日本の調理器具メーカーが、7年続いた台湾の販売代理店を切り替えることにしました。売上が伸びず、新しい代理店候補も見つかっています。ところが契約書を開くと、契約期間は「1年、以後自動更新」とあるだけで、終了時の予告期間、在庫の扱い、顧客情報の引継ぎについては一行もありません。代理店に電話で伝えたところ、「7年分の投資を返してほしい」「倉庫に残る在庫を全部買い取ってほしい」と言われました(架空の例です)。
台湾でこの種の相談を受けるとき、最初に確認するのは契約書の文言と、相手が法律上どの種類の「代理店」に当たるかです。答えによって、通知の期間も、補償の有無も変わります。
台湾に代理店保護法はない
欧州の一部の国には、代理店契約の終了時に補償金の支払いを義務づける法律があります。台湾にはそれに当たる特別法がありません。契約の終了と補償は、民法の債編の一般規定、代辦商(代理商)に関する規定、そして当事者が結んだ契約書によって決まります。
つまり、契約書に書いていない補償を代理店が法律上当然に請求できるわけではありません。逆に、契約書に不利な条項を入れてしまえば、それがそのまま基準になります。契約自由が原則で、主な修正の手がかりは、誠実信用の原則(第148条)、後で触れる公平交易法、違約金の減額(第252条)などの個別の規定です。
代辦商か、経銷商か
台湾の民法には「代辦商」という章があります。第558条は、経理人ではなく、商号の委託を受けて、一定の場所または区域で、その商号の名義でその事務の全部または一部を処理する者を代辦商と定めています。日本語でいう販売代理店のうち、メーカーの名義で注文を取りまとめ、手数料を受け取る形のものがこれに近く、報酬は契約、契約がなければ慣習、どちらもなければ事務の重要度と量で決まります(第560条)。
一方、台湾の実務で多いのは、代理店が自分の名義と自分の計算で商品を買い取り、台湾の顧客に転売する形です。中国語では経銷商、総経銷と呼ばれます。法律上はメーカーと代理店の間に繰り返し売買契約(第345条)が成立しているとみられ、民法に経銷商という章はありません。契約書で代理店(Distributor)と書いてあっても、取引の実態が買取転売なら、代辦商の規定は直接には使えません。
この区別が、次に説明する予告期間に直結します。
期限の定めがない契約を終わらせる
代辦商に当たる場合、第561条が答えを用意しています。代辦権に期限の定めがないときは、当事者のどちらからでもいつでも契約を終了できますが、3か月前に相手に通知しなければなりません。自分に責任のない事由のために契約を続けられなくなった場合に限り、予告なしに終了できます。冒頭の例のような「1年、以後自動更新」の契約は、更新ごとに1年の期限があるとも読めるため、第561条がそのまま当てはまるかは契約の文言次第です。更新を止める通知の時期が定められていなければ、次の更新日の少なくとも3か月前に書面で通知しておくと、争いの余地を減らせます。
経銷商に当たる場合、同じ条文はありません。契約に終了条項があればそれに従い、なければ、継続的な取引関係を一方的に打ち切る際の誠実信用の原則(第148条)が働きます。どれだけの予告期間を置くべきかを法律が数字で定めていないので、紛争になれば取引の年数、代理店の投資の規模、在庫の量などを踏まえて個別に判断されます。実務では、相手が在庫を売り切り、人員の配置を変えられるだけの期間を置いて書面で通知する、という形が多く、代辦商の3か月を参考値にすることもあります。
契約に違約金の条項があるときは、第250条により、別段の定めがなければ違約金は不履行による損害賠償の総額とみなされます。金額が過大なときは、裁判所が相当な額まで減額できます(第252条)。代理店側から高額の違約金を請求されても、そのまま確定するわけではありません。
契約を結んだ後に、当時予想できなかった事情の変化があって、元の効果のままでは著しく不公平になる場合には、第227条の2により裁判所に給付の増減や効果の変更を求めることができます。ただ、売上不振や為替の変動は通常の経営リスクと見られやすく、この条文に頼る計画は立てにくいのが実情です。
相手に債務不履行があるとき:催告から解除まで
終了の理由が、代金の未払いや最低購入量の不達成といった相手の債務不履行であれば、手順が変わります。
支払期限が決まっている債務は、期限を過ぎた時点で遅延責任が生じます。期限が決まっていない債務は、催告を受けてから遅延になります(第229条)。遅延した相手に対しては、第254条により、相当な期限を定めて履行を催告し、その期限内に履行がなければ契約を解除できます。季節商品の納期のように、一定の時期に給付しなければ契約の目的を達しないものは、催告なしに解除できます(第255条)。
解除は相手への意思表示で行い、一度した解除の意思表示は撤回できません(第258条)。解除すると双方に原状回復の義務が生じ、受け取った物は返還し、受け取った金銭には受領時からの利息を付けて返します(第259条)。継続的な契約では、過去の個別の売買まで巻き戻すのは現実的でないため、将来に向けて終わらせる「終止」と、特定の取引を解消する「解除」を使い分けます。法律の規定に基づいて終止する場合にも、意思表示の方法に関する第258条が準用されます(第263条)。
催告の期限をいつに設定したか、いつ相手に届いたかは、後の争点になりやすい点です。これが次の存證信函の話につながります。
台湾で催告や解除・終止の通知を出すときは、中華郵政の存證信函を使うのが定番です。差出人が同じ文面の副本を用意し、郵便局がそのうち1通を差出日から3年間保管して、いつ、どんな内容の書面を差し出したかの証拠にする書留で、日本の内容証明郵便に近い制度です(郵件處理規則第34条)。相手に届いた日は、書留に回執を付けておけば、受取人が署名して返送する回執で確かめられます(同規則第28条第2項)。文面は中国語で書くことになっていて、外国語を使えるのは人名や事物の名称など原文の引用が必要な部分に限られます。書き方と日本の内容証明との違いは、台湾の存證信函と日本の内容証明の違いを扱った別の記事で説明しています。
通知の文面には、根拠にする契約条項、催告する内容と期限、期限内に履行がなければ解除または終止する旨、終了後の在庫と顧客情報の扱いについての提案を、順番に書きます。日本語で先に電話やメールで伝えていても、法的な起算点は中国語の書面が届いた日に置くほうが安全です。
在庫、未払い、顧客の引継ぎ
終了時に最も揉めるのが在庫です。台湾の民法には、メーカーに在庫の買戻しを義務づける規定はありません。契約を解除した取引分の商品であれば第259条の原状回復として返還と代金返還の関係になりますが、代理店が自分の計算で仕入れて保有している在庫の処分は、原則として代理店の問題です。だからこそ、終了合意書で、売り切りを認める期間、その間の値引き販売の可否、返品を受け入れる場合の価格と品質条件、保証対応の分担を取り決めておくと、紛争を避けられます。
未払いの代金があるときは、終了の通知と合わせて催告し、必要なら支払命令の申立てや仮差押えを検討します。督促手続で支付命令が送達されると、催告と同じ効力があります(第229条第2項)。回収の手順は台湾の取引先からの未回収代金の記事にまとめています。
顧客情報については、法律が自動的にメーカーへの返還を命じるわけではありません。契約に秘密保持条項や終了後の返還条項があればそれが根拠になり、なければ終了合意書で取り決めます。代辦商に当たる相手なら、契約期間中に商号の許可なく同種の事業を営むことは禁じられていて(第562条)、違反による利益を損害賠償として請求できますが、この請求権は違反を知ってから2か月、行為から1年で消滅します(第563条)。契約終了後の競業は、契約に定めがなければ民法上は制限されませんが、顧客情報の持ち出しが別の法律の問題になる余地は残ります。
もう一つ、終了を伝える前に必ず確かめてほしいのが商標です。台湾では商標権は登録によって生じるため、代理店が日本ブランドの名称を自分の名義で登録しているケースがあります。対応の手順は代理店による商標の先取り登録の記事にあります。
公平交易法が問題になる場面
代理店側が「一方的な打ち切りは不公正だ」として、公平交易委員会への申立てを口にすることがあります。公平交易法第20条は、競争を制限するおそれがある場合に、特定の事業を害する目的で他の事業に取引を断絶させる行為、正当な理由のない差別的取扱い、取引相手の事業活動を不当に制限する条件を付けた取引などを禁じています。第25条は、取引秩序に影響を及ぼすおそれのある欺罔または著しく不公平な行為を禁じます。
ただ、どちらも「競争を制限するおそれ」や「取引秩序への影響」が要件です。メーカーが契約に従って一つの代理店との取引を終え、別の代理店に切り替えるだけであれば、通常はここまで問題になりません。注意が必要なのは、新しい代理店と組んで旧代理店への供給を周囲にも止めさせるような場合や、終了の条件が市場全体の取引慣行から見て著しく不公平と評価されるような場合です。
準拠法と紛争解決の条項
日本企業と台湾企業の契約で、準拠法の条項がない場合は、台湾の渉外民事法律適用法第20条が出発点になります。契約から生じる債権関係の成立と効力は当事者の意思で定めた法律に従い、明示の意思がなければ関係が最も密接な法律によります。契約の特徴となる債務を負う当事者の行為時の住所地法が、関係最切の法律と推定されます。販売代理店契約では、台湾で販売活動を行う代理店側の債務が特徴的と見られれば、台湾法が推定されることになります。日本法を選びたいなら、契約書に明記しておく必要があります。
紛争解決については、台湾の裁判所を合意で定めるなら書面が必要で(民事訴訟法第24条)、仲裁を選ぶなら仲裁合意も書面で行います(仲裁法第1条)。日本の裁判所を選んでも、相手の財産が台湾にあれば、最終的には台湾で判決の承認と執行を求める手続が必要になります。この点は外国判決の台湾での執行の記事をご覧ください。
これから契約するなら書いておくこと
これから台湾の代理店と契約する、あるいは契約を更新する機会があるなら、今回の論点をそのまま条項に落とし込んでおくと、終了時の手間が大きく減ります。契約期間と更新の方法、終了の予告期間、解除・終止の事由、終了後の在庫の売り切り期間と返品条件、顧客情報と販促資料の返還、商標の帰属と代理店名義での出願の禁止、競業避止の範囲と期間、準拠法と紛争解決の方法です。
最初に拝見するのは、契約書の全文と更新の経緯、過去2年ほどの発注と支払いの記録、そして代理店とのやり取りのうち終了に触れたものです。相手が代辦商か経銷商かの見立て、予告期間の目安、催告と終止の文面の順序を整理したうえで、存證信函の中国語の文面を用意します。昊鼎國際法律事務所では、台湾側の代理店契約の終了と在庫・顧客の整理に関するご相談を受け付けています。初回相談は1時間NT$3,000で、オンラインでも受け付けています。ご連絡の際は、ご希望の言語をお知らせください。連絡先はwei@hoveringlaw.com.tw、所在地は103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2です。
参考にした公的資料
- 民法 第148条、第153条、第227条の2、第229条、第250条、第252条、第254条、第255条、第258条、第259条、第263条、第345条、第558条、第560条、第561条、第562条、第563条(全国法規資料庫、民国115年8月17日改正版。改正された第1223条は未施行で、本稿の条文には影響しません)
- 公平交易法 第20条、第25条
- 渉外民事法律適用法 第20条
- 民事訴訟法 第24条、仲裁法 第1条
- 郵件處理規則 第28条、第34条(民国111年5月27日改正版)
- 中華郵政 存證信函に関する案内
確認日:2026年10月7日(台湾時間)。条文は中国語の原文を基準にしています。本稿は一般的な情報であり、個別の事案についての法的助言ではありません。
よくある質問
- 契約書に期間も解約条項もありません。いつでも終了できますか。
- 相手が当社の名義で取引をまとめる代辦商に当たるなら、民法第561条により期限の定めがない契約はいつでも終了できますが、原則として3か月前に通知する必要があります。自分の名義で仕入れて売る経銷商との契約には同じ条文がなく、契約書と誠実信用の原則(第148条)で判断されるので、予告期間を置いて書面で通知するのが安全です。
- 代理店が代金を払わないまま新商品の出荷を求めています。契約を解除できますか。
- 支払期限が過ぎていれば、民法第254条により相当な期限を定めて支払いを催告し、その期限内に支払いがなければ解除できます。解除の意思表示は撤回できないため(第258条)、催告と解除の通知は内容を確かめてから存證信函で出し、到達の記録も残します。解除後は双方に原状回復の義務が生じます(第259条)。
- 終了後に代理店が在庫を売り続けたり、顧客リストを持ち去ったりするのを止められますか。
- 在庫の買戻しや販売停止、顧客情報の返還は、台湾の法律が自動的に定めるものではなく、契約書の条項が決め手になります。条項がない場合は、終了合意書で売り切り期間、返品価格、顧客データの扱いを取り決めるのが現実的です。相手が当社ブランドの商標を自分の名義で登録していないかも、終了前に確認してください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



