3月決算の日本の親会社が、台湾子会社から仕入れた部品の価格を問題にされ、2026年夏に移転価格課税の通知を受けました。対象は2025年3月期です。台湾子会社は、同じ取引の利益について台湾ですでに営利事業所得税を納めています(架空の例です)。
一つの利益に、日台の両方で税金がかかった状態です。台湾側の税金を減らす道はあるのでしょうか。日台民間租税取決めは、第9条第2項の対応的調整と、第24条の相互協議を用意しています。台湾での申立て先は財政部で、期限は最初の課税通知から3年です。
取決め第24条で申し立てられる人と期限
日台民間租税取決めは、2015年11月26日に公益財団法人交流協会と亜東関係協会が結んだ民間の取決めです。両団体は2017年に名称を改め、現在は日本台湾交流協会と台湾日本関係協会です。国税庁は、日本国が締結した条約・協定等の国際約束ではないと説明し、第24条の手続を「相互協議に相当する手続」と呼んでいます(国税庁の案内ページ)。
取決め第24条第1項によれば、一方または双方の領域の措置により取決めに適合しない課税を受けた、または受けることになると考える人は、国内法上の救済手段にかかわらず、自らが居住者である領域の権限のある当局に申し立てることができます。無差別取扱い(第23条第1項)の事案なら、国民である領域の当局にも申し立てられます。期限は、取決めに適合しない課税をもたらす措置の最初の通知から3年です。
台湾子会社なら台湾の財政部、日本の親会社なら日本側に申し立てます。日本側の手続について、国税庁は「日台民間租税取決め第24条(相互協議手続)の取扱い等について(事務運営指針)」で定め、「相互協議申立書(台湾用)」という様式も用意していると案内しています。
受け付けた当局は、申立てに理由があり、自らは適切な解決ができない場合に、相手側の当局との合意による解決に努めます(第24条第2項)。合意できれば、両領域の国内法の期間制限にかかわらず実施されます。仲裁の規定はありません。合意に至るかどうかは、両当局の協議次第です。
第9条第2項は「同意」を条件にしています
対応的調整の根拠は第9条第2項です。一方の領域が、他方の領域で課税済みの企業の利益を自らの企業の利益に含めて課税した場合を想定しています。その利益が独立企業間の条件なら自らの企業に帰属したはずの利益だと他方の領域が同意するとき、他方の領域はその利益に対する税額を適切に調整します。必要なら、両当局は第24条と第25条に従って協議します。
この「同意する」という文言は、台湾が韓国やベトナムと結んだ協定の第9条第2項には見当たりません。日台の取決めでは、日本で増額された利益が、独立企業間の条件なら日本の企業に帰属したはずの利益だと台湾側が同意することが、対応的調整の前提として条文に書かれています。
台湾の財政部への申立て
適用所得稅協定查核準則第41条は、申立ての手続を財政部が定めるとしています。それを受けたのが、財政部の適用所得稅協定相互協議程序作業要點(2018年6月25日公布、2020年11月25日改正。以下「作業要點」)です。
申立ての事由は九つです(第二點)。双方居住者の最終的な居住地の判定、恒久的施設の認定と利益の帰属、取決めの減免規定の適用、移転価格の対応的調整、二国間・多国間の事前確認(APA)などが並び、国内の行政救済を申し立てたかどうかを問いません。申立てができるのは台湾または相手側の居住者で、税目は所得税に限られます。取決めの適用開始日以後の税務案件であることも条件です(第四點)。日台民間租税取決めは2016年6月13日に発効し、2017年1月1日から適用されています(財政部の発表)。
申立書には、申立人の名称・統一編號・居住地、適用する取決め、課税通知、税目・課税年度・経緯・理由・主張を記載し、代理人に任せるなら委任状を付けます(第六點)。外国語の資料には中国語訳が必要です。財政部や管轄の国税局が中国語の抄訳や外国語版の提出を認めた場合は、この限りではありません。
第九點が扱うのは、日本での増額に合わせて台湾子会社の利益を減らしてほしいという申立てです。財政部は申立てを受けた日から10日以内に受付を確認し(第七點)、30日以内に要件を審査します。要件を満たせば管轄の国税局に送り、国税局は財政部の公文を受けた日から6か月以内に受理するかどうかを回答します。受理すれば、12か月以内に対応的調整の結果を決めます。
調整の全部または一部を国税局が認め、申立人が同意すれば、同意の日から90日以内に執行されます。国税局が受理しない、調整を認めない、あるいは一部しか認めない場合はどうでしょうか。申立人が異議を述べ、申立てを取り下げなければ、財政部は国税局の通知を受けた日から30日以内に日本側へ相互協議を求めます。両当局の合意で台湾側が実施すべき部分は、合意の日から90日以内に執行されます(第九點第四項、第十三點第二項)。
復査の30日と還付の10年
相互協議を申し立てても、台湾の復査の期限は止まるのでしょうか。稅捐稽徵法第35条は、納付すべき税額がある核定への復査を、納付書の送達後、納付期間満了の翌日から30日以内に申請するよう定めています。この条文に、相互協議を理由に期限を延ばす規定はありません。
配当やロイヤルティーが取決めの限度税率ではなく国内税率で源泉徴収された場合は、查核準則第34条の手続があります。所得者か源泉徴収義務者が、納付日から10年以内に証明書類と源泉徴収票(扣繳憑單)を添えて、源泉徴収の申告を受けた税務機関に取決めの適用を申請します。2025年4月8日の改正施行時に納付日から5年を過ぎていた税額には、改正前の規定が適用されます。書類の詳細は台湾の源泉徴収のコラムで扱いました。
両当局が交換する情報
取決め第25条は、取決めの実施や、あらゆる種類の租税に関する国内法の執行に関連すると予見される情報の交換を定めています。受け取った情報は、そこに定める目的にだけ使うことができ、租税に関する刑事事件には使えません(同条第2項)。台湾側では、2017年12月7日に発布された租稅協定稅務用途資訊交換作業辦法第2条が、個別の要請、自発的な提供、自動交換の方法を定めています。相互協議の中でやり取りした申立人の資料は、秘密として扱われます(作業要點第十二點)。
金融口座の情報は、日台間で自動交換の対象になっています。財政部の2021年4月16日の公告で、日本はオーストラリアとともに2019年度以後の口座情報の交換相手とされ、英国は2020年度以後です。財政部の2026年7月30日の発表によると、2025年度分として、日本の税務上の居住者が保有または支配する口座145,530件が台湾の金融機関から報告され、同年9月にオーストラリア・日本・英国と交換します。財政部は、交換で得たCRS情報を直接課税に使うのではなく、脱税リスクの評価と調査対象の選定に用いるとしています。
日本側の手続と残る確認
日本の親会社が日本で相互協議を申し立てる場合の手続や、台湾で納めた税額と外国税額控除との関係は、日本の税理士にご確認ください。台湾子会社の移転価格文書の基準額と期限は移転価格文書のコラムで整理しています。
課税通知を受けた日付と対象の事業年度を添えて、昊鼎国際法律事務所にメール(wei@hoveringlaw.com.tw)でお知らせいただければ、台湾側の申立て期限から確認します。
第九點の3年は、相手側の課税通知を最初に受けた日から数えます(作業要點第五點)。日本の親会社がその通知を受け取った日が、台湾での期限の起算日です。
参考にした公的資料
- 日台民間租税取決め 台湾財政部掲載の英文・中国語訳(第9条・第24条・第25条)、財政部所得税協定一覧(2026年9月4日更新)
- 財政部の発表日台租税協定の発効と適用開始(2016年6月15日)
- 国税庁日台民間租税取決めに定める相互協議手続について
- 財政部適用所得稅協定相互協議程序作業要點(2020年11月25日改正)
- 適用所得稅協定查核準則(2025年4月8日最終改正)第34条、第41条
- 稅捐稽徵法(2021年12月17日最終改正)第35条
- 租稅協定稅務用途資訊交換作業辦法(2017年12月7日発布)第2条
- 財政部金融口座情報の自動交換相手国の公告(2021年4月16日)、2025年度CRS申告統計の発表(2026年7月30日)
- 韓国・ベトナムとの協定の第9条第2項(比較用):財政部掲載の韓国(統合英文)、ベトナム(英文)
確認日:2026年10月6日
よくある質問
- 日本の親会社が移転価格課税を受けました。台湾子会社の側はいつまでに申し立てればよいですか?
- 日台民間租税取決め第24条第1項と台湾財政部の相互協議作業要點第五點により、相手側(日本)の課税通知を最初に受けた日から3年以内に、台湾の財政部へ申し立てます。管轄の国税局は財政部の公文を受けた日から6か月以内に受理するかどうかを回答し、受理すれば12か月以内に対応的調整の結果を決めます。
- 相互協議で合意できなかったら、仲裁に進めますか?
- 日台民間租税取決めには仲裁の規定がありません。第24条第2項は、双方の権限のある当局が合意による解決に努めると定めています。合意に達した場合は、日台それぞれの国内法の期間制限にかかわらず実施されます。
- 台湾は日本と金融口座の情報を自動的に交換していますか?
- 台湾財政部の2021年4月16日の公告で、日本は2019年度以後の金融口座情報を自動交換する相手に指定されています。財政部は2026年7月30日、同年9月にオーストラリア・日本・英国とCRS情報を交換すると発表しました。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



