15万台湾ドル。台湾の勞動部が、業種を問わず管理職を責任制の対象に入れるときに引いた月給の線です。2019年5月23日の公告で決まりました。台湾子会社に赴任した日本人の部長が「責任制だから残業代は出ない」と言われたとき、多くの人はまず給与明細の額を見ます。日系企業でつまずきやすいのは、むしろもう一つの要件のほうです。
責任制(労働基準法第84条の1)の三つの要件と残業代の計算は、日系企業の残業代と台湾の「責任制」で説明しました。一つ目の要件、つまり管理職が公告された職種に当たるかどうかは、勞動部の一覧表と労働基準法施行細則第50条の1第1号の定義で決まります。
採否を決めるのは誰か
2019年5月23日の公告は、月給とは別に、労働基準法施行細則第50条の1第1号の監督・管理人員に当たることを求めています。同号は、監督・管理人員を「受雇主僱用,負責事業之經營及管理工作,並對一般勞工之受僱、解僱或勞動條件具有決定權力之主管級人員」と定めています。事業の経営・管理を担うことと、一般の労働者の採用・解雇・労働条件に決定権を持つこと。両方が書かれています。
台湾で面接をしても、採用の可否は日本本社の人事部や地域統括会社の稟議で決まり、台湾子会社の部長は推薦をするだけ。そういう会社を考えます。
この部長は、台湾法の「決定権力」を持っているでしょうか。条文は採用・解雇・労働条件を「或」でつないでいます。昇給や勤務条件の決定まで本社の承認事項なら、推薦にとどまる人を当てはめるのは難しいでしょう。判断の材料になるのは、職務権限規程や決裁規程、そして実際の稟議書に残った承認者の名前です。
一覧表で当たりうる項目
では、日系の製造子会社の部長が当たりうる項目はどれか。勞動部の一覧表を見ると、資訊服務業(情報サービス業)・法律服務業・広告業の管理職には業種ごとの項目がありますが、製造業や金融業の管理職だけを対象にした項目はありません。残るのが、2019年5月23日の「事業単位が雇用する月給15万台湾ドル以上の監督管理人員で、施行細則第50条の1第1号の規定に当たる者」(勞動條3字第1080130514號公告)です。勞動部は電子報第46期で、「監督・管理人員」と「月給15万台湾ドル以上」はどちらも欠けてはならないと説明しています。なお、表の最初にある1997年7月11日の「事業單位之首長、主管以及獲有配車人員之駕駛」は運転手の項目で、勞動部の2022年8月19日の報道資料もこの運転手を委託で使う場合の扱いとして取り上げています。
月給の数え方は、公告に書かれていない
もう一つ、日本人駐在員に特有の問題があります。給与の一部を日本本社が日本で払う場合です。公告は「每月工資」としか書いていません。
労働基準法第2条第3号は、工資を、労働者が労働によって得る報酬で、名目を問わない経常的な給付を含むものと定めています。日本払いの留守宅手当がこれに当たり、15万台湾ドルの計算に入るのか。この記事では当局や裁判所の判断を確認できていません。台湾で払う額だけで15万台湾ドルに届かない部長は、ここが争点になりえます。
核備までの書面と、外れない条文
職種と月給の要件を満たしたら、労働時間・例假・休假・女性の夜間労働を書面で約定し、地方主管機関に報請して核備を受けます。約定書には職称、工作項目、工作権責または工作性質、工作時間などを書きます(施行細則第50条の2)。核備を受けても、外れるのは労働基準法の第30条、第32条、第36条、第37条、第49条で、延長労働時間の賃金を定めた第24条は含まれません。
残業代の条文は残ります。労働時間にも上限があり、台北市は核定工作者の種類ごとの上限を載せた審査一覧表を公報(2022年)に掲載しています。
要件が欠けていれば、部長の残業は第24条で計算されます。勞動部も2022年8月19日の報道資料で、核備を申請していない場合や核備を受けられなかった場合は一般規定によると改めて述べています。出勤記録は会社が5年間保存し、本人が写しを求めれば拒めません(第30条第5項・第6項)。訴訟では、記録に載った時間は会社の同意を得て働いた時間と推定されます(勞動事件法第38条)。
台湾の弁護士に依頼できるのは、日本本社と台湾子会社の書類を突き合わせる作業です。職務権限規程と稟議の実例から部長の決定権を確かめ、給与の支払者と名目を整理し、公告のどの項目に当たるかを見立てます。会社側なら約定書の作成と核備の申請、部長側なら出勤記録の写しの請求と残業代の計算、労働局の調解や裁判所の労働調解での代理です。ご相談はwei@hoveringlaw.com.twで受け付けています(労働事件のご案内)。昊鼎国際法律事務所の台北事務所は、台北市大同区承徳路一段35号7階の2(臺北市大同區承德路一段35號7樓之2)にあります。
採用の決裁欄に台湾の部長の名前がない会社では、月給の額より先に、その空欄が問題になります。
参考にした資料
確認日:2026年10月28日。台湾の条文は中国語の原文を基準にしています。
よくある質問
- 日本本社から支払われる留守宅手当も、月給15万台湾ドルに数えますか。
- 2019年5月23日の公告は「每月工資」と書くだけで、日本で支払われる手当を含めるかどうかを文言では示していません。労働基準法第2条第3号は、労働の対価として受け取る報酬で、名目を問わない経常的な給付を工資としています。この定義にどう当てはめるかについて、当局や裁判所の判断はこの記事では確認できていません。支払いの名目・金額・支払者を書面で整理してから判断することになります。
- 部長に採用の最終決定権を与えれば、責任制にできますか。
- それだけでは足りません。施行細則第50条の1第1号は、事業の経営・管理を担い、一般の労働者の受僱・解僱・労働条件のいずれかに決定権を持つ主管級人員を求めます。そのうえで公告の月給要件を満たし、労働時間などを書面で約定して地方主管機関の核備を受けることが必要です。権限は規程の上だけでなく、実際の決裁でも確かめられます。
- 核備を受ける約定書には、何を書くのですか。
- 施行細則第50条の2は、職称、工作項目、工作権責または工作性質、工作時間、例假、休假、女性の夜間労働などの事項を挙げています。台北市は、核定工作者の種類ごとに労働時間の上限を載せた審査一覧表を公報に掲載しており、約定の時間はこの基準で審査されます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



