「課長以上は残業代の対象外」という日本本社の考え方は、台湾子会社にはそのまま当てはまりません。日本の労働基準法第41条は、監督・管理の地位にある者を労働時間・休日の規定から外しています。台湾の労働基準法には、役職だけでこれと同じ扱いになる一般的な規定がありません。
責任制が認められる条件
その前に確かめることがあります。労働基準法の「労工」は、雇主に雇用されて働き、賃金を得る者です(第2条)。委任契約で経営を任された総経理などは、これに当たらない場合があります。雇用されている課長は、通常は労工です。
台湾で日本の管理監督者に近いのは第84条の1、いわゆる責任制です。条件は三つあります。
一つ目は職種です。中央主管機関(勞動部)が核定公告した、監督・管理人員や責任制専門人員、監視的・断続的な業務、その他性質の特殊な業務の労働者でなければなりません。二つ目は書面です。労使双方が労働時間、例假、休假、女性の夜間労働について書面で約定し、その内容は法の基準を参考にして健康と福祉を損なわないものとします。三つ目は核備です。約定を地方主管機関に報請して核備を受けます。
社内で「責任制」と呼んでいても、どれかが欠ければ適用されません。
三つがそろった場合に外れるのは、第30条(通常の労働時間)、第32条(延長の上限)、第36条(例假・休息日)、第37条(休日)、第49条(女性の夜間労働)です。延長労働時間の賃金を定めた第24条は、この一覧にありません。約定した時間を超えて働いた分の扱いは、約定の書面に書いた内容と照らし合わせて確認する必要があります。
残業代の計算
責任制に当たらない社員の残業代は、第24条で決まります。
- 延長の最初の2時間:平日の時間給に3分の1以上を加算
- 次の2時間:3分の2以上を加算
- 休息日の勤務:最初の2時間は1と3分の1以上、その後は1と3分の2以上を加算
労働者の同意を得て国定の休日などに働かせたときは、賃金を倍額で払います(第39条)。
延長には上限もあります。工会、なければ労資会議の同意を得て延長でき、通常の時間と合わせて1日12時間、延長分は月46時間までです。同意を得れば月54時間・3か月138時間まで広げられ、30人以上を雇う会社は地方主管機関に届け出ます(第32条)。
例假と休息日は扱いが違う
週休2日の2日は、同じ「休み」ではありません。7日のうち1日は例假、1日は休息日です(第36条第1項)。
休息日に働かせた時間は、第32条第2項の延長労働時間の総数に数えられます(第36条第3項)。延長と同じ上限と手続の枠の中で行い、上の加算を払います。例假は違います。働かせられるのは、天災、事変、突発事件で仕事を続ける必要がある場合に限られます。その場合も賃金は倍額で、事後に代わりの休みを与え、24時間以内に理由を地方主管機関に報告して核備を受けます(第40条)。
日本本社からの視察や決算の追い込みは、突発事件とは言いにくいでしょう。土日の両方に出勤を求める予定を組むなら、どちらが例假かをシフト表で先に決めておく必要があります。
代休で処理する会社もあります。代休は社員が選び、会社が同意したときに、働いた時間数で付与します。期限までに取れなかった分や退職時に残った分は、残業代として払わなければなりません。払わなければ第24条違反として扱われます(第32条の1)。
出勤記録が会社に不利な証拠になる
会社は出勤記録を備え、分単位で日ごとに記録し、5年間保存しなければなりません。社員が写しを求めたら拒めません(第30条第5項、第6項)。
訴訟になると、この記録が効いてきます。勞動事件法第38条は、記録に載った時間を、雇用主の同意を得て職務を行った時間と推定しています。「本人が勝手に残っていた」と主張するなら、会社の側がそれを示す必要があります。
行政の処分も軽くありません。残業代(第24条)や延長の上限(第32条)、出勤記録の分単位の記載と写しの交付(第30条第6項)の違反は、2万〜100万台湾ドルの罰鍰です。出勤記録を備えて5年間保存する義務(同条第5項)の違反は9万〜45万台湾ドルです。主管機関は、事業の規模や違反人数などによって罰鍰を加重することもできます(第79条)。罰鍰を受けると、会社名や負責人の氏名が公表されます(第80条の1)。
社員からの請求は、労働局の調解か裁判所の労働調解から始まることが多いでしょう。違いは台湾の労働紛争、労働局の調解と裁判所の労働調解はどう違うかにまとめています。未払い賃金は、民法第126条の定期給付として5年の時効によると解されています。
課長職の社員について最初に確かめるのは、責任制の核備の通知書が会社の書庫にあるかどうかです。なければ、その課長の残業は第24条で計算することになります。
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参考にした公的資料
- 労働基準法(台湾)第2条、第24条、第30条、第32条、第32条の1、第36条、第39条、第40条、第79条、第80条の1、第84条の1(最終改正2024年7月31日)
- 勞動事件法 第38条
- 民法 第126条
- 日本 労働基準法(昭和22年法律第49号)第41条
確認日:2026年10月24日。台湾の条文は中国語の原文を基準にしています。
よくある質問
- 台湾子会社の課長には役職手当を払っています。残業代は不要ですか。
- 役職手当を払っていることだけでは、労働基準法の労働時間の規定は外れません。第84条の1の責任制にするには、その職務が中央主管機関の核定公告の対象であること、書面で約定すること、地方主管機関に報請して核備を受けることが必要です。三つがそろわなければ、第24条の基準で延長労働時間の賃金を計算することになります。
- 社員が自分の判断で残っていた時間まで残業代を払う必要がありますか。
- 勞動事件法第38条により、出勤記録に記載された時間は、雇用主の同意を得て職務を行っていたものと推定されます。残っていた時間が勤務でなかったと言うには、会社がその反対の事情を示す必要があります。残業を事前申請制にしているなら、申請と承認の記録と、出勤記録との差を説明できる資料を残してください。
- 未払いの残業代は何年分さかのぼって請求されますか。
- 賃金は民法第126条の「1年以内の定期給付」として、各期の請求権が5年の時効にかかると解されています。会社が出勤記録を5年間保存する義務(労働基準法第30条第5項)とあわせると、請求があったときは過去5年分の記録を確認することになります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



