日本の暗号資産交換業者で売買していれば、年間取引報告書が送られてきます。載っているのは、その年の購入と売却の数量・金額、年始と年末の数量、購入・売却以外の移入・移出の数量、支払手数料などです。外貨で取引した分は、取引時の仲値(TTM)で円に換算されています(国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」 2-9)。日本の申告では、暗号資産の利益は原則として雑所得です(同2-2)。
台北に住む人がこの報告書を台湾で使う場面があるとすれば、きっかけは国税局からの照会でしょう。台湾財政部が2025年1月13日に立法院へ出した書面報告によると、各地の国税局は暗号資産取引プラットフォームでの取引を調査項目に入れ、所得者に書面で照会したり、業者から資料や取引明細を集めたりしています。2024年12月13日までに把握した申告漏れ所得は1億2,919万6,958台湾元。追徴税額と過料は合計3,403万653台湾元でした。
円の合計は、台湾の計算式にそのまま入らない
報告書が示すのは一年分の合計です。財政部の報告がいう所得は、売るたびに成約価額から取得原価と関連費用を差し引いた額で、個人が経常的でなく証券性のない暗号資産を売買した場合、所得税法第14条第1項第7類の財産交易所得として総合所得に合算されます。頻繁に売買する人をどう区分するかについて、報告は何も述べていません。
換算の物差しも違います。台湾で海外所得として扱うなら、外貨建ての所得は支払日の台湾銀行(臺灣銀行)の直物買い・売り終値の平均で台湾元にします(海外所得の申告・査核要点第17点)。円で取引していても、台湾から見れば外貨です。売却ごとの約定日と金額が分かる取引履歴を、報告書とは別に用意することになるのはこのためです。
日本では、年末に残った暗号資産の1単位当たりの取得価額を総平均法か移動平均法で計算し、譲渡原価を出します(同FAQ 2-4)。台湾の報告と要点を確認した範囲では、こうした計算方法の定めは見当たりませんでした。
証券性が認められるトークンなら扱いが変わります。金融監督管理委員会の基準で証券とされる暗号資産の売買損益は証券取引所得で、個人への課税は第4条の1により停止されています。
何年前の記録までさかのぼるか
5年前に売った分を問われたとしましょう。必要になるのは、その年の報告書だけではありません。原価は買ったときの価格です。購入した年まで記録をたどります。国税局が課税できる期間は、期限内に申告し詐欺などの不正な方法を使っていなければ5年、期限内に申告していないか故意に不正な方法で逃れていれば7年です(税捐稽徴法第21条)。その期間に売った分が、もっと前に買ったものだということもあります。
古い購入は報告書がないかもしれません。国税庁は、平成30年1月1日以後の取引について交換業者に報告書の交付を求めている一方、平成29年以前は交付されない場合があると注記しています(同FAQ 2-7)。その場合に頼れるのは、円を入金した銀行口座の記録や、別のウォレットへ移したときのTxIDとアドレスです。相続や贈与で受け取った分は、取得原価の代わりに受け取ったときの時価を差し引きます(所得税法第14条第1項第7類第2号)。
記録が途切れると、原価の数字は別のところから出てきます。一つは所得税法第83条で、調査の際に所得を証明する帳簿や書類を提示しなければ、国税局は把握した資料や同業者利益率の基準で所得額を決められます。もう一つが海外所得向けの要点第16点です。原価と費用の証明がなければ、不動産は実際の取引価格の12%、有価証券とその他の財産は20%を所得額とし、国税局が把握した実際の所得のほうが高ければそちらによります。第16点に暗号資産という言葉はありません。非証券型を「その他の財産」とみるかは国税局の判断です。
書類が日本語なら、中国語訳を付けます。国税局が英語版を認めた場合だけは例外です(要点第19点)。
日本の取引所での売却は「台湾国内」の取引か
報告書の発行元が日本の交換業者でも、台湾の法律がその売却を国外の取引とみるとは限りません。所得税法第8条第7号は「中華民国国内の財産取引による利益」を台湾源泉所得としています。台北の自宅から日本の取引所に出した売り注文がこれに当たるのか、財政部の報告は答えていません。確認日現在、明文の規定も公表された財政部の解釈も見つからず、台湾で登録された取引所を使った場合も含めて解釈に委ねられた部分です。
海外所得と扱われた場合に効いてくるのは、100万台湾元という線です。所得基本税額条例第12条第1項第1号により海外所得は基本所得額に入りますが、申告単位の年間合計が100万台湾元未満なら算入されず、100万台湾元以上なら全額が算入されます(施行細則第15条)。財政部の2026年5月の発表によれば、114年度(2025年分)は基本所得額から750万台湾元を引いた残りに20%を掛け、その額が通常の所得税額を上回るときだけ差額を納めます。
台湾源泉とされれば、居住者の売却益は総合所得に合算され、第5条第2項の累進税率がかかります。
売って損をした年は、どちらの扱いかで結果がさらに変わります。台湾源泉なら、損失は同じ年の財産交易所得から引き、引ききれない分は3年間繰り越せます(第17条)。海外所得なら、同じ年の海外の財産交易所得からその額までしか引けず、損失も所得も実際の取引価格と取得原価で計算し、国税局が確認したものに限られます(要点第16点)。円の合計額だけでは、この確認に足りないでしょう。
帰任の年
帰任の年は、日本の居住者に戻る年でもあります。日本では、国内に住所があるか、引き続き1年以上居所があるかで居住者かどうかが決まります(国税庁タックスアンサーNo.2875)。台湾側の物差しは日数です。住所のない外国人なら、1課税年度内の滞在が合計183日以上かどうかで判断されます(所得税法第7条)。1月から4月まで台北にいて帰任すれば、その年の台湾では非居住者です。
非居住者に最低税負制はかかりません(条例第3条第1項第5号)。前の節の100万台湾元の線も、この年には関係しなくなります。残るのは台湾源泉所得の扱いで、源泉徴収の対象にならないものは、その年の申告期間が始まる前に出国するなら出国前に、申告期間中も台湾にいればその期間内に申告します(第73条)。日数の数え方は台湾の所得税の居住者判定にまとめています。
照会のあと
国税局に出した帳簿や書類には受領証が出され、税法違反や脱税の疑いがある場合を除いて、提出完了日から30日以内に返されます(税捐稽徴法第30条。特別な事情があれば一度だけ30日延長)。申告漏れが見つかったときの過料は、申告していた人なら漏れた税額の2倍以下、申告していなかった人なら追徴税額の3倍以下です(所得税法第110条。最低税負制も条例第15条で同じ倍率)。課税処分に納得できず、納付税額が記載されているなら、納付期間満了の翌日から30日以内に理由と証拠を添えて再調査(復査)を申請し、その先は訴願と行政訴訟に進みます(第35条、第38条)。期限の数え方と各段階の流れは、台湾の税務調査と不服申立ての期限で詳しく扱っています。
台湾の弁護士に依頼できること
台湾の弁護士の仕事は、照会状の対象年度とその年の滞在日数から、居住者の年だったかを整理するところから始まります。続いて、年間取引報告書と売却ごとの取引履歴、銀行やウォレットの記録を台湾元の所得計算に組み直し、中国語訳をそろえます。取引所の所在地について法的な意見を添えた国税局への回答書や、課税処分の後の再調査・訴願も任せられます。日本側の申告は、日本の税理士と別に確認することになります。ご相談はwei@hoveringlaw.com.twまで。昊鼎国際法律事務所の台北事務所:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2。
毎年届く一枚の合計表と、その裏にある売買の一件一件。台湾の国税局が見るのは後者です。
参考にした資料
確認日:2026年10月26日。
- 財政部「暗号資産所得課税規定」書面報告(2025年1月13日、台財稅字第11304672340號)
- 所得税法(所得稅法):第4条の1、第5条、第7条、第8条、第14条、第17条、第73条、第83条、第110条
- 所得基本税額条例(所得基本稅額條例):第3条、第12条、第15条、施行細則第15条
- 税捐稽徴法(稅捐稽徵法):第21条、第30条、第35条、第38条
- 財政部「非中華民國來源所得及香港澳門來源所得計入個人基本所得額申報及查核要點」(台北国税局サイト)
- 財政部プレスリリース(2026年5月11日):海外所得の自主申告
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」(令和7年12月26日)
- 国税庁タックスアンサーNo.2875 居住者と非居住者の区分
よくある質問
- 何年前の年間取引報告書まで手元に置いておけばよいですか。
- 台湾の国税局が課税できるのは、期限内に申告し詐欺などの不正な方法を使っていなければ5年、期限内に申告していないか故意に不正な方法で逃れた場合は7年です(税捐稽徴法第21条)。ただ、所得は売却価額から取得原価を引いて計算するので、その期間に売った分を買った年の記録も要ります。国税庁は平成29年以前の取引について報告書が交付されない場合があるとしており、それより前の購入は銀行の入金記録やウォレットの移転記録でたどることになります。
- 4月に日本へ帰任した年の売却も、台湾で申告するのですか。
- 台湾に住所のない外国人は、1課税年度内の滞在が合計183日以上かどうかで居住者が決まります(所得税法第7条)。4月に帰任した年は183日に届かず非居住者となり、最低税負制の対象から外れます(所得基本税額条例第3条第1項第5号)。台湾源泉所得で源泉徴収の対象にならないものがあれば、その年の申告期間が始まる前に出国するなら出国前に申告します(所得税法第73条)。暗号資産の売却が台湾源泉に当たるかは、明文の規定がなく解釈に委ねられています。
- 報告書の円の金額を、そのまま台湾での計算に使えますか。
- 年間取引報告書の外貨取引は、取引時の仲値(TTM)で円に換算した額です(国税庁FAQ 2-9)。台湾で海外所得として扱う場合、外貨建ての所得は支払日の台湾銀行の直物買い・売り終値の平均で台湾元に換算するので(海外所得の申告・査核要点第17点)、売却ごとの日付と金額が分かる取引履歴が別に必要です。日本語の書類には中国語訳を付け、英語版が認められた場合だけ例外です(第19点)。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



