夕暮れの窓辺の机に、無地のカードと閉じた手帳、画面を伏せたスマートフォン。
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台湾で渡した口座に詐欺の被害金が入ったら、名義人も賠償しなければならないのか

約8分

架空の情景です。実在の口座や事件の当事者を撮影したものではありません。

マレーシアから台湾の科技大学に留学していた学生は、2022年3月、郵便局のキャッシュカードをコンビニから送りました。自宅でできる梱包の内職に応募したところ、「会社」から、材料を本人名義で買うのでカードと暗証番号が必要で、口座にお金は入っていなくてよいと言われたのです。同じ月の29日の夜、留学生の知らない人がこの口座に3回送金しました。その後、数分間にわたって出金が続きました。検察は留学生を不起訴にしました(判決)。

それでも、賠償の請求は届きました。被害者は、ある刑事事件の第二審の手続で附帯民事訴訟を起こし、引き出し役などと並べて留学生にも、50万台湾ドルを連帯して支払うよう求めたのです(台南分院の判決)。

口座を渡しただけで、誰もだましていませんし、起訴もされていません。それでも被害者に賠償しなければならないのでしょうか?2024年から2025年の判決4件を読むと、答えは一つではありません。分かれ目は、名義人自身の事情でした。

不起訴と民事責任はどこで分かれるか

民法第184条第1項前段は、故意または過失によって他人の権利を不法に侵害した者に損害賠償責任を負わせています。口座の名義人は自分でだましたわけではないので、被害者は第185条をあわせて主張します。同条第1項は数人が共同して他人の権利を不法に侵害したときは連帯して賠償すると定め、第2項は教唆した者と幇助した者(幫助人)を共同行為者とみなします。連帯責任になると、被害者は責任を負う人のうち一人、数人または全員に対し、同時にまたは順次に、全部または一部の支払いを請求できます(第273条第1項)。

もっとも、幇助者として扱われるには、その人自身に故意または過失があり、その行為と結果との間に相当因果関係があることが必要です。新北地方法院の控訴審はそう整理したうえで、不法行為の過失は善良な管理者の注意を怠ったかどうかで判断し、抽象的軽過失があれば成立すると述べました(2025年5月20日判決)。その事件の不起訴も故意がないという判断でしたが、裁判所は、根拠となった会話記録は故意がなかったことを示すだけで、過失がないとまではいえないとしました。

立証するのは被害者の側です。台湾高等法院台南分院は、不法行為の成立要件は賠償を求める側が立証しなければならないと述べています(判決)。

請求が刑事手続から来ることもあります。刑事訴訟法第487条第1項は、犯罪によって損害を受けた者が、刑事訴訟の手続の中で、被告人と民法上賠償責任を負う者に対して附帯民事訴訟を起こせると定めています。留学生は刑事手続で共同不法行為者と認定された人ではなかったため、留学生に対する請求はこの要件を満たしていませんでした。事件が民事部に移されたあと、被害者が裁判費用を納めて、その不備を補っています(台南分院判決)。

口座を貸したことの刑事責任や帰国・居留への影響は口座を貸した日本人の刑事責任で、口座の凍結は「警示帳戶」になった口座で取り上げています。

同じ不起訴でも、民事の結論は分かれた

2024年5月29日、台湾高等法院台南分院は留学生に対する請求を棄却しました(112年度金簡易字第108号判決)。裁判所は「会社」とのチャットのやり取りを確かめ、留学生も仕事探しの心理を利用された被害者だとして故意を否定しています。過失についての判断は具体的です。来台から2年余りたっていたものの、留学生はまだ社会に出て働く立場ではなく、生活の中心は大学だったため、社会経験も判断力も限られていました。外国人であるため、台湾の法律や社会の実情、求職の落とし穴、詐欺の手口もよく知りませんでした。裁判所はこうした事情から、台湾の一般的な成人と同じカード管理上の注意義務を課すことはできず、過失もないと結論づけました。留学生は、だまされたと気づいたあと警察に届け出て通話記録も渡したと述べていました。

正反対の結論を出したのが、地方法院の第二審にあたる新北地方法院控訴審の2025年5月20日判決です(113年度簡上字第499号)。名義人は、出会い系アプリで知り合った外国人の女性と半年ほど連絡を取っていましたが、会ったことはありませんでした。ウクライナに派遣された軍人で給与を受け取る口座が必要だという話を信じ、2020年9月に新しく開いた口座のカードを郵送し、暗証番号とネットバンキングの情報もアプリで伝えています。検察は、ほかの被害者の件で名義人を不起訴にしました。第一審も名義人の言い分を認めていました。

控訴審は判断を覆します。名義人は修士号を持ち、物流の仕事や起業の経験もありました。合理的な確認をしないまま、あるいは正当な理由なく口座を他人に渡すべきではないことは、政府や報道機関が広く呼びかけていました。そもそも、ヨーロッパの軍人の給与を台湾ドルの普通預金口座で受け取るという説明からして不自然です。相手の身元も使い道も確かめず、渡したあともカードを取り戻したり紛失届を出したりしませんでした。裁判所は10万台湾ドルと利息の支払いを命じています。

台北地方法院の控訴審(これも地方法院の第二審)は、2025年7月2日、口座を渡した人に賠償責任を認めませんでした(114年度簡上字第137号判決)。父親名義で住宅ローンのために開かれた口座を管理していた人が、ネットで知り合った相手にネットバンキングのIDとパスワードを渡した事件です。相手は、息子が病気でタイの事業が苦しく、従業員の給与を払う手助けが必要だと話していました。この人は早い段階で詐欺ではないかと不安を口にし、警察から事情を聴かれたあとは、お金の出どころを何度も問いただしています。裁判所は、口座の情報を渡せば他人に財産上の損害が生じうることをこの人が知り、または知り得たことを、被害者が立証しなければならないとしました。信頼関係から無償で貸したもので、本人もだまされていました。故意も過失も、立証されなかったのです。

三人とも不起訴でした。裁判所が見たのは、年齢、学歴と職歴、台湾で過ごした期間と環境、頼みごとのもっともらしさ、何を確かめたか、おかしいと感じたときにどう動いたか、という一人ひとりの事情です。外国人であることを考慮したのは、4件のうち台南分院だけで、それも学生生活の環境とあわせての判断でした。日本人の留学生やワーキングホリデーの人も同じ扱いになるとは限りません。チャットの記録も、台北の事件では疑って問いただした跡になり、新北の事件では確認しなかった証拠になりました。

自分の口座に入った額を超えて責任を負うのか

同じ事件のほかの被告について、台南分院は2024年6月26日に別の判決を出しています(判決)。別の銀行口座を提供した成人の名義人は、この件で資金洗浄の幇助罪の有罪が確定していました。詐欺の前科があり、口座が手元を離れた経緯についての説明も二転三転していました。裁判所は未必の故意を認め、民法第185条第2項により共同行為者とみなして、引き出し役と連帯して賠償するよう命じました。範囲は限られています。その名義人の口座に振り込まれた28,985台湾ドルの部分だけです。留学生の口座に入った149,967台湾ドルについては、知って手助けした証拠がないとして責任を否定しました。被害額の全体は引き出し役が負い、慰謝料の請求は退けられています。

不当利得として返還を求められた場合

被害者が、不法行為とあわせて不当利得の返還を求めることもあります。台北の事件がそうでした。民法第182条第1項は、法律上の原因がないことを知らずに受け取った人は、受けた利益がすでに存在しないときは、返還や価額償還の責任を免れると定めています。受け取ったときに知っていたか、あとで知った場合は、第2項により、受け取ったときの利益か、知った時点で残っていた利益に利息を付けて返し、損害があれば賠償もしなければなりません。台北地方法院の控訴審は、口座を渡した人が詐欺を知らず、お金は振り込まれてすぐに引き出され、知った時点では残っていなかったとして、第1項を適用しました。

何年もたってから訴状が届いたとき

新北の事件では、送金が2020年10月、提訴が2024年でした。民法第197条第1項によると、損害賠償請求権は、被害者が損害と賠償義務者を知った時から2年間行使しないと消滅し、不法行為の時から10年を経過したときも同じです。新北の控訴審は「知った」を実際に知ったことと解しました。被害者は2021年、2022年にも荷物の行方を問い合わせ続けており、振込書類には英字の口座名しかありませんでした。警察が調べるまで被害者が賠償義務者を知っていたとはいいがたく、名義人もそれより前に知っていた証拠を出していません。時効の主張は退けられました。

台湾の弁護士に依頼できること

弁護士には、届いた訴状や移送された附帯民事訴訟の書類を読み、警察・検察の記録や不起訴処分書を取り寄せるところから依頼できます。求人広告、チャットの記録、配送の控え、銀行からの通知で当時何を知り、何をしたかを示して過失の有無を争い、実際に自分の口座に入った金額や民法第197条の時効を検討するのも弁護士の仕事です。被害者側との和解交渉、民事法院や附帯民事訴訟での代理、刑事事件が続いている場合の刑事弁護人との連携も任せられます。結果を約束できる人はいません。

昊鼎国際法律事務所では、メール(wei@hoveringlaw.com.tw)でご相談を受け付けています。事務所は台北市大同区承徳路一段35号7F-2にあります。届いた訴状、カードや情報を渡した日付、不起訴処分書があればその写しを添えてお送りください。

参考にした公的資料

確認日:2026年10月19日

よくある質問

検察で不起訴になれば、被害者からの民事請求も認められないのですか?
そうとは限りません。台湾の民法[第184条](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=184)第1項前段は、故意または過失によって他人の権利を不法に侵害した者に損害賠償責任を負わせています。新北地方法院の控訴審(地方法院の第二審)は[2025年5月20日の判決](https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=PCDV%2c113%2c%e7%b0%a1%e4%b8%8a%2c499%2c20250520%2c1)で、不起訴の根拠となった会話記録は故意がなかったことを示すにとどまり、過失がなかったことの証明にはならないとして、名義人に10万台湾ドルと利息の支払いを命じました。不起訴のあと民事でも責任が否定された[判決](https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=TNHV%2c112%2c%e9%87%91%e7%b0%a1%e6%98%93%2c108%2c20240529%2c2)もあり、結論は事案ごとの事実関係によって分かれます。
自分の口座に入った金額より多い額を請求されています。全額を払うことになりますか?
台湾高等法院台南分院の[2024年6月26日の判決](https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=TNHV%2c112%2c%e9%87%91%e7%b0%a1%e6%98%93%2c108%2c20240626%2c3)は、未必の故意で口座を提供したと認めた名義人についても、その名義人の口座に振り込まれた28,985台湾ドルの部分に限って引き出し役との連帯責任を認めました。別の人の口座に入ったお金については、知って手助けした証拠がないとして責任を否定しています。その事件の事実関係に基づく判断であり、どの事件にもそのまま当てはまるとはいえません。
何年も前に渡した口座のことで、今になって訴えられることはありますか?
民法[第197条](https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=197)第1項により、損害賠償請求権は、被害者が損害と賠償義務者を知った時から2年間行使しないと消滅し、不法行為の時から10年を経過したときも同じです。[新北地方法院の控訴審](https://judgment.judicial.gov.tw/FJUD/data.aspx?ty=JD&id=PCDV%2c113%2c%e7%b0%a1%e4%b8%8a%2c499%2c20250520%2c1)は「知った」を実際に知ったことと解し、被害者が警察に届け出た2022年10月20日より前に損害と名義人を知っていた証拠はないとして、時効の主張を退けました。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。