、契約の準拠法は当事者の合意などから判断し、代理権の有無や会社の代表権にはそれぞれの規則があります(涉外民事法律適用法第14条・第17条から第20条)。請求書を直す前に、基本契約の準拠法条項と、誰がどの会社を代表して合意するのかを確認します。

最初の注文まで戻ると、請求先の見え方が変わる

営業担当者がずっとA社のメールアドレスを使っていても、注文書の買主欄にはB社が記載されていることがあります。逆に、注文書はA社名義で、納品場所だけがB社の工場という場合もあります。メールの差出人、買主、納品先、請求書の受取人を、一つの「取引先」にまとめないようにします。

手元の資料は、見積り、注文、注文への承諾、出荷指示、納品、請求先の変更依頼という順に並べます。会社名が切り替わったのが注文前なのか、納品後なのか。日本側がその変更に何と返したのか。ここをたどると、最初からB社が買主だったのか、それとも成立済みのA社との取引を後から変えようとしているのかを検討できます。

台湾民法は、明示だけでなく黙示の意思の一致による契約成立も認め、意思表示の解釈では文言に拘泥せず当事者の真意を探るとしています(第153条、第98条)。会社名が書類ごとに違うというだけで、契約が無効になるとはいえません。ただし、最後に作った請求書だけで買主を決めることもできません。

再発行する場合も、元の請求書、変更を求めたメール、日本側の回答を残しておきます。社内システムの取引先名を上書きすると、後で「いつ、誰が変更を頼んだか」を追いにくくなります。税務・通関上、請求書に誰を記載すべきかは、契約上の支払義務とは別に確認する事項です。

連絡担当者に、別会社の注文まで任せていたのか

A社の担当者がB社のために注文したと説明するなら、B社名義で発注する権限があったかを確認します。台湾民法第103条では、代理人が権限の範囲内で本人の名義により行った意思表示は、本人に直接効力を生じます。A社の担当者が交渉を進めたというだけで、A社が買主だとも、B社が買主だとも決められない理由です。

確認するのは、担当者の肩書だけではありません。B社からの発注権限の通知、B社名義の注文への回答、B社自身が送った承認など、その人に任せた範囲が分かるやり取りです。技術担当者が仕様を承認できても、別法人の買主への変更や、支払義務の引受けまで承認できるとは限りません。装置の性能確認と代金の支払条件の違いは、検収が終わらず残金が止まっている取引でも問題になります。

実際の代理権がなくても、B社自身が権限を与えたように表示した場合や、他人がB社の代理人として振る舞っていることを知りながら反対しなかった場合には、第169条による責任が問題になります。ただし、日本側が代理権のないことを知っていた、または知り得た場合は除かれます。共通のロゴや同じオフィスを使っているという事情だけで、この条文の要件を満たすとはいえません。

無権限の行為については、本人が追認しなければ本人に効力を生じないのが第170条の規律です。相手方は相当の期限を定めて本人に追認するかどうかの回答を求めることができ、期限内に確答がなければ拒絶したものと扱われます。代理権の根拠も追認も分からないまま請求書を送り続けても、それだけではB社に支払義務があることを示せません。

B社から入金を受けることと、A社への請求を手放すこと

A社が買主であることを確認できたなら、次はB社が何をするのかを詰めます。「支払事務をB社に集約する」という話なら、B社はA社の代わりに送金するだけかもしれません。

台湾民法第311条は、当事者の別段の合意や債務の性質による例外を除き、第三者による弁済を認めています。債務者が異議を述べた場合には債権者が拒める規定もありますが、弁済について利害関係を持つ第三者の場合には、その異議を理由とする拒絶はできません。B社名義の送金を受けることがあるからといって、代金債務そのものがB社へ移るとは限らないのです。

入金を受けるときは、どの注文・請求の代金かをA社・B社と対応させて残します。一部だけB社が払った場合も、その入金だけでB社が残額すべての債務者になったと扱わず、未払残額について誰が何を約束したかを確かめます。

これに対して、日本側の売主がB社と契約し、A社の債務をB社へ移すのが第300条の場面です。この場合は契約の成立時に債務がB社へ移ります。A社とB社だけで債務を引き受ける契約をした場合には、債権者である日本側の承認がなければ、日本側に対する効力は生じません(第301条)。

「B社への変更を了承します」という返答が、単なる請求事務の変更なのか、この債務の移転を認めたものなのかは、前後のやり取りを含めて判断されます。A社への請求を残したいなら、その旨を返信に明記し、相手からも回答を得て、そのやり取りを保存しておきます。既に何かを承諾した後で一方的に「A社の責任は残る」と追記しても、それだけで先の合意を変更できるとは限りません。

「グループで責任を持つ」を、そのまま受け取らない

A社への請求を残しつつB社にも支払責任を負ってもらいたいなら、B社の関与を単なる送金担当にとどめない合意が必要です。台湾民法第272条では、数人が同じ債務についてそれぞれ全額の給付責任を負うことを債権者に明示した場合、連帯債務になります。その明示がなければ、連帯債務の成立には法律の規定を要します。同じ企業グループというだけで、日本側がどの会社にでも全額を請求できるわけではありません。

保証も、請求書の宛先変更とは別の契約です。民法第739条は、債務者が履行しない場合に保証人が代わって履行責任を負う合意を定めています。「本社が面倒を見ます」「経理はグループ共通です」という説明から、保証契約があると決めつけることはできません。誰が、どの注文の、どの範囲の債務について責任を引き受けるのかを確かめます。

台湾の会社を保証人にする場合は、会社自身が保証できるかも確認します。会社法第16条は、他の法律または定款に基づいて保証できる場合を除き、会社が保証人になることを禁じています。担当者に確認書へ署名してもらえば済むとは限りません。定款、社内の承認、署名者の権限と保証の内容を合わせて確認することになります。子会社と支店を混同している場合は、両者の責任の違いから確かめ直します。

再発行の返事に、未決の点を残さない

請求事務だけを変えるつもりなら、返信では、対象の注文番号と金額、B社に求める役割、A社の支払義務や支払期日を変える合意ではないことを具体的に伝えます。宛名をB社にする必要が本当にあるのか、A社宛ての請求書をB社の経理部門へ送れば足りるのかも、相手に尋ねられます。書類の記載は税務・通関上の要件とそろえる必要があります。

相手が「A社には今後請求しないでほしい」と求めるなら、再発行の処理を進める前に、債務を移す条件の協議として扱います。B社の正式名称、引き受ける残額、支払期日、A社の責任を残すかどうかについて、関係者の合意を確認します。A社の既存債務を移す合意と、新たにB社名義で出す注文は、分けて記録しておきます。

支払期限が既に過ぎているなら、名義を確認している間も、時効などの期限は別に管理します。期限や手続は台湾の未払代金の回収で扱っています。請求先が定まらない案件の相談では、関係する会社の公開名称、注文・納品・変更依頼の時期、未払額、直近の回答期限を相談窓口へお知らせください。契約書やメールの原文は、共有方法を確認してからご準備ください。

参照した公的資料

  • 台湾・全國法規資料庫:民法および沿革。契約の成立・解釈、代理、債務の引受け、第三者による弁済、連帯債務、保証。
  • 同:涉外民事法律適用法および沿革。契約、代理、法人の代表権等の準拠法。
  • 同:会社法第16条および沿革。会社による保証の制限。

法令確認日:2026年10月10日。本稿は日本企業と台湾の取引先との取引を想定した一般情報です。個別の契約当事者、代理権、請求先変更の効果は、準拠法と実際の合意・履行に応じて判断します。請求書の税務・通関上の処理や日本法の適用は、別途確認が必要です。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。