父が4月に亡くなり、残したキオクシア株が6月に急騰しました。相続税の評価額は、その高値で決まるのでしょうか。10月25日に配信されたファイナンシャルフィールドの記事はこうした設例を置き、評価は死亡日の終値と、死亡した月・前月・前々月の終値の月平均のうち最も低い価額によるもので、6月の値上がりは反映されないと説明しています(記事中の仮定の事例です)。
では、その父親が台湾で暮らしていたらどうなるでしょうか。先に結論を書くと、日本国籍の父親が残したキオクシア株に、台湾の遺産税はかかりません。
キオクシア株が台湾の課税から外れる理由
二つの条文の組み合わせです。遺産及贈与税法(遺產及贈與稅法)第1条第2項は、中華民国の国民でない人が亡くなったとき、課税の対象を台湾国内にある遺産に限っています。株式がどこにあるかを決めるのは第9条第1項第8号で、基準は発行会社の主たる事務所の所在地です。
キオクシアの本社は日本にあります。台湾に何年住んでいても、株を預けた証券口座がどこにあっても、その株は台湾の外の財産として扱われます。
例外は一つです。死亡前2年以内に自分の意思で中華民国の国籍を失った人は、国民として課税されます(第3条の1)。台湾の国籍を持ったことのない日本人には、関わりのない規定です。
台湾株があれば、死亡日の終値で
同じ父親が台湾の上場会社の株も持っていたら、話は変わります。台湾に本社を置く会社の株は台湾の遺産で、遺産税の対象です。
価額の出し方は施行細則第28条に書かれています。証券取引所の上場株と店頭登録(上櫃)株は、相続開始日、つまり死亡日の終値。興櫃株は当日の加重平均成約価格です。土台には、遺産を死亡時の時価で計算するという法律第10条の原則があります。
台湾株が死亡後に急騰しても、急落しても、この数字は動きません。
4つの価額から最も低いものを選べる日本のような余地は、台湾の細則にはありません。平均値が顔を出すのは一か所だけで、それも「当日に売買価格がない場合」のただし書きの中です。どれほどの値動きを「激しい」とみるかの数字も、条文にはありません。たとえば死亡日が土日や休場日に当たるなど、その日に売買価格がなく、代わりに見る直前の最終日の終値が激しく動いていたとき。このときに限って、死亡前1か月間の各日終値の平均が使われます。
日本の相続税では、台湾株も課税されうる
日本側の課税範囲は、相続人の住所や国籍、被相続人と相続人の過去10年以内の住所などで決まります(タックスアンサーNo.4138)。その範囲に入れば、台湾株は日本の相続税の対象にもなります。
評価の方法は、国税庁の質疑応答事例「外国の証券取引所に上場されている株式の評価」が示しています。国内の上場株式の評価方法に準じて評価し、課税時期の最終価格と、課税時期の属する月以前3か月の各月の最終価格の月平均額のうち、最も低い価額によることができる、円換算は原則として取引金融機関が公表する課税時期の対顧客直物電信買相場(TTB)などによる、という回答です(2025年8月1日現在の法令・通達に基づくもの)。記事が説明した国内上場株の評価(タックスアンサーNo.4632)と同じ物差しが、台湾株にも当てられるわけです。
同じ台湾株でも、台湾での評価額と日本での評価額が一致するとは限りません。
二重課税の調整は日本側で行います。相続税法第20条の2は、日本国外にある財産について現地の法令で相続税に相当する税が課されたとき、その税額を日本の相続税額から控除すると定めています。控除できるのは、算出した相続税額のうち在外財産の割合に対応する額までです(同条ただし書)。日台民間租税取決めは所得に対する租税についての取決めで、相続税は含まれていません(国税庁の日台民間租税取決めのページ、財務省の租税条約一覧)。
台北国税局への申告と納付
台湾の申告期限は、死亡の翌日から6か月です。被相続人が中華民国の国民でなければ、申告先は中央政府所在地の税務機関、すなわち台北国税局になります(第23条)。
控除の幅も狭くなります。日本人の被相続人には使えない控除があるからです。配偶者控除や子の控除を含む第17条第1項第1号から第7号までの控除で、同条第2項が国民でない被相続人を外しています(第17条)。2026年に開始した相続の免税額は1,333万台湾元です。課税遺産額5,621万台湾元までは10%、1億1,242万台湾元までは15%、それを超える部分には20%がかかります(財政部の2026年適用額一覧)。
納税通知書が届いたら、その翌日から2か月以内に納めます(第30条第1項)。納め終わるまでは、遺産を分けることも、相続した株の名義を移すこともできません(第8条。事前に移転の同意証明を受けた場合などを除く)。
現金が足りないときは、相続した台湾株そのものを納税に充てる道があります。税額が30万台湾元以上で、現金で一度に納めるのが本当に難しいこと。この二つがそろえば、納付期限内に、現金で足りない部分について、台湾国内の課税対象財産か、納税義務者が持つ換価・保管しやすい実物で一度に納める物納を申請できます(第30条第4項)。台湾株を充てるときの価額は、遺産税の課税で評価された価額が基準です(施行細則第46条)。申請日の時価が死亡日の時価を下回っていれば、物納に充てられる税額は、その財産が課税対象全体に占める価値の割合までに限られます。
台湾の弁護士に依頼できること
台北国税局への申告を、日本に住む相続人の代わりに行うこと。遺産の中の株を台湾株と日本株に分け、台湾で申告すべきものを整理すること。死亡日前後の売買記録から評価額を確かめ、休場日や値動きをめぐって争いになりそうな点に意見を書くこと。納税通知書を受けた後の納付や物納の申請、決定に不服があるときの手続き。こうした台湾側の仕事を台湾の弁護士に任せられます。日本の相続税申告は日本の税理士が担当し、台湾で納めた税額の資料をそちらに渡す形になります。
ご相談はwei@hoveringlaw.com.twへ。昊鼎国際法律事務所 台北事務所:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2。相続の業務については家事・相続のページをご覧ください。
6月のキオクシア株の高値は、台湾の申告書には出てきません。そこに載るのは台湾株と、その死亡日の終値です。
参考にした資料
確認日:2026年10月26日。
- ファイナンシャルフィールド(Yahoo!ニュース、2026年10月25日配信):上場株式の評価方法に関する記事
- 国税庁タックスアンサーNo.4632 上場株式の評価
- 国税庁 質疑応答事例「外国の証券取引所に上場されている株式の評価」
- 国税庁タックスアンサーNo.4138 相続人が外国に居住しているとき
- 相続税法第20条の2(e-Gov法令検索)
- 国税庁:日台民間租税取決め
- 財務省:我が国の租税条約等の一覧
- 遺産及贈与税法(遺產及贈與稅法):第1条、第3条の1、第8条、第9条、第10条、第17条、第23条、第30条
- 遺産及贈与税法施行細則:第28条、第46条
- 財政部:2026年(115年)開始の相続・贈与に適用する免税額・控除額・課税区分の一覧(2025年11月27日公告)
よくある質問
- 父のキオクシア株は、台湾の遺産税の申告に入りますか。
- 中華民国の国民でない人の遺産税は台湾国内にある遺産だけが対象で(遺産及贈与税法第1条第2項)、株式は発行会社の主たる事務所の所在地にあるものとされます(第9条第1項第8号)。日本の会社の株式は、原則として台湾の申告に入りません。死亡前2年以内に自らの意思で中華民国国籍を失った人は国民として扱われます(第3条の1)。
- 台湾株の評価に、死亡後の株価の上がり下がりは反映されますか。
- 反映されません。日本の相続税のように死亡日の終値と、死亡した月以前3か月の各月の終値の月平均から最も低いものを選ぶ仕組みは、台湾にはありません。遺産及贈与税法施行細則第28条で上場・上櫃株式の評価に使うのは死亡日(相続開始日)の終値で、興櫃株式は当日の加重平均成約価格です。死亡日より前の価格に戻るのは、その日に売買価格がない場合のただし書きだけです。直前の最終日の終値を使い、それが激しく変動していれば死亡前1か月間の各日終値の平均を使います。死亡後の値動きを取り込む定めはありません。
- 日本の相続税では台湾株をどう評価し、台湾で納めた税はどう扱われますか。
- 国税庁の質疑応答事例は、外国の証券取引所に上場されている株式を国内の上場株式の評価方法に準じて評価するとし、課税時期の最終価格と、課税時期の属する月以前3か月の各月の最終価格の月平均額のうち最も低い価額によることができ、円換算は原則として対顧客直物電信買相場(TTB)などによるとしています。台湾で課された遺産税は、相続税に相当する税として相続税法第20条の2の在外財産に対する相続税額の控除の対象になると考えられます。控除額には同条ただし書の上限があります。日台民間租税取決めは相続税を対象にしていません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



