製造会社は病院への納品・請求を担い、販売会社は商品の紹介と顧客の維持を担当していました。販売会社の報酬は手数料です。ところが、その会社が競合商品の容器の製造を別の会社に依頼し、商品を病院に紹介したことで、製造会社との紛争になりました。
対象は消毒用の医薬品です。知的財産及び商業法院113年度民公上字第5号判決は、契約にない競業禁止義務を、抽象的な忠実義務から付け加えることを認めませんでした。2026年1月21日の控訴審判決で、控訴と追加請求を棄却しています。その後の上訴や確定の状況は確認していません。
手数料、販売目標、契約終了まで書かれていた
裁判所は、契約書と更新時の付属合意を読み合わせました。付属合意では病院の入札や契約も製造会社が担い、相手は商品の導入に向けた営業や顧客との関係維持などを担う形になっていました。
製造会社には、自ら販売する余地がありました。相手は専売を約束していません。ほかの商品の紹介や販売ができる契約の仕組みでした。
販売時期や予定数量の定めもあります。目標に達しないときには担当範囲を調整したり、契約を終了したりする仕組みがありました。手数料は販売価格の差額などを基準に計算され、契約は製造会社が手数料以外の費用を負担しないことも定めていました。双方が何を負担し、何を受け取るかは、相応に書き込まれていたのです。
そのため裁判所は、競業禁止が書かれていないことを、後から埋めるべき本当の契約の空白とは扱いませんでした。手数料についても、契約上の販売業務の対価と判断しています。営業の自由を制限する補償まで含む、とは読みませんでした。
日本のメーカーが台湾の販売会社と交渉するときも、「手数料は十分払っている」という認識と、「その対価として他社の商品を扱わない」という合意は、文書上どこでつながっているかが問われます。専売の約束が欲しいなら、手数料の計算式だけを精密にしても、その約束を記したことにはなりません。
信義則で加えられる義務にも限りがある
台湾民法第98条は、意思表示の解釈では当事者の真意を探り、文言だけに拘束されないと定めています。第148条は、権利の行使と義務の履行に信義誠実を求めます。契約書に単語がない、というだけで解釈が終わるわけではありません。
ただ、契約を解釈することと、新しい営業上の制約を加えることは区別されます。本件では、双方の業務、収益、販売未達の場合の扱いが定められ、販売会社を一つの商品に拘束する構造になっていませんでした。その内容を踏まえても埋めるべき空白があるかを検討した結果、裁判所は競業禁止を補う根拠がないと判断したのです。
自社商品の販売に専念してほしかった、という期待だけで契約違反を主張できるでしょうか。ここで確かめるのは、販売会社がどの範囲の仕事を引き受け、その仕事を行ううえで何を禁じられていたかです。「長年の取引先だから」「代理店と呼んでいたから」という事情だけで、希望する制約がすべて契約内容になるとはいえません。
この事件では、商品表示や公平交易法に関する争点もありました。競業禁止についての判断は、競合商品の開発全般や、相手の秘密情報・知的財産の利用を許したという意味ではありません。
「代理店」が台湾民法の代辦商に当たる場合
見落とせないのが、法律そのものによる制限です。民法第562条は、経理人や代辦商について、委託した商号の許可なく、自分や第三者のために同種の事業を営むことや、同種の事業を行う会社の無限責任社員になることを禁じています。明示の競業禁止条項の有無だけで、すべての販売関係を処理することはできません。
代辦商は台湾民法上の用語です。第558条では、経理人ではなく、商号の委託を受け、一定の場所や区域で、その商号の名義により全部または一部の事務を扱う者とされています。日本語の契約書で「代理店」と題しただけでは、これに当たるかは決まりません。
誰の名前で病院と契約するのか。誰が請求し、代金を回収するのか。商品を買い取って転売するのか、取引を仲介して報酬を受け取るのか。こうした実際の分担を確認して、適用する規定を考えます。手数料型なら一律に代辦商から外れる、という判決でもありません。
今回の事件を参考に「競業禁止を書かなければ、販売会社は何でもできる」と契約を読み替えると、この分類の検討が抜け落ちます。既存の台湾の販売代理店との契約終了に関する記事でも、代辦商と買取販売型の契約を区別しています。
日本企業が販売パートナーを選ぶ段階で残せる合意
日本台湾交流協会は2026年4月27日、MEDICAL TAIWANへの出展・商談支援の対象となる日本企業を公表しました。台湾の医療・ヘルスケア分野で販売パートナーを探す経路が用意されている一例です。選定された各社が販売契約を締結したという資料ではありませんが、商談から継続的な取引へ進む際には、相手がすでに扱う商品も契約条件に関わります。
自社品の優先で足りますか。競合商品を扱わない約束まで求めるなら、その範囲を交渉で詰めます。既存の取扱品、自社ブランド、新たに開発する商品を同じ言葉で一括りにすると、署名時には一致していたつもりの範囲が、後で争いになります。
専売を合意する場合には、対象の商品や顧客、地域、期間、既存商品の例外を具体化し、その制限が契約の種類や競争法上認められるかを別途検討します。会社間の流通契約なので、従業員の退職後の競業避止制度をそのまま当てはめることはできません。ここで紹介した判決も、これから書く競業禁止条項の有効性を保証してはいません。
台湾側の契約を相談する際は、相手の業務と、問題にしている商品の扱いをwei@hoveringlaw.com.twへ簡潔に説明できます。顧客名簿や未公開の価格表は、共有方法を確認してから送ります。
更新時の付属合意も残します。誰が入札し、誰が病院と契約し、手数料は何の仕事に対して支払われていたか。本件で裁判所が読んだのは、その分担を決めた契約と付属合意でした。競合商品を扱った事実の記録とともに、当初どこまで拘束する約束だったのかを示す文書が残っているかが問われます。
判決と関連資料
- 知的財産及び商業法院113年度民公上字第5号判決(2026年1月21日、控訴審)
- 台湾民法 第98条、第148条、第558条、第562条
- 日本台湾交流協会 日台IoT・デジタル産業等協力促進事業の公募結果(2026年4月27日)
確認日:2026年10月25日。台湾法を前提に、公表判決の契約解釈を紹介しています。日台間の契約では適用法も確認する必要があり、個別契約の競業制限の有効性を判断するものではありません。
よくある質問
- 台湾の代理店契約に競業禁止条項がなければ、相手は自由に競合品を扱えますか。
- 契約の名称だけでは決まりません。合意の内容に加え、実際の業務が台湾民法の代辦商に当たるかを確認します。代辦商には、委託した商号の許可なく同種の事業を営んではならないという第562条の制限があります。紹介した判決は、すべての販売契約から競業上の義務をなくすものではありません。
- 手数料を払っていれば、専売の対価も含むと主張できますか。
- 紹介した判決では、契約上の手数料は販売に関する業務の対価であり、営業の自由を制限する補償ではないと判断されました。自社の契約でも、手数料の対象業務と専売の範囲を別々に読み取れるかを確認する必要があります。
- これから競業禁止条項を加えれば、そのまま有効になりますか。
- 条項の有効性は個別に検討します。対象となる商品、顧客、地域、期間、既存の取扱商品に関する例外などを特定し、契約の種類や競争法上の問題も確認します。従業員の退職後競業避止の規定を、会社間の販売契約へそのまま移すことはできません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



