台湾で工場の増設や設備の据付けを発注した日系企業の現場で、下請会社の作業員が転落したら、日系企業はどこまで責任を負うのでしょうか? 入口になるのは、その工事が会社の「自らの事業」として請け負わせたものかどうかです。
日本の労働基準法第87条は、厚生労働省令で定める事業が数次の請負で行われるとき、災害補償について元請負人を使用者とみなします。台湾にも発想の近い規定があり、条文の言葉は「事業單位以其事業招人承攬」、つまり事業単位が自らの事業を人に請け負わせた場合です。
補償は、元の事業単位も連帯して負う
まず、台湾の職業安全衛生法第25条第1項は、請負人が請け負った部分についてこの法律に定める雇用主の責任を負うとしたうえで、元の事業単位も労災補償について請負人と連帯すると定めます。再請負でも同じです。労工職業災害保険及保護法第89条も同じ連帯責任を置き、補償した会社は被災者の雇用主に求償できるとしています。
補償の中身は台湾の労働基準法第59条で決まります。死亡なら平均賃金5か月分の葬祭費と40か月分の死亡補償。過失の有無は問いません。請負が何段階にも重なる場合は、第62条が請負人・中間請負人を最後の請負人と連帯させ、補償した分を最後の請負人に求償できるとしています。
工場の建物を建てる工事が、製造業の日系企業にとって「自らの事業」に当たるのか。ここは事案ごとに争いになり得るところで、契約書の作り方や現場の関与の仕方も判断材料になります。
共同作業なら、元請が取るべき措置がある
日本では労働安全衛生法第30条が、特定元方事業者に協議組織の設置・運営、作業間の連絡調整、作業場所の巡視、教育への指導援助などを求めています。台湾の職業安全衛生法第27条も、請負人の作業員と共同で作業するとき、元の事業単位に協議組織の設置と工作場所負責人の指定、作業の連絡・調整、巡視、安全衛生教育訓練の指導・援助、機械・設備・人員の入場管理などを求めます。
その前段もあります。請け負わせる前にリスクを評価し、作業環境や危険要因、取るべき安全衛生設備・措置を請負人に伝え、請負期間中に実行させること(第26条)。2026年7月1日に施行された改正では、一定規模以上の工事を二つ以上の施工者に施工させる場合、そのうち一社を工事全体の安全衛生統合管理の責任者に指定する第27条の1が加わりました(改正経過)。
措置を怠れば、賠償も連帯に
元の事業単位が職業安全衛生法や安全衛生に関する規定に違反し、請負人の作業員に災害が起きた場合は、損害賠償も請負人と連帯します(職業安全衛生法第25条第2項)。台湾の労働基準法第63条第2項は、事業単位が職業安全衛生法のうち請負人・再請負人に対する責任の規定に違反し、その作業員に労災が起きた場合の連帯補償を別に定めています。
雇用主本人については、労災による損害の賠償責任があり、無過失を証明しない限り免れません(労工職業災害保険及保護法第91条)。民法上、注文者は請負人が第三者に与えた損害の責任を原則として負いませんが、注文や指示に過失があれば別です(民法第189条)。支払った補償金は、同じ事故の賠償額から差し引けます(労働基準法第60条)。
新荘の事故と、事故後の手続き
10月24日には新北市新荘区の住宅工事現場で、エレベーターを据え付けていた作業員2人が3階の高さから昇降路の下へ転落して亡くなりました(中央社)。新北市の労働検査処は、施工業者が2人を据付作業に就かせ、作業台のワイヤーが切れたと初期調査の結果を説明し、関連作業を止めさせています。切れた原因は調査中で、雇用主に過失が確認されれば地検に送るとしています(自由時報)。2人の雇用主は報道ではわかりません。誰に責任があるかはまだ判断されておらず、判決が確定するまでは誰も有罪とは扱われません。
事故の後には通報の義務もあります。死亡災害の8時間以内の通報(職業安全衛生法第37条)や、第6条第1項(墜落防止を含む)などの義務違反で死亡災害が起きた場合の刑事罰(第40条)、過失致死罪(刑法第276条)をめぐる手続きは、TSMC高雄工場の死亡事故を扱ったコラムで取り上げました。元の事業単位が第26条・第27条・第27条の1に違反して死亡などの災害が起きた場合は、5万〜300万台湾ドルの過料の対象で、事業規模や違反の情状により上限の2分の1まで加重されることがあります(第43条)。
台湾の弁護士には、発注・請負契約の安全衛生条項と補償・求償の取決めの確認、共同作業の体制づくりへの助言、事故後の労働検査への対応、被災者や遺族との補償・賠償交渉、訴訟の代理を依頼できます。労働分野のご相談はwei@hoveringlaw.com.twへ。昊鼎国際法律事務所の台北事務所は台北市大同区承徳路一段35号7階の2(臺北市大同區承德路一段35號7樓之2)です。
発注した日系企業にとって、事故の後に最初に読み返されるのは、事故の前に交わした請負契約の安全衛生条項と、共同作業の協議の記録です。
出典
確認日:2026年10月26日
- 労働基準法(日本、e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(日本、e-Gov法令検索)
- 職業安全衛生法 第25条
- 勞工職業災害保險及保護法 第89条
- 勞動基準法 第59条
- 勞動基準法 第62条
- 職業安全衛生法 第27条
- 職業安全衛生法 第26条
- 職業安全衛生法 第27条の1
- 職業安全衛生法 沿革(2025年12月19日改正、2026年7月1日施行)
- 勞動基準法 第63条
- 勞工職業災害保險及保護法 第91条
- 民法 第189条
- 勞動基準法 第60条
- 職業安全衛生法 第37条
- 職業安全衛生法 第40条
- 職業安全衛生法 第43条
- 中華民國刑法 第276条
- 中央社 2026年10月24日
- 自由時報 2026年10月24日
よくある質問
- 下請会社の作業員の労災について、元請の日系企業も補償しなければなりませんか。
- 台湾の職業安全衛生法第25条第1項と労工職業災害保険及保護法第89条は、事業単位が自らの事業を請け負わせた場合、請負人の作業員の労災補償について元の事業単位が請負人と連帯して責任を負うと定めています。補償した会社は、被災者の雇用主に求償できます(同法第89条第2項)。
- 元請が負う安全上の措置は日本と同じですか。
- 台湾の職業安全衛生法第27条は、請負人の作業員と共同で作業する場合に、協議組織の設置、工作場所負責人の指定、作業の連絡・調整、巡視、教育訓練の指導・援助、入場管理などを元の事業単位に求めます。日本の労働安全衛生法第30条の特定元方事業者の措置と項目は似ていますが、要件と罰則は台湾法で別に確認が必要です。
- 補償と損害賠償はどう違いますか。
- 台湾の労働基準法第59条の補償は、雇用主の過失を問わず、法律の定める基準で支払われます(死亡なら平均賃金5か月分の葬祭費と40か月分の死亡補償)。損害賠償は過失を前提とし、雇用主は無過失を証明しなければ責任を負います(労工職業災害保険及保護法第91条)。元の事業単位が職業安全衛生法や安全衛生に関する規定に違反して災害が起きた場合は、請負人と連帯して賠償します(職業安全衛生法第25条第2項)。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



