海外勤務手当は賃金でした。同じ従業員への業績賞与と年末賞与については、台北地方法院は労働法上の賃金に当たらず、解雇手当を計算する平均賃金にも含めないと判断しています。名称だけでは決まりません。
派遣先は北京でした。雇用終了後、従業員は台湾の法定解雇手当である「資遣費」の不足額などを請求しました。台北地方法院114年度労訴字第257号判決は、会社に25万8,312台湾ドルと遅延利息の支払いを命じ、残りの請求を退けています。判決日は2026年3月25日です。第一審の判断です。後の同法院の訴訟費用に関する裁定には、この判決が確定したと記されています。
「膳雑費」という説明だけでは足りなかった
会社は海外手当について、出張中の食事などの追加費用を補う支払いだと説明しました。台湾に戻っている間は不支給です。出張の種類や日数によって金額も変わるため、固定的な賃金ではないという主張でした。採用時の通知書にも、給与には出張手当を含まない旨の記載がありました。
裁判所が読んだのは、支給項目の名前に加え、会社の出張管理規程と日額の支給基準でした。規程は追加費用の補填だけでなく、業務上の必要に応じて勤務時間が延びることも支給の理由としていました。所定の出張区分や日数に該当すれば、定められた日額を受け取れる仕組みです。実際の支給履歴もありました。
ここで働いたのが、労働事件法第37条の推定です。従業員が雇用関係に基づいて会社から支払いを受けたことを立証すると、その支払いは労働によって得た報酬と推定されます。推定は覆せます。会社は、労働の対価ではないことや、通常受け取れる給付ではないことを示す具体的な反証を出せます。
本件では、その反証が足りませんでした。裁判所は海外手当を「工資」、つまり台湾労働法上の賃金と認め、資遣費を算定する平均賃金に含めました。出張先で発生した費用を領収書に基づいて精算する制度まで、すべて同じ結論になると判断したわけではありません。
日本本社の人事担当者が台湾子会社の支給項目を点検するなら、「海外手当」「生活補助」という日本語の名称をそろえるだけでは足りません。勤務すれば一定額を受け取る約束なのか、実際に支出した費用の返金なのか。支給条件と運用を並べると、会社がどの事実を説明する必要があるかが見えてきます。
業績賞与と年末賞与では、会社の反証が認められた
労働基準法第2条第3号は、労働によって得た報酬を賃金とし、賞与や手当という名目の通常の給付も含めています。賞与という名前は、除外の根拠になりません。反対に、毎年お金を受け取っていたという事実だけで、支給条件の異なる給付がすべて賃金になるわけでもありません。
争われた業績賞与は、年度末に利益があり、税金、損失、配当や積立金などを処理した後、従業員の勤務上の過失や業績評価も考慮して支給する制度でした。裁判所は、このような利益や評価に左右される給付について、通常の労務提供に対応して支払う賃金とは認めませんでした。
年末賞与にも条件がありました。利益が出ない年度でも、福利厚生の競争力や従業員の定着などを考慮して、権限のある管理者が支給対象と金額を承認する仕組みでした。評価不足による減額や、過失がある場合の不支給も定められていました。裁判所はこうした条件を踏まえ、年末賞与も平均賃金に含めませんでした。
賞与の制度は会社ごとに異なります。雇用契約で一定月数の賞与を保証していたり、名目上は任意でも実際には一定の勤務に対して継続して支給していたりすれば、検討する事情が変わります。契約書と運用の両方が要ります。
また、賃金性を否定されても、賞与の請求が必ずなくなるとは限りません。契約に支給の約束があるか、条件を満たしたかという問題が残るためです。労働基準法第29条も、年度末の利益から所定の控除をした後、年間を通じて勤務し過失のない従業員に賞与や利益を分配する規定を置いています。ただし、全従業員に固定額や給与1か月分の年末賞与を保証する条文ではありません。
賃金かどうかと、支給日に在籍しているか
従業員は、すでに一部を受け取っていた業績賞与の残額も請求していました。こちらは、平均賃金に入れるかとは別の請求です。
裁判所は支給に関する通知と在籍条件を検討し、次の支給時点で在籍しているという条件を満たしていないとして、残額の請求を退けました。従業員は、この訴訟では雇用終了の適法性を争っていませんでした。会社に条件の成就を不当に妨げる意図があったことを示す証拠も、従業員からは提出されていません。裁判所は、こうした事情も判断の前提にしています。
支給日在籍条項があれば、会社はどのような終了のさせ方をしても支払いを免れる、という判決ではありません。すでに発生した賃金を賞与と呼んでいた場合や、支給直前の終了の経緯が異なる場合まで、同じ条項だけで処理することはできません。退職日だけでなく、誰が、どの理由で雇用を終了させたかも検討対象になります。
人事担当者には、給与規程の最新版だけでなく、採用時と対象年度の規程、個別通知、実際の支給明細を結び付ける作業が残ります。規程の版も残します。後で変更された支給条件を、以前の勤務期間に当然に適用したという説明になっていないかを確かめるためです。
翌年度の人件費予算に、終了時の精算も含める
JETROは2026年10月6日の記事で、台湾の翌年度最低賃金をめぐる審議結果を紹介しています。基本給の見直しとともに、日系企業が確認したいのが手当や賞与の位置付けです。現在支払っている総額と、雇用終了時の計算に使う賃金の範囲は、給与台帳を眺めるだけでは一致するとは限りません。
日本人出向者にこの考え方を用いる際は、台湾で労働法上どの制度が適用されるかが前提になります。日本本社と台湾子会社のどちらが雇用主か、どちらが支払っているか、出向合意で何を約束したかを確認します。税務上の給与所得や社会保険の取扱いだけで、労働法上の賃金性まで決めることはできません。税務・保険の整理は、既存の日本人出向者と現地採用者の給与で扱っています。
台湾の報酬規程や終了時の精算を相談する場合、初回の連絡には、問題となる支給項目と雇用終了の予定日をwei@hoveringlaw.com.twへ簡潔に伝えれば足ります。個人情報を含む明細の共有方法は、その後に確認します。
今回の判決で会社側の説明が通らなかったのは、海外手当の実質を裏付ける部分でした。賞与の説明には別の資料があり、結果も分かれました。台湾子会社の精算表を作る際にも、支給項目ごとに、規程の文言と実際の支払いを結び付けておく理由がここにあります。
参照した判決・公的資料
- 台北地方法院114年度労訴字第257号判決(2026年3月25日、第一審)
- 同法院115年度司他字第277号裁定(2026年6月8日、訴訟費用の裁定に先の判決の確定を記載)
- 労働基準法 第2条、第29条
- 労働事件法 第37条
- JETRO 台湾の翌年度最低賃金に関する審議結果の紹介(2026年10月6日)
資料確認日:2026年10月25日。台湾法と公表判決に基づく一般的な説明です。個別の出向関係や給付の性質は、契約と支給実態を確認して判断します。
よくある質問
- 給与規程に「手当は賃金に含めない」と書けば、資遣費の計算から外せますか。
- その記載だけでは決まりません。労働の対価として、制度上通常受け取る支払いかを確認します。紹介した判決では、海外手当を賃金から除外する会社側の説明が採用されず、平均賃金に含められました。実費の精算か、勤務に応じた定額給付かなど、実際の仕組みを調べる必要があります。
- 年末賞与は台湾ではすべて賃金に含まれないのですか。
- 一律にはいえません。この判決は、利益や評価などに応じて支給する当該企業の制度を判断したものです。一定月数の支給を契約で保証している場合などは、労務の対価性や通常の支給実態を改めて検討します。賃金に当たるかと、契約上その賞与を請求できるかも区別します。
- 日本本社から台湾に出向した人にも、この判決をそのまま使えますか。
- 実際の事件は北京に派遣されていた従業員の台湾での労働紛争です。日本人出向者については、雇用主、出向契約、適用法、支給者と支給条件を確認したうえで、台湾法上の賃金性を検討します。国籍や「駐在員」という名称だけでは適用関係は決まりません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



