「各處」。台湾の公司法第20条第5項が過料を定める一文には、この言葉が入っています。会社に一つではなく、責任者一人ひとりに科すという意味です。日本の本社から董事を3人出している子会社なら、3人ともが対象になり得ます。誰に責任があるかは一人ずつ判断され、故意も過失もない違反は処罰されません(行政罰法第7条)。
責任者ごとの過料
財務諸表の承認や会計師監査の規定に違反すると、責任者ごとに1万~5万台湾ドルです。主管機関の調査を避け、妨げ、拒み、または期限までに申告しなければ、2万~10万台湾ドルになります(公司法第20条第5項)。
有限公司と股份有限公司の責任者は董事です。経理人や監察人も、職務の範囲内では責任者に当たります(第8条第1項、第2項)。日本在住の董事も例外ではありません。業務や財務の検査、資料の提出を拒めば2万~10万台湾ドル、拒み続ければ回ごとに4万~20万台湾ドルです(第21条第2項、第22条第2項)。
商業会計法の過料は別です。金額も大きくなります。決算は会計年度の終了後2か月以内に終え、必要なら2か月半延長できます(第65条)。期限内に決算を終えなければ、代表者、経理人、会計の担当者に6万~30万台湾ドルです(第76条第4号)。6か月以内に株主の承認を求めなければ1万~5万台湾ドルです(第79条第5号、第68条第1項)。
休眠中の子会社でも義務は続く
休眠状態の子会社はどうでしょうか。2015年8月の臺北地方法院の事件では、払込資本金が3,000万台湾ドル以上の会社が、経済部から2012年度の決算書類の提出を期限付きで求められました。会計師の監査報告書は出せず、経済部は董事3人にそれぞれ1万台湾ドルの過料を科しました。
董事側は法廷で、会社は2004年以降、営業も会計師への依頼もしていないと述べています。裁判所は、設立から清算が終わるまで帳簿をつけて決算し、財務諸表を作り、基準に当たれば監査を経て承認を受けるのは責任者の義務で、営業していないことでは免れないと判断しました。
知らなかったという主張も通りませんでした。行政罰法第8条は、法規を知らなかったことで処罰を免れないとしつつ、事情によって軽減や免除ができるとしています。裁判所は、資本総額2億台湾ドル規模の会社で以前は監査も受けていた以上、軽くする事情はないとしました。第一審判決で、送達後20日以内の上訴が可能とされていました(104年度簡字第101號)。
監査が必要になる線は日本と違う
日本の会社法では、会計監査人を置く義務は大会社などにかかります。大会社とは、最終事業年度の貸借対照表で資本金5億円以上、または負債の合計額200億円以上の株式会社です(会社法第2条第6号、第328条)。台湾では負債の額を見ません。資本金に加えて、営業収入純額と労工保険の加入者数で対象が決まります。
経済部の2018年11月8日付公告(經商字第10702425340號)は、決算日の払込資本金が3,000万台湾ドル以上の会社に、財務諸表の会計師監査を求めています。それ未満でも、営業収入純額が1億台湾ドル、または労工保険に加入する従業員が100人に達すれば対象です。2019会計年度から適用され、公開発行会社は証券当局の別の定めがあればそちらに従います(行政院公報)。
経済部はどうやって決算書類を見るのか
公司法第20条第4項により、主管機関は決算書類をいつでも調べ、期限を決めて申告させることもできます。手続を定めたのが経済部の公司決算書表申報暨查核辦法です。
会社は、承認を受けた営業報告書、財務諸表、利益配当または欠損填補の議案を本店に備え置きます(第2条、第3条)。申告は会計師や弁護士に任せられます。監査を担当した会計師も、主管機関の定める期限内に、その年の監査案件の一覧を申告します(第4条第2項)。主管機関は証拠書類や帳票の提出と説明を求め(第9条)、会計師の監査調書も閲覧できます(第10条)。規定に合わない点が見つかれば、主管機関は直ちに法に従って処理しなければならず、期限を決めて会社に申復(説明)を求めることもできます(第11条)。
名義だけの董事と送達:2021年の事件
登記上の董事2人が、2016年度の財務諸表の監査漏れでそれぞれ1万台湾ドルの過料を科された事件です。2人は名義を使われただけだと争いました。臺北地方法院は2021年、実際には住んでいない戸籍上の住所への処分書の送達は適法でないとして、期間経過を理由に訴願を受理しなかった決定を取り消しました。過料そのものの当否には踏み込んでいません(110年度簡更一字第7號)。
不服があれば、処分書の到達の翌日から30日以内に訴願を起こします(訴願法第14条)。日本にいる董事にとっては、処分書がどこに届くかが期限の起点にかかわります。50万台湾ドル以下の過料をめぐる行政訴訟は、現在、高等行政法院の地方行政訴訟庭が第一審です(行政訴訟法第3条の1、第229条)。
承認の効果と、初めての監査
株主総会が決算書類を承認すると、董事と監察人が会社に対して負う責任を、会社が解除したものとみなされます。不法行為があれば別です(公司法第231条)。監査対象の会社では、その承認の前に監査が要ります。会計師の選任・解任と報酬は、股份有限公司なら董事会の決議、有限公司なら全株主の議決権の過半数の同意で決めます。定款にもっと高い基準があればそれに従います(第20条第3項、第29条第1項)。
休眠後に監査を再開し、会計師にとって初めての受託になるなら、監査基準510号に従い期首残高の必要な手続を行います(経済部會計師查核簽證財務報表規則第7条)。期首残高は前年度末の数字です。前の年の帳簿も見られます。
支店(分公司)には公司法第377条で第20条第1項から第4項が準用されます。基準の詳細や法人税の会計師査核簽証との違いは台湾子会社の財務諸表監査と法人税の会計師査核簽証で扱いました。董事会や株主総会の手続、過料への不服申立てについては、昊鼎国際法律事務所(wei@hoveringlaw.com.tw)にご相談いただけます。台中事務所の所在地は40453 臺中市北區館前路19號6樓之1です。
参考にした公的資料
確認日:2026年10月21日
- 台湾公司法(2025年12月26日最終改正)第8条、第20条、第21条、第22条、第29条、第231条、第377条。
- 経済部公司決算書表申報暨查核辦法(2018年11月8日改正、2018年11月1日施行)第2条~第4条、第9条~第11条。
- 経済部會計師查核簽證財務報表規則(2022年12月27日最終改正)第7条。
- 経済部2018年11月8日公告 經商字第10702425340號「公司法第二十條第二項之公司資本額一定數額及一定規模」、行政院公報第24巻第213期。
- 商業會計法 第65条、第68条、第76条、第79条。
- 行政罰法第7条、第8条、訴願法第14条、行政訴訟法第3条の1、第229条。
- 日本会社法(平成17年法律第86号)第2条第6号、第328条(e-Gov法令検索)。
- 司法院裁判書検索システム:臺灣臺北地方法院行政訴訟判決104年度簡字第101號(2015年8月19日、第一審)、110年度簡更一字第7號(2021年5月7日、差戻し後の第一審。当時、送達後20日以内に法令違反を理由とする上訴が可能)。
よくある質問
- 監査が必要なのに会計師監査を受けずに財務諸表を承認した場合、誰に過料が科されますか。
- 公司法第20条第5項は、会社の責任者(公司負責人)に「各」1万~5万台湾ドルの過料を定めています。有限公司と股份有限公司の責任者は董事で、職務の範囲内では経理人や監察人なども含まれます(第8条)。責任は一人ずつ判断され、故意も過失もなければ処罰されません(行政罰法第7条)。2015年の臺北地方法院判決では、董事3人がそれぞれ1万台湾ドルを科され、裁判所は処分を維持しました。
- 台湾子会社が事実上休眠していても、監査は必要ですか。
- 2015年の臺北地方法院判決(104年度簡字第101號)は、会社は設立から清算が終わるまで帳簿を備えて決算をし、基準に当たれば会計師監査を経て承認を受ける義務があり、実際に営業していないことを理由に免れない、と判断しました。第一審判決で、上訴が可能でした。基準そのものは、決算日の払込資本金、営業収入純額、労工保険の加入者数で決まります。
- 経済部から決算書類の提出を求められたら、どうなりますか。
- 公司決算書表申報暨查核辦法第3条により、会社は承認済みの決算書類を本店に備え置き、主管機関はいつでも調査したり期限を決めて提出させたりできます。会計師や弁護士に申告を任せることもできます。調査を避け、妨げ、拒み、または期限までに提出しなければ、責任者それぞれに2万~10万台湾ドルの過料が科され得ます(公司法第20条第5項)。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。


