淡い色の壁を背にした木の台に、砂時計が一つ置かれている。
← コラム一覧へ台湾法律情報

偽の振込先変更メールで送金した台湾子会社に、銀行と警察ができること

約4分

AIで生成した架空の場面です。実在の人物、会社、書類、金融機関の画面を撮影したものではありません。

請求書の体裁も担当者の署名も、先月までと同じでした。違うのは口座番号だけで、メールには「銀行の都合で口座が変わりました」とあります。台北にある日系メーカー子会社の経理担当Bさんは、月末の締め日に間に合わせるため、その口座へ送金しました(以下は架空の場面で、実在の会社や人物とは関係ありません)。

三日後、本物の仕入先から「入金がありません」と電話が入ります。偽メールは返信が早く、敬語も整っていました。その勤勉さを別のことに使ってほしいものです。

受取口座の資金を止めるのは、銀行と警察の連携

日本のIPAは、ビジネスメール詐欺(BEC)で偽の口座へ送金したら、送金に使った銀行へ早めにキャンセルや組戻しを頼むよう案内しています(日本の機関の案内で、IPAの2022年9月28日更新)。台湾でも銀行への連絡は欠かせません。ただ、台湾の規則で確認できたのは、送金元の依頼だけで資金を引き戻す仕組みではなく、警察の通知と受取銀行の「圈存」(通報された金額を引き出せないよう保留すること)で止める仕組みです。

金融監督管理委員会(金管会)が金融機関向けに定めた防詐規則では、被害者本人が、営業時間中に銀行の窓口(どの銀行でもかまいません)へ出向いて被害を告げると、銀行が本人と送金情報を確認し、切結書(被害を申し述べる書面)への記入と165への電話を求めます。銀行は書面と送金情報で受取銀行へ通報し、警察は2時間以内に銀行へ人を送り、届出を受理することになっています。必要なら受取口座も警示(取引停止の指定)として通報されます(第28条)。受取銀行は通報された受取額(残高が少なければ残高)を圈存し、警察は圈存から48時間以内に、警示にするか解除するかを銀行へ伝えることになっています。この時間内に警示とする通知が届かなければ、銀行は圈存を解除します(第30条)。

警示となった口座に、被害者が送った分で引き出されていない残額があれば、警察の通知に基づいて返せると定められています(詐欺犯罪危害防制條例第11条)。別の口座へ移った分は、受取銀行が移転先の銀行へ続けて通報する規定がありますが(規則第27条)、返還の約束ではありません。

規則の文言は、被害者本人が窓口へ行く場面を想定しているように読めます。法人の担当者や代理人が行く場合、ネットバンキングで送金した場合の扱いは、確認した条文からは分かりませんでした。165に電話しただけでは届出は完了しないと、台北市政府警察局も案内しています(2026年1月5日更新)。偽の口座が台湾の外にある場合、この規則が定めるのは台湾の金融機関などの手続なので、同じ流れで止められるとは限りません。IPAは、その場合は現地の警察へ連絡するよう案内しています。

仕入先の請求は残るのか、告訴はどう進むのか

民法第309条は、債務の本旨に従って債権者本人か受領権限のある人に支払い、受領されたときに債務が消えると定めます。第三者への支払いは、第310条により、債権者が承認した場合などは有効で、受領者が債権の準占有者(債権者のように債権を行使する者)なら、払った側が、受け取った相手は債権者ではないと知らなかった場合に限って有効です。どちらでもなければ、債権者が利益を受けた範囲で有効になります。

偽メールの送金がどれに当たるか、詐欺師の口座の名義人が準占有者といえるか、払った側が気づかなかったといえるかは、契約と取引の経緯を見て個別に判断されます。条文だけで「払い直しは不要」とも「必要」とも言えず、告訴をしてもこの問題は決まりません。実務上は、本物の仕入先へ早めに事情と記録を伝えておくと話し合いが進みやすくなります(条文上の義務ではなく、実務上の提案です)。

告訴は、犯罪の被害者ができ(刑事訴訟法第232条)、書面か口頭で検察官または司法警察官に対して行います(第242条)。代理人への委任もできますが、検察官か司法警察官が必要と認めれば、本人に出頭を命じることがあります(第236条の1)。口座変更を装って金銭を送らせる行為は、詐欺(刑法第339条。5年以下の有期徒刑、拘役、または50万台湾ドル以下の罰金など)の問題になり得ます。委任状と出頭の考え方は、送金後の告訴を扱った記事にもまとめています。

実務上は、偽メールの原本、本物の仕入先との過去のやり取り、送金の控え、メールアカウントのログを残しておくと、経緯を説明しやすくなります。IPAも、メールの確保と、アカウントへの不審なアクセス(特に海外から)の調査を挙げています。担当者の責任や本社への報告は台湾の条文だけでは決まらず、ここでは扱いません。責任者の個人責任の枠組みは別の記事にあります。いつ、誰が、どの連絡先で口座変更を確認したかの時系列は、銀行にも警察にも本社にも説明の土台になります。

お金が戻るかどうかは、受取口座にまだ資金が残っているうちに、警察の確認が間に合うかにかかっています。条文が置いている時間は、2時間と48時間です。戻ることを約束できる手続は、今回確認した範囲にはありません。

個別の事情を確認したい場合は、昊鼎国際法律事務所の曾雋崴弁護士へメールでご相談ください。送金の日時・金額・受取口座と、偽メールの原本、本来の取引先とのやり取りがあれば添えてください。メールは wei@hoveringlaw.com.tw、住所は103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2(台北市大同区承徳路一段35号7階の2)です。

参考にした公的資料

2026年10月5日確認。台湾の法令は全国法規資料庫の現行条文で確認しました(法規整編資料は民国115年9月24日まで)。偽メールを理由に送金した会社の弁済を扱う台湾の公開判決は、確認できた範囲で見つからなかったため、判決例は載せていません。

よくある質問

台湾の銀行から偽の口座へ送金したあと、送金元の銀行に組戻しを頼めば足りますか?
足りるとは言い切れません。日本のIPAは、送金に使った銀行へ早めに組戻しを頼むよう案内しています。台湾の金管会の規則で確認できたのは、被害者が銀行の窓口で被害を告げて165へ連絡し、銀行が受取銀行へ通報し、受取銀行が通報額を上限に圈存し、警察が圈存から48時間以内に警示か解除かを通知する流れです(第28条・第30条)。その時間内に警示とする通知が届かなければ圈存は解除され、引き出し済みの資金は、この仕組みで止まるとは限りません。法人の担当者が窓口へ行く場合の扱いは、条文の文言からは分かりません。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。