台湾で販売した家庭用電気ケトルについて、使用中に台座が溶けたとの連絡を受けたら、日本の工場の調査結果を待つ間にも、台湾側で確認することがあります。誰が事故を知り、同じ製品がどこに何台あるのか。使用を続ける危険がないか。これらを確かめる作業と、メーカー・輸入者間の費用交渉は、並行して進める必要があります。
電気ケトルは、台湾の経済部標準検験局(BSMI)が検査対象としている商品です。BSMIは2026年3月の市販ケトルの検査結果に関する公表でも、その対象であることを明示しています。ここでは日本で製造し、台湾の事業者が輸入・販売した一般家庭用の製品を想定します。食料品、医薬品、医療機器にはこの手順をそのまま当てはめられません。化粧品の輸入・販売にも、別の安全管理制度があります。
費用の承認を待ってよい場面か
台湾の消費者保護法第10条は、商品が消費者の安全・健康を害するおそれがあると認めるに足りる事実がある場合、事業者に直ちにその商品群を回収することを求めています。ただし、必要な処置によって危険を十分に除去できる場合は例外です。適切な警告や緊急対応方法が不足する場合にも、同条の規定があります(消費者保護法第10条)。
苦情が一件届けば、必ず全製品を回収するという意味ではありません。事故の内容、同じ構造や部品を使う範囲、使用条件、他の事故情報を集め、危険と対象範囲を判断します。ただ、法定の回収が必要な状況で、日台の会社間の費用負担が決まるまで対応を止めることはできません。
実施する措置に応じて、販売店への出荷停止の連絡、販売済み商品の購入者への案内、在庫の区分、返送・交換の方法などを決めます。消費者に危険な状態を再現してもらったり、損傷した電気製品を通常の荷物として直ちに送り返すよう求めたりせず、安全な保管・回収方法を関係者と確認します。危険を避けるための初動が、原因資料を失わせないようにする配慮も必要です。
日本メーカーに連絡を回す台湾の会社が、契約上「販売代理店」と呼ばれていても、実際の輸入者であれば、消費者保護法第9条により第7条の製造者責任を負います。流通業者については第8条の規律があり、輸入者とは責任の根拠が異なります。輸入申告、商品表示、仕入れ・販売契約を見て、誰がどの立場にいるかを確かめます(第7条から第9条)。
BSMIへの通報は、原因の確定を待つ手続ではない
検査対象商品の事故については、商品検験法と「應施檢驗商品發生事故通報辦法」による通報を確認します。対象となる事故には、燃焼・爆発・溶融によって消費者の生命、身体、健康、財産に被害が生じた場合や、その具体的な危険がある場合、使用によって死亡または入院治療を要する傷害が生じた場合があります。通常の動作不良の連絡が、すべてこの通報要件を満たすわけではありません。
通報義務を負うのは、商品検験法上の「報驗義務人」です。外国製品では原則として輸入者ですが、台湾の委託者の名義で輸入・販売する形態などには別の定めがあります。日本側の製造会社、台湾の輸入者、販売店のどこが手続を担うかを、契約上の呼称だけで決めないようにします(商品検験法第8条・第49条)。
通報対象の事故を知った報驗義務人は、知った日から3工作日以内にBSMIへ通報しなければなりません。これは暦日での「3日」ではなく、台湾の工作日による期限です。初回の内容には原因の初期的な見立ても含まれますが、最終鑑定が終わってから期限が始まる仕組みではありません(事故通報辦法第2条・第3条)。
そのため、いつ誰が事故を知ったかを記録し、台湾側から日本側への連絡にも同じ時系列を使います。工場への確認事項が残っているなら、その未確認事項と、今ある情報を分けて管理します。原因が未確定であることと、通報や安全措置の検討を進めることは両立します。
現物と流通記録を、後から結び付けられるようにする
事故品の写真だけでは、同じ型式の全製品に同じ原因があるかは分かりません。製造番号、ロット、購入・使用の時期、説明書、使用状況を、最初の申出と結び付けて残します。発熱や溶融の状態について、誰が直接見た情報なのか、伝聞なのかも分けます。
台湾側では、輸入した数量、倉庫や販売店に残る数量、販売済みの数量をたどります。日本側では、使った部品とその変更履歴、製造・検査の記録を調べます。同じ型式でも部品や製造時期が違うなら、その違いが回収範囲の判断に関わる可能性があります。BSMIの事故通報・処理手順も、製造関係、ロット、輸入・販売数量、流通経路などを確認資料に挙げています。
現物を試験する場合は、保管場所、受渡し、試験前の状態、分解や測定の内容を記録します。安全上必要な処置を妨げることなく、可能な範囲で処置前後の状態を残します。原因を確かめるために処分・分解した結果、相手方や保険会社が何も確認できなくなる事態は避けたいところです。
消費者への案内には、該当する型式や対象の見分け方、使用を控える必要がある場合の説明、回収等の方法と窓口を、実施内容に合わせて示します。通販の解約・返品一般は台湾向け越境ECの記事で扱っていますが、製品の安全上の回収は、購入者の都合による返品とは根拠が違います。
台湾側が立て替えた費用を、どう精算するか
消費者への対応で台湾側が先に費用を支払っても、その全額を当然に日本メーカーへ請求できるとは限りません。供給契約の品質保証・補償条項、回収時の協力義務、費用承認の手順、責任上限や除外条項を読み、事故原因と実際の支出に照らして検討します。日台企業間の契約にどの国の法が適用されるかも、先に確認する事項です。
台湾法上、債務者に帰責できる不完全な履行に基づく損害賠償などが問題になる場合には、請求根拠に応じて、原因・帰責性・損害を確かめます。台湾民法第216条は、法律や契約に別段の定めがない場合の損害と逸失利益を規定していますが、回収に関連する請求書があれば、すべて相手の負担になるという意味ではありません(民法第216条、第227条)。
実務上の精算資料では、回収の運送費、検査費、交換品、保管費、購入者への連絡費を分け、対象数量、実施理由、発注・支払先を対応させます。回収した全品の価格と、交換品の価格を重ねて計上していないかも確認します。販売店が求める営業損失や社内の人件費は、実費の領収書がある費用と同じ説明で済むとは限りません。
緊急の支出については、当面の支払担当、仮の負担額、追加支出の連絡先、最終精算で何を確認するかを、短い書面でも残せます。その合意が最終責任まで決めるのか、暫定の立替えにとどまるのかも明記します。検査不合格となった商品の保管、搬送、廃棄、改善等の処理費用を、生産工場または輸出入者の負担とする規定もあります(商品検験法第57条)。会社間の覚書だけで、この法定の負担まで変わるとは扱いません。
また、会社間で責任を分担する合意があっても、消費者や第三者に対する消費者保護法の安全・健康保護に関する規定に基づく損害賠償責任を、あらかじめ制限・免除することはできません(消費者保護法第10条の1)。
PL保険の補償と、回収費用は証券で確かめる
製造物責任保険に入っていても、回収費用まで補償されるとは限りません。台湾の金融監督管理委員会が公表する製品責任保険の約款例にも、製品自体や検査・修理・交換・回収費用を免責とする条項があります。これはすべての日本・台湾の保険契約が同じ内容だという意味ではなく、責任保険と回収費用の補償を同一視できない例です。
実際の証券と特約で、被保険者、対象地域、事故通知、保険会社への協力、回収費用の補償、自己負担を確認します。消費者保護上必要な措置を進めながら保険会社への連絡も行い、連絡日時と回答を費用の記録に添えます。
事故対応後の契約上の負担や台湾での損害賠償を相談する場合は、製品と事故の概要、台湾側の輸入主体、実施済みの措置、相手からの請求内容を相談窓口へお知らせください。技術的な原因調査は適切な専門家の確認を要し、法律上の責任・費用の整理とは役割が異なります。
参照した公的資料
- 台湾・全國法規資料庫:消費者保護法および沿革。安全、輸入者の責任、回収、事前免責の制限。
- 台湾・経済部:應施檢驗商品發生事故通報辦法および施行の沿革。通報の対象・期限・記録。
- 台湾・BSMI:事故通報・処理手順。事故・流通資料の確認等。
- 台湾・金融監督管理委員会:產品責任保險保單條款。実際の保険契約の確認が必要です。
法令確認日:2026年10月10日。本稿は一般家庭用の電気ケトルを例にした台湾法の一般情報です。特定製品の事故や回収を報じるものではありません。実際の製品区分、危険の有無、通報義務者、回収範囲、費用負担は個別に確認する必要があり、日本での報告義務や安全規制は別途検討します。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



