工場の作業台に置かれた金属製の金型と、内張りのある空の運送用ケース
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台湾のOEM先から金型を回収すると、残った在庫も買う義務があるのか

約8分

架空の情景

請求額は7万20米ドルでした。金型を返すよう求められた供給会社が、残った完成品の在庫損害として、発注者に支払いを求めた金額です。台湾の控訴審は、この請求を認めませんでした。

ただし、台湾高等法院台南分院110年度重上字第55号判決が判断したのは、供給会社の反訴のうち、なお争われていた完成品在庫の損害です。ほかの反訴は調停で解決済みです。金型の返還を求める本訴全体について、改めて返還を命じた判決と読むことはできません。判決日は2023年6月29日です。その後の上告審の内容や確定の状況は確認していません。

金型の保管と、製品を買う約束

ネットワーク機器と周辺機器の取引です。発注者は金型の開発・維持費を別に支払い、契約には金型と関連する知的財産権が発注者に帰属すると定めていました。金型代を払えば、どの取引でも当然に金型を所有できるという事件ではありません。

金型はどこにあるのでしょうか。樹脂部品と金属部品の金型は、それぞれ再委託先の加工業者に渡され、できた部品を組み立てる形でした。日本の調達担当者が同様の取引で金型の返還を求める場合も、契約先の会社名と、金型が置かれている場所が一致しているとは限りません。現物の所在が問われます。

供給会社は、製品の生産中止や変更に関する契約条項を、在庫損害の根拠に挙げました。その条項には事前の書面通知、専用品の在庫調査、双方の協議による発注者の責任数量の確認を経て、買取りを処理するという仕組みがありました。完成品や半製品などを、発注者の書面同意なしに第三者へ販売できないという制限もありました。

しかし裁判所は、金型を預ける関係を終了して返還を求めることが、そのまま契約上の製品中止や変更に当たるとは認めませんでした。買取りに関する文言も、契約全体と協議の仕組みを踏まえて読み、発注者が在庫を無条件で買う義務までは導きませんでした。「得」と「應」の違いにも触れていますが、一つの文字だけで在庫責任が消えた事件ではありません。

台湾民法は、寄託物の返還期限を決めていても、預けた側はいつでも返還を請求できると定めています(第597条)。もっとも、個別の金型について寄託関係があるか、ほかの請求や抗弁があるかは確認を要します。返還請求ができることだけで、未完了の注文や代金の問題がすべて解決するわけではありません。

納期を延ばした会議で、注文取消しの条件も決まった

協議は2019年7月です。供給会社の納期遅延を受けて、両社は納期を調整しました。対象は未出荷の注文です。

その電話会議では、今回調整した納期にも遅れれば、発注者が注文を取り消し、責任数量を負担しないと合意したという証言がありました。供給会社が会議後に送った整理メールからこの条件が抜けていたため、発注者側が直ちにメールで補っています。さらに、後の電話でも相手の担当者が同意したという証言がありました。

裁判所は、一通のメールへの無回答だけを承諾としたのではありません。電話会議、補足メール、その後の応答と当時の事情を合わせて、取消しについての合意を認定しました。

再び納期を過ぎました。発注者は注文を取り消しました。数量・単価に争いはありません。ただ、その意味は責任が成立する場合の計算上の前提にとどまり、在庫損害を負担する義務まで認めたものではありませんでした。

数量は合っていても、請求の根拠は争えます。逆に、自社の在庫表の数量が正確だからといって、取引先の支払義務が自動的に成立するわけでもありません。日本側で台湾の工場と精算する際には、棚卸し表の合意と、買取りを約束した合意を同じものとして処理しないようにします。

任意に注文を止める場合の損害賠償

供給会社は、請負の注文者が仕事の完成前に契約を終了できる一方、それに伴う損害を賠償しなければならないという民法第511条も主張しました。生産を別の会社へ移したい発注者には、気になる規定です。

この事件の契約は「採購」、つまり購買の契約という名称でしたが、裁判所は物の引渡しと仕事の完成という内容を見て、売買と請負の性質が混在する契約として検討しています。契約名が購買だから請負の規定は無関係、とは扱っていません。

それでも第511条に基づく請求が認められなかったのは、取消しの理由と根拠が違ったためです。本件は、繰り返された遅延と、その後に合意した条件に従う注文取消しと認定されました。発注者が任意の終了権を行使した場合として、同条の賠償義務を適用する場面ではないと判断したのです。

判決は時効で請求を退けたのでもありません。請求を支える実体上の根拠が認められなかったため、時効に関する抗弁まで判断する必要がないとしています。別の事件で、同じ額や種類の在庫が残れば必ず無償で精算できるという結論にはなりません。

工場を変える計画と、契約を終える通知

JETROは2026年4月21日公表の調査で、台湾EMS企業の生産拠点や供給網の再編と、日台企業の相互補完の可能性を取り上げました。日本企業が委託先や生産場所を見直す際、設備をどこへ動かすかという計画に加え、現在の工場との契約をどう処理するかが残ります。紹介した裁判は、その数年前の事例です。

金型の返還通知には、対象の金型、所有権や保管の根拠、現在地、返還方法を結び付けます。個別の注文については、注文番号ごとに、合意済みの納期、進捗、取消しの理由と根拠を確認します。両方を「生産移管のため取引終了」と一文にまとめると、どの義務を終わらせる通知なのかが曖昧になります。

日台間の契約である以上、準拠法の条項も読みます。涉外民事法律適用法第20条は、契約上の債権関係の成立と効力について当事者の法選択を認め、有効な明示の選択がなければ最も密接な関係のある法によると定めています。取引相手が台湾企業というだけで、契約のすべてが台湾法で決まるとは限りません。

台湾での金型返還や在庫請求を相談する場合は、金型の所在地、未出荷の注文、返還を希望する時期をwei@hoveringlaw.com.twへ知らせるところから始められます。図面や未公開の製造条件を含む資料は、共有方法を確認してから提供します。

返還を求める金型の一覧だけでなく、納期を変更したメールも残します。本件では、基本契約を結んだ後の協議が、在庫の負担を判断する資料になりました。次の工場への搬出日を決める前に、どの注文をどの合意で終えるのかを説明できる状態にしておく必要があります。

参照資料

資料は2026年10月25日に確認しました。特定の金型の所有権や在庫代の負担を確定する説明ではなく、台湾の判決が検討した契約と証拠を紹介するものです。

よくある質問

金型の製作費を払っていれば、自社の所有物になりますか。
費用を払った事実だけで決めることはできません。紹介した事件では、金型の開発・維持費の別払いに加え、所有権と関連する知的財産権が発注者に帰属する契約条項がありました。自社の契約でも、費用、所有権、使用権、返還の相手と方法を確認します。
この判決を示せば、金型回収時に在庫代を払わずに済みますか。
一律にはいえません。判決は、当該契約の製品中止・変更条項、責任数量の協議、納期遅延後の注文取消しの合意などに基づく判断です。別の注文や最低買取数量の約束があれば、その義務を検討する必要があります。金型の返還だけで未完了の注文が消えるわけではありません。
会議後の確認メールに返信がなければ、相手が承諾したことになりますか。
紹介した判決は、無回答だけで承諾を認めたものではありません。電話会議の内容、条件を書き足したメール、その後に担当者が電話で同意したとの証言などを合わせて認定しています。自社の案件では、誰がどの条件に同意したかを示す記録をそろえる必要があります。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。