ニュースをきっかけに執筆した記事です。公開日以降に状況や法令が変わっている可能性があります。
日本で進む刑事手続きとは別に、台湾でも捜査や訴追ができる場合があります。台湾で、犯罪をさせるための勧誘や指示があれば、その関係者も捜査の対象になり得ます。被害者は告訴や損害賠償を検討できます。台湾で刑事手続きが行われる場合には、家族が弁護人を選任できる制度もあります。
BSS山陰放送の9月28日の報道によると、米子警察署は住所不定・職業不詳の台湾国籍の男(24)を詐欺の疑いで逮捕しました。氏名不詳の共犯者らが8月上旬から25日にかけて福岡県の80代男性に警察官を装って電話をかけ、現金を消火栓の下に置くよう指示し、1,120万円が持ち去られたとされています。
BSSによれば、男は同じ8月、鳥取県米子市の80代男性から1,350万円をだまし取ろうとした別件の容疑でも逮捕されていました。米子市の男性が8月27日に警察へ通報し、翌8月28日に男が現行犯逮捕されたという経緯です。福岡県の事件は、この捜査で判明したといいます。共謀事件のため、認否は明らかにされていません。日本海新聞も同日、別の詐欺未遂容疑で逮捕されていた台湾籍の20代男性を、福岡の被害1,120万円の件で米子署が再逮捕したと伝えています。
いずれの報道にも、男の氏名、求人広告で集められたのかどうか、台湾に財産があるかどうかは書かれていません。
「海外高収入バイト」の勧誘と台湾法
「海外で簡単な用事をするだけで高収入」という勧誘は、法律上の問題になることがあります。今回報じられた男性が日本にいた経緯は分かりませんが、勧誘と詐欺とでは、当たる条文が違います。
「海外高収入バイト」は、詐欺犯罪危害防制條例にある罪名ではありません。第2条が定義する詐欺犯罪は、刑法第339条の4の罪、同条例第43条・第44条の罪と、これらの罪と併せて判断される罪です。
刑法第339条の4は、政府機関や公務員を装う詐欺、3人以上で行う詐欺、放送・電子通信・インターネットなどを通じて公衆に広める詐欺、合成した虚偽の画像・音声・記録を使う詐欺について、通常の詐欺より重い1年以上7年以下の有期懲役を定めています。100万台湾ドル以下の罰金も併せて科すことができ、未遂も処罰されます。報道された行為が立証されれば、警察官を装う類型が問題になります。「氏名不詳の者ら」とあるだけでは、「3人以上」だったとは判断できません。
財物または財産上の利益が100万台湾ドル、1,000万台湾ドル、1億台湾ドルに達する場合には、同条例第43条によって刑がさらに重くなります。円で報じられた被害額は台湾ドルに換算していないため、本件に第43条が当てはまるかどうかは断定できません。
勧誘については、組織犯罪防制條例の規定が関わります。第2条の「犯罪組織」とは、3人以上で構成される構造的な組織で、継続性または営利性があり、暴行・脅迫・詐欺・恐喝を手段とするもの、または最高刑が5年を超える罪を犯すものを指します。その場限りで犯罪のために集まった集団は、ここでいう犯罪組織には当たりません。名称や固定の場所は要件ではありません。
犯罪組織への勧誘には、第4条により6か月以上5年以下の懲役が定められ、1,000万台湾ドル以下の罰金を併せて科すことができます。勧誘した相手を中華民国の領域外に出して犯罪をさせる意図があった場合は、1年以上7年以下の懲役となり、2,000万台湾ドル以下の罰金を併せて科すことができます。未遂も処罰の対象です。求人広告を出したという事実だけで、直ちにこの罪が成立するわけではありません。
行政面では、詐欺犯罪危害防制條例の第3条が内政部を中央主管機関と定めています。第51条は、24時間の通報窓口、オンライン通報プラットフォームまたは通報専用電話、相談と関係機関への紹介を求めています。同条例の第39条と第40条には、施行日がまだ定められていない部分があります。
第44条が対象とするのは、台湾国外から詐欺用の設備を使い、台湾国内の人に対して行う3人以上の加重詐欺です。この場合、刑を2分の1加重します。今回報じられた被害者は福岡県の方でした。
国外の犯行にも台湾法が及ぶ場合
台湾の領域内で起きた犯罪には、刑法第3条により台湾の刑法が適用されます。行為または結果の一方が領域内にあれば、領域内の犯罪とみなすのが第4条です。台湾で勧誘・指示・金銭の受取りがあったなら、電話を受けた場所が日本でも、台湾で扱える事件になり得ます。
すべての行為が国外で行われた場合にも、台湾法が及ぶ罪があります。第5条は、誰に対しても適用される罪を列挙しています。その第11号が第339条の4です。一方、第339条の通常の詐欺は、ここには含まれていません。通常の詐欺の刑は、5年以下の懲役、拘留、または50万台湾ドル以下の罰金です。罰金は、単独でも懲役と併せても科されます。
第7条は、台湾国民が国外で前2条以外の罪を犯した場合について、法定刑の下限が3年以上で、行為地でも処罰される場合に限ると定めています。第339条の4は下限が1年で、すでに第5条に含まれているため、第7条に基づいて適用されるわけではありません。第11条は、特別の定めがなければ、この総則を他の刑事法規にも適用すると定めています。
第9条によれば、外国の裁判があっても台湾での訴追は妨げられません。外国ですでに刑の全部または一部が執行されていれば、台湾での刑の執行を全部または一部免除できます。
被害者の告訴、損害賠償請求と仮差押え
被害者は告訴でき(刑事訴訟法第232条)、犯罪の疑いを知った人は誰でも告発できます(第240条)。どちらも検察官または司法警察官に対して、書面または口頭で行えます。口頭の場合は調書が作られます(第242条)。刑法第339条と第339条の4の罪は、告訴がなくても訴追できます。
届出の際には、日本の事件番号と警察署名、簡単な時系列、台湾の人物や口座が分かる資料が役立ちます。届出が必ず事件として扱われるとは限らず、台湾の検察官が判断します。
損害賠償については、民法第184条が、故意・過失による権利侵害、故意に善良の風俗に反する方法で加えた損害、他人を保護する法令への違反による損害について定めています。過失がないことを行為者が証明するただし書は、保護法令違反を定めた第2項の規定です。請求には、被告を特定し、請求の根拠を立証する必要があります。
訴えを起こす裁判所は、原則として被告の住所地を管轄する裁判所です。民事訴訟法第1条によれば、台湾に住所がないか、住所が不明な場合は居所、それもなければ最後の住所によります。BSSの報道では男は住所不定とされ、台湾に戸籍があるかどうかも書かれていません。第15条によって行為地の裁判所にも訴えを起こせますが、報じられた電話や現金の受渡しは日本での出来事です。それだけで台湾の裁判所が審理できるとは限りません。
金銭の支払いを求め、対象となる財産を示せる場合には、民事訴訟法第522条に基づいて仮差押えを申し立てられます。第523条が求めるのは、後の執行が不能または著しく困難になるおそれです。執行を外国で行わなければならないときは、この「著しく困難」に当たります。
詐欺犯罪危害防制條例第54条は、詐欺犯罪の被害者について、訴訟費用と執行費用を一時的に免除し、担保の額を請求額の10分の1以内に抑えています。利用できるのは第2条で定義する詐欺犯罪の被害者であり、日本で被害に遭った人すべてが対象になるわけではありません。
また、第48条は、詐欺に使われた財物を所有者を問わず没収すると定めています。他の違法行為による財産と認められる場合には、行為者の管理下にあるその他の財産も没収できるとしています。ただし、没収は被害者への支払いではありません。
日本で得た確定判決に基づき、台湾の財産に対して強制執行するには、別の手続きが必要です。詳しくは、外国の確定判決で台湾の財産を差し押さえるにはにまとめています。
台湾にいる家族にできること
台湾で刑事手続きが行われる場合、一定の親族などは、拘束中の本人が委任状に署名するのを待たずに台湾側の弁護人を選任できます。刑事訴訟法第27条は、被疑者の法定代理人、配偶者、直系血族、3親等内の傍系血族、家長・家族が、それぞれ独立して弁護人を選任できると定めています。日本の事件での弁護人選任には、日本の手続きが適用されます。台湾側での具体的な進め方は、台湾の弁護士に海外から依頼するにはで説明しています。
台湾にいる人物が親族を勧誘したと家族が考えるなら、手元のメッセージや送金記録、実際に知っている人物の名前を添えて、第240条の告発を行えます。
刑の減軽や免除については、自首と自白で条件が異なります。詐欺犯罪危害防制條例第46条によれば、自首し、その日から6か月以内に、被害者との調停または和解で合意した全額を支払った場合、裁判所は刑を減軽または免除できます。その自首がきっかけで首謀者の摘発、または組織が被害者から得た財物・財産上の利益全部の差押えにつながれば、刑を免除できます。
第47条は、自白した場合の規定です。捜査とすべての審理で一貫して自白し、検察官への最初の自白の日から6か月以内に合意した金額の全額を支払うと、刑を減軽できます。この自白が首謀者の摘発、または組織が被害者から得た財物・財産上の利益全部の差押えにつながれば、減軽または免除できます。
いずれも要件を満たす必要があり、減軽や免除が確約されるわけではありません。他の被疑者に連絡したり、証拠をSNSに載せたりする前には、弁護人との相談が欠かせません。
昊鼎国際法律事務所への相談
昊鼎国際法律事務所(Hovering International Law Firm)では、日本の警察資料を読み、報じられた行為が刑法第339条の4や勧誘の罪に当たりうるかを説明します。資料による裏付けが得られた場合には、告訴のほか、仮差押えを含む保全の申立てを行います。
条文上の制度があっても、米子の事件でどの手続きが取れるかは個別の判断になります。報道だけで男の有罪・無罪は決められません。台湾で手続きをしても日本の事件は台湾へ移らず、訴追の開始も、1,120万円の返還を含む金銭の回収も保証されません。
台湾側での対応についてご相談の際は、初回のメールに日本の事件番号と警察署名、日付と金額、台湾の口座や人物の名前をお送りください。ご家族の場合は、ご本人の氏名・生年月日・戸籍上の住所、連絡してきた人物、分かれば収容先も添えてください。最初に利益相反の確認を行います。
ご相談は、弁護士の曾雋崴(女性)が担当します。連絡先はwei@hoveringlaw.com.tw、事務所の住所は103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2です。
参考資料
- BSS山陰放送、2026年9月28日:https://newsdig.tbs.co.jp/articles/bss/2972064?display=1
- 日本海新聞、2026年9月28日:https://www.nnn.co.jp/articles/-/805430
- 刑法第3条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=3
- 刑法第4条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=4
- 刑法第5条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=5
- 刑法第7条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=7
- 刑法第9条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=9
- 刑法第11条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=11
- 刑法第339条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=339
- 刑法第339条の4:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000001&flno=339-4
- 詐欺犯罪危害防制條例:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=D0080226
- 詐欺犯罪危害防制條例第2条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=2
- 詐欺犯罪危害防制條例第3条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=3
- 詐欺犯罪危害防制條例第43条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=43
- 詐欺犯罪危害防制條例第44条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=44
- 詐欺犯罪危害防制條例第46条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=46
- 詐欺犯罪危害防制條例第47条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=47
- 詐欺犯罪危害防制條例第48条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=48
- 詐欺犯罪危害防制條例第51条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=51
- 詐欺犯罪危害防制條例第54条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0080226&flno=54
- 組織犯罪防制條例第2条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000013&flno=2
- 組織犯罪防制條例第4条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0000013&flno=4
- 刑事訴訟法第27条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0010001&flno=27
- 刑事訴訟法第232条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0010001&flno=232
- 刑事訴訟法第240条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0010001&flno=240
- 刑事訴訟法第242条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=C0010001&flno=242
- 民法第184条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0000001&flno=184
- 民事訴訟法第1条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0010001&flno=1
- 民事訴訟法第15条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0010001&flno=15
- 民事訴訟法第522条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0010001&flno=522
- 民事訴訟法第523条:https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=B0010001&flno=523
確認日:2026年9月30日
よくある質問
- 日本で逮捕されても、台湾で訴追されることはありますか?
- あります。政府機関や公務員を装う詐欺を含む刑法第339条の4の加重詐欺は、刑法第5条に挙げられており、台湾国外の行為にも台湾法が適用されます。第9条によれば、外国で裁判が確定していても台湾での訴追は妨げられません。外国ですでに刑の全部または一部が執行されていれば、台湾での刑の執行を全部または一部免除できる場合があります。台湾で事件として扱うかどうかは、検察官の判断によります。
- 日本にいる被害者も、台湾で訴えを起こしたり、仮差押えを申し立てたりできますか?
- 台湾の裁判所が審理できる事件で、対象となる財産を特定できる場合に限られます。訴えは通常、被告の台湾の住所地を管轄する裁判所に起こします。金銭の支払いを求める場合、後の執行が不能または著しく困難になるおそれがあれば、仮差押えを申し立てられます。詐欺犯罪危害防制條例による訴訟費用の一時免除や担保の軽減を利用できるのは、同条例が定める詐欺犯罪の被害者です。日本で被害に遭った人すべてが対象になるわけではなく、被害金の回収も保証されません。
- 家族が「海外の高収入バイト」で出国しました。勧誘した人にも罪が成立しますか?
- 勧誘したというだけで有罪になるわけではありません。今回の報道には、この男性がどういう経緯で日本にいたのか書かれていません。台湾国外で犯罪をさせる目的で人を犯罪組織に勧誘する行為は、その集団が組織犯罪防制條例の「犯罪組織」に当たれば、第4条の犯罪が成立する可能性があります。家族が知っている事実を届け出ることはできますが、届出だけで有罪と決まるものではありません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



