例えば、日本に住んでいたお母さまが、台北に小さなマンションを1戸残して亡くなったとします。子どもたちはみな日本国籍で、台湾にはほとんど行ったこともありません。このとき最初にぶつかる疑問は、「誰が、どの国の法律に従ってこのマンションを引き継ぐのか」と「外国人の自分たちが台湾の不動産の名義を持てるのか」の二つでしょう。
誰が相続人になるかを決める法律と、不動産の名義を移す手続きは、別の問題です。前者は台湾の渉外民事法律適用法、後者は土地法と土地登記規則が扱います。そこに、登記の前提条件として相続税の整理が加わります。
相続債務を引き継いだ財産の範囲でだけ負う問題、3か月以内の相続放棄、6か月以内の相続税申告といった基本の手続きは、台湾の相続・子どもに関する分析で取り上げました。この記事では、相続人が外国人である場合に加わる点だけを整理します。
どの国の相続法が適用されますか?
台湾の渉外民事法律適用法第58条(涉外民事法律適用法)は、相続を「被相続人が死亡した時の本国法」によるとしています。亡くなった方が日本国籍のみであれば、台湾にあるマンションでも、原則として日本の相続法に従って相続人と相続分が決まります。
第58条には但書があります。台湾の法律上、台湾国民が相続人となる場合、その台湾国民は台湾にある遺産を相続できます。例えば、亡くなった方に台湾籍の配偶者や子がいるなら、本国法だけを見て相続人を決めてはいけません。
亡くなった方が複数の国籍を持っていた場合は、同法第2条により、最も関係が密接な国籍の法律を本国法とみなします。また第6条は、本国法を適用するときに、その本国法が当該法律関係を他の法律によって定めるとしている場合は、その他の法律を適用すると定めています。ただし、本国法またはその他の法律が中華民国法律を適用するとしているときは、中華民国法律を適用します。前段は他国法への指定、ただし書が台湾法への反致です。そのため、まず亡くなった方の国籍と、その国の法律の内容を確認するのが順序です。
日本側の相続の扱いや、日本国内で必要になる手続きは、この記事では断定しません。日本の相続法や日本国内の届出、税務については、日本の法務局・税務署・専門家など、日本側の窓口に確認してください。遺言がある場合は、その内容と、遺言で準拠法が指定されていないかも合わせて確認します。
外国人が相続できる土地に制限はありますか?
土地法第17条第1項は、山林、漁業用地、狩猟地、塩田、鉱業用地、水源地、要塞・軍備区域と国境地域の土地を、外国人に移転したり、担保などの負担を設定したり、賃貸したりすることを認めていません。第2項は、相続で取得する場合をこの禁止から除いています。ただし、相続登記を終えた日から3年以内に台湾国民へ売却する必要があり、期限内に売却しないと、管轄の地政(土地行政)機関が国有財産の管理機関に移送し、公開入札で処分されます。都市部の一般的な住宅であれば通常は該当しませんが、地方の土地や山林が含まれている場合は、まず第17条第1項の土地に当たるかどうかを不動産所在地の地政事務所に確認します。
土地法第18条は相互主義を定めています。外国人は、条約またはその国の法律により、台湾国民がその国で同じ権利を享受できる場合に限り、台湾で土地の権利を取得できます。花蓮県鳳林地政事務所(鳳林地政事務所)の地政Q&Aは、台湾の不動産を相続する場合にもこの相互主義が適用されると案内し、該当するかどうかは内政部地政司が公開する「外国人の土地権利取得に関する相互主義国家一覧」で確認するよう述べています。国ごとの条件は一覧が変わることがあるため、登記の前に最新版で確認してください。
相続登記の前に相続税を整理する必要がありますか?
必要です。遺産及び贈与税法第8条は、相続税を完納する前は、遺産の分割、遺贈の履行(交付遺贈)、移転登記ができないと定めています。例外は、税務署が発行した移転同意の証明書、免税証明書、遺産総額不算入の証明書がある場合です。同法第42条は、地政機関が移転登記をするときにこうした証明書の副本を受け取るよう定め、提出できなければ登記をしないとしています。
亡くなった方が外国人のとき、台湾の相続税がどこまで及ぶのか、どこにいつ申告するのかは、外国人被相続人の台湾相続税で別に説明しています。登記の面で覚えておく点は、税の整理が終わってはじめて名義を移せる、ということです。
土地登記規則第119条は、相続登記の書類として、死亡の事実が記載された戸籍謄本、相続人の現在の戸籍謄本、相続系統表(繼承系統表)、相続税の納付(免除)証明書、相続放棄があれば裁判所の受理証明などを挙げています。外国人の相続人は台湾に戸籍がないため、身分と親族関係を示す外国の書類で代えることになります。どの書類をどの形式で受け付けるかは、不動産所在地の地政事務所(日本の法務局にあたる窓口)に事前に確認するのがよいでしょう。同規則第33条と土地法第73条は、相続登記の申請期間を相続開始の日から6か月と定めており、土地法第73条は、この期間を過ぎると登記費用の倍数で計算した過料を科すことがあるとしています。相続税の手続きと登記の日程をあわせて組む必要があるのはこのためです。
相続人の一部が共同で申請できない事情がある場合は、土地登記規則第120条により、一人が相続人全員のために共有(公同共有)としてまず登記することもできます。
日本で書類を準備するときは何に気をつければよいですか?
日本に住む相続人が、台湾へ行かずに代理人へ登記を任せることもできます。土地登記規則第41条第7号は、外国人が第三者に土地登記を委任し、その委任状が台湾の在外公館の認証を受けている場合は、本人が直接出向かなくてもよいと定めています。在外公館による文書認証の手続きは、外交部及び駐外館処文書証明条例(外交部及駐外館處文件證明條例)が定めています。
海外で作成した書類は、原則として作成地を管轄する台湾の在外窓口(日本なら台北駐日経済文化代表処など)に文書認証を申請します(文書証明条例第10条)。ただし重複認証を免除する協定がある場合は、相手国政府が指定した機関の認証が在外窓口の認証と同じ効力を持つことがあります(第15条の1)。この記事が引用した資料には、アポスティーユがこの認証に代わるとは書かれていません。戸籍関係の書類や委任状にどの認証が必要かは、管轄の窓口と不動産所在地の地政事務所に事前に確認してください。中国語訳が必要か、訳文を誰の認証で整えるかも、地政事務所と税務署が求める内容に合わせます。書類を一度で整えるには、台湾側の要件を先に確認してから、日本で発行を受ける順序が効率的です。なお、日本国内での書類の取得方法や、日本側で必要になる手続きは、日本の関係機関に確認してください。
ご相談窓口
昊鼎国際法律事務所の弁護士・曾雋崴にご連絡いただく際は、亡くなった方の国籍と死亡日、相続人の国籍と居住地、台湾の不動産の住所または地番、遺言の有無、相続税の申告を始めているかどうかを簡単に書いてお送りください。戸籍関係の書類や登記簿謄本などの機微な資料は、事務所が案内する方法でお送りいただきます。この記事は一般的な説明であり、個別の事案の結論は実際の書類を見て判断する必要があります。
メール:wei@hoveringlaw.com.tw・住所:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2
参照した公式資料
- 渉外民事法律適用法 第2条、第6条、第58条
- 土地法 第17条、第18条、第73条
- 遺産及び贈与税法 第8条、第42条
- 土地登記規則 第33条、第41条、第119条、第120条
- 外交部及び駐外館処文書証明条例、第10条、第15条の1
- 花蓮県鳳林地政事務所 地政Q&A
確認日:2026年9月29日
よくある質問
- 日本国籍の父が台湾にマンションを残して亡くなりました。相続は台湾の民法に従いますか?
- 台湾の渉外民事法律適用法第58条は、相続を被相続人が死亡した時の本国法によるとしています。父が日本国籍のみであれば、原則として日本の相続法が基準になります。ただし、台湾の法律上相続人となる台湾国民は台湾にある遺産を相続できるという但書があるため、相続人の中に台湾国民がいないかも合わせて確認します。
- 外国人でも台湾の土地を相続できますか?
- 相続によっても土地の権利を取得できますが、制限が二つあります。土地法第18条の相互主義により、相続人の国が台湾国民に同じ権利を認めている必要があります。また、山林や漁業用地など第17条第1項に列挙された土地であれば、相続登記を終えた日から3年以内に台湾国民へ売却しなければなりません。
- 相続登記の前に相続税を整理する必要がありますか?
- 必要です。遺産及び贈与税法第8条と第42条により、相続税を完納した証明、または免税・不算入の証明などがなければ、地政機関は移転登記を行いません。土地登記規則第119条も、相続登記の書類に相続税の納付(免除)証明書を挙げています。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



