日本本社が日本の口座へ給与を振り込んでいても、台湾の工場で装置の立上げや材料評価に従事した分は、台湾の課税対象になり得ます。台湾の所得稅法第8条第3号は、台湾内で提供する労務の報酬を台湾源泉所得とし、一定の短期滞在者が国外雇用者から得る報酬に例外を設けています。
技術者個人の給与と、日本の装置・材料メーカーや商社が受け取る技術支援料は、納税者も適用条文も異なります。日台民間租税取決めでは給与は第15条、企業の事業利得は第7条、特許やノウハウなどの使用料は第12条が判断の出発点です。取決め本文・和文仮訳
民間の取決めと、台湾で適用する税法
日台民間租税取決めは、当時の公益財団法人交流協会と亜東関係協会が2015年11月26日に署名したものです。日本が締結した国家間の租税条約ではなく、日本側では内容を実施する国内法を整備した枠組みです。台湾財政部の公表では2016年6月13日に効力が生じ、2017年1月1日から適用されています。署名年、効力発生日、適用開始年は区別されます。日本財務省・制度整備資料、台湾財政部・効力発生と適用開始の公表
2026年10月4日時点の取決めと台湾法に基づくと、免税や軽減税率の検討は、まず所得を受け取る者の税務上の居住地から始まります。日本国籍や日本企業への在籍だけで、取決め上の日本の居住者になるわけではありません。双方の国内法で居住者となる個人については、第4条が恒久的住居、人的・経済的関係の中心、常用の住居などによる判定を定めています。長期駐在で生活拠点が移る場合、短期出張と同じ前提では扱えません。取決め第4条
以下の給与の説明は、企業に雇用される技術者を対象とします。独立して業務を受託する個人や、董事などの資格で受け取る役員報酬には別の条文があり、給与の短期滞在者免税をそのまま当てはめられません。取決め第14~16条
「183日」は、何を判定する日数なのか
台湾に住所がない個人は、一課税年度の台湾滞在が合計183日以上になると、台湾国内法上の居住者に当たります。台湾に住所があり、常時居住している人については別の基準です。所得稅法第7条
同じ183日でも、給与の免税と企業のPE(恒久的施設)では判定期間も対象も違います。
| 判定する事項 | 日数と期間 | 判定の対象 |
|---|---|---|
| 台湾国内法の居住者区分 | 台湾に住所がない個人について、同一課税年度内に合計183日以上 | 個人の台湾滞在 |
| 取決めの給与の短期滞在者免税 | 当該暦年に開始または終了する、いずれの12か月間でも合計183日以内。他の要件も必要 | 報酬を受け取る本人の台湾滞在 |
| 取決めのサービスPE | 当該課税年度に開始または終了する、いずれかの12か月間に合計183日超 | 単一または関連するプロジェクトでの企業の役務提供 |
根拠は所得稅法第7条、取決め第5条第3項・第15条第2項です。国内法の「183日以上」と、サービスPEの「183日超」は境界も一致しません。
国内法には別に90日の例外があります。非居住者が同一課税年度内に台湾へ滞在した日数が合計90日以下で、国外雇用者から台湾での労務の報酬を受け取る場合、その報酬は第8条第3号の台湾源泉所得から除かれます。台湾の雇用者から得る給与まで免除する規定ではありません。90日を超えた場合も、91日目以降の給与だけが対象になるという条文ではありません。所得稅法第8条
2026年10月時点で、課税される非居住者の給与に対する国内法上の源泉徴収率は原則18%です。月額給与が所定の最低賃金基準の1.5倍以下の場合の6%など、例外があります。一方、居住者の総合所得税には5~40%の累進税率があり、控除後の課税所得で税額を計算します。免税額・所得区分の金額には物価に連動する調整があるため、派遣年度の公表値を使う必要があります。各類所得扣繳率標準第3条、所得稅法第5条
短期滞在者免税には、雇用者と給与負担の条件もある
取決め上の日本の居住者が台湾で勤務する場合、第15条第2項による給与の免税には、次のすべてを満たす必要があります。
- 当該暦年に開始または終了する、いずれの12か月間でも台湾滞在が合計183日を超えないこと。
- 給与が、台湾の居住者でない雇用者から、またはその雇用者に代わって支払われること。
- 台湾にある雇用者のPEまたは固定的施設が、その給与を負担していないこと。
取決め第15条第2項は、日数、雇用者、費用負担を結び付けています。日本本社の給与明細があるだけでは、後の二つの条件まで証明したことにはなりません。出向契約、実際の雇用関係、台湾側への給与費用の付替えを照合する必要があります。台湾子会社は親会社とは別法人であり、費用の付替えだけから「親会社のPEが負担した」と即断することもできません。子会社による雇用なのか、親会社の台湾PEによる負担なのかを分けて判断します。親子会社という支配関係だけでPEが成立しないことは、第5条第7項に定められています。取決め第5条
日数は年度末で単純にリセットされません。説明用の仮定として、取決め上の日本の居住者であり続ける技術者が、年末をまたぐ連続12か月間に、前年100日、翌年100日台湾へ滞在したとします。各暦年では183日未満でも、その12か月間は計200日となり、第15条第2項の日数要件を満たしません。台湾国内法上の非居住者であることと、取決めによる免税を受けられることは別です。
台湾の「適用所得稅協定查核準則」第17条では、給与の免税に係る滞在日数を入境の翌日から出境当日まで数え、休日や休暇、短期の操業停止なども含めます。工場へ入った日だけを集計する方法ではありません。ただし、取決め上の台湾の居住者と判定される期間の日数は、この計算から除かれます。出張記録だけでなく、居住者区分が変わる時点も関係します。同準則第17条
装置据付けの6か月と、会社全体で数えるサービス期間
取決めの適用を受ける日本企業の事業利得は、第7条では、台湾のPEを通じて事業を行わない限り、日本側のみで課税する扱いです。台湾にPEがある場合も、台湾が課税できるのは、そのPEに帰属する利得です。台湾向け売上高の全額が、そのまま課税所得になるわけではありません。取決め第7条
半導体装置の現地作業では、工事とサービスのどちらの規定が問題になるかが分かれます。第5条第3項は、建設・組立て・据付工事や関連する監督活動について6か月超、従業員などを通じた役務提供について、単一または関連するプロジェクトの期間が該当する12か月間に合計183日超という基準を設けています。契約名が「保守」でも、実際の業務が据付工事なのか、継続的な技術支援なのかによって検討が変わります。取決め第5条第3項
台湾の適用規則では、工事期間には準備作業、季節的・一時的な中断、下請けに出した工事の期間も含まれます。サービス期間は担当者ごとに切り離さず、企業が人員を通じて提供した期間を合算します。複数人が同じ日に滞在しても重複計上しませんが、交代によって前任者の期間が消えるわけではありません。また、台湾でのサービスと密接に関連する国外活動が調査で認められた場合、その日数も考慮できる規定があります。適用所得稅協定查核準則第8条、第9条
材料評価と量産移行支援を別の注文書にした場合も、それだけで別プロジェクトになるとは限りません。第9条は、包括契約の有無、後続契約を合理的に予見できたか、業務の性質、人員の共通性など、商業上の関連性を考慮します。営業部門の受注番号と、人事部門の出張一覧を突き合わせると、同じ顧客向け作業が複数案件に分かれているかを把握できます。
さらに、事務所などの一定の事業場所や、企業名義の契約締結権限を反復して行使する代理人によるPEもあります。代理人については、通常の業務を行う独立代理人などの例外も定められています。6か月や183日を下回れば、すべてのPEが否定されるわけではありません。固定場所について台湾の準則は、6か月未満でも定期的にそこで営業し、企業がその場所を支配・使用する場合を判定対象にしています。客先内の作業場所も、入館できるという事実だけでなく、利用の継続性や支配・使用の実態を検討することになります。取決め第5条第1・5・6項、適用所得稅協定查核準則第7条
技術サービス料とロイヤルティーの境目
取決め第12条の使用料には、特許、秘密方式・秘密工程などの使用対価や、産業上の経験に関する情報の対価が含まれます。台湾で生じる使用料の受益者が日本の居住者である場合、台湾の税額は使用料総額の10%が上限です。ただし、対象の権利が受益者の台湾PEなどと実質的に関連する場合は別の扱いとなり、特殊な関係によって独立当事者間の水準を超える金額にも、上限税率が無条件に及ぶわけではありません。取決め第12条
2026年10月時点の台湾国内法では、台湾に固定営業場所がない外国企業への使用料の源泉徴収率は原則20%です。取決めの条件と手続を満たす場合に10%上限を検討するのであり、日本宛ての送金がすべて10%になる制度ではありません。各類所得扣繳率標準第3条第6号
一方、顧客の装置を調整する、試験を実施して結果を報告する、といった役務の対価を、技術に関する支払いという理由だけで使用料に分類することはできません。取決めには、あらゆる技術サービス料を一律10%で課税する独立の条項はありません。日本法人の事業利得に当たる対価であれば、第7条とPEの検討へ進みます。個人が独立して受託した業務の扱いとは区別されます。取決め第7・12・14条
ノウハウの対価と認める基準として、台湾の準則第14条は、情報が既に形成されているが未公開で秘密保持を要すること、提供者が顧客向けの調整のため追加活動を必要とせず、利用の効果を保証していないことを挙げています。既存の秘密工程を利用させるのか、技術者が顧客の条件に合わせて作業を行うのか。この違いは、契約書の「技術料」という名目からは分かりません。適用所得稅協定查核準則第14条
装置、使用権、据付け、保守を一括で契約する場合、第20条は性質の異なる所得に適切な対価を割り当て、個別に取決めを適用するよう求めています。税率を下げるための名目上の分割ではなく、権利の範囲、成果物、作業場所、対価の算定根拠が対応している必要があります。見積書、契約書、検収記録、請求書で区分が食い違っていると、支払側も適用税率を判断できません。適用所得稅協定查核準則第20条
給与、事業利得、使用料では適用手続も違う
給与の免税は、本人が日数を計算して日本本社へ伝えるだけでは完結しません。台湾の準則第26条は、申告時に日本の税務当局が発行した居住者証明、旅券、雇用契約などを添え、支払者、金額、雇用者が台湾に有するPEまたは固定的施設が報酬を負担していないことを示し、税務当局が免税所得を認定する手続を定めています。適用所得稅協定查核準則第26条
非居住者で、源泉徴収の対象外となる課税所得がある場合、翌年の申告期より前に離境するなら、離境前に申告して納税しなければなりません。国外雇用者払いの給与について、台湾で源泉徴収されていないことを理由に、申告も不要と考えることはできません。所得稅法第73条
企業の事業利得の免税は、第23条に基づき、居住者証明、台湾にPEがないことなどの証明、所得資料をそろえて支払者所在地の税務当局へ申請するのが基本です。使用料の上限税率は、第25条により居住者・受益者の証明や契約書の中国語訳、計算明細などを整え、支払者が適用条文を示して源泉徴収申告を行う手続です。事業利得の免税申請と使用料の軽減税率を、同じ社内処理で済ませることはできません。適用所得稅協定查核準則第23条、第25条
見積段階では、請求額が源泉税を含む総額なのか、契約で手取りを保証するのか、証明書の取得と申請を誰が担うのかを決めておくと、支払時の負担を計算できます。免税見込みで価格を決めても、適用に必要な資料がそろわなければ、その前提で送金を受けられるとは限りません。税務とは別に、現場で行う作業に応じた日本の装置メーカーの技術者が台湾で働く場合の就労許可も検討対象です。
支払済みの税額には、還付と二重課税調整の問題が残る
2025年4月8日に改正された準則第34条は、国内法の税率で源泉徴収・納付した所得などについて、取決めの適用を申請できる期間を、原則として納付日から10年以内としています。ただし、改正施行時に納付から既に5年を超えていたものには旧規定が適用されます。取決めに別段の定めがある場合もその定めに従います。過去の支払いがすべて10年前まで再検討できる、という意味ではありません。適用所得稅協定查核準則第34条
取決め第22条は二重課税の排除を定めていますが、日本での外国税額控除には日本法上の要件や限度があります。台湾で納めた額がそのまま全額戻ると見込まず、台湾側で取決めを適用した税額、納付証明、同じ所得が日本でどう扱われるかを、日本側の税務担当者と照合することになります。取決め第22条
課税が取決めに適合しないと考える場合には、第24条の相互協議という枠組みもあります。日本の国税庁も、一般の租税条約に基づく相互協議に類似するものとして案内していますが、所定の手続があり、解決が保証される制度ではありません。台湾の還付申請の期間と相互協議の期限は別です。第24条の申立ては、取決めに適合しない課税措置の最初の通知から3年以内とされています。取決め第24条、国税庁・日台民間租税取決め関係Q&A
台湾での派遣・技術契約の税務について相談をご希望の場合は、昊鼎国際法律事務所のパートナー弁護士、曾雋崴(Wei Tseng)へ、まず機密情報を含まない概要をwei@hoveringlaw.com.twにお送りいただけます。台北事務所:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2。
参考資料
資料確認日:2026年10月4日(台湾時間)。法令は同日参照した条文に基づき、年度ごとに変わる控除額・所得区分の金額は掲載していません。
- 公益財団法人日本台湾交流協会掲載、日台民間租税取決め(2015年11月26日署名):和文仮訳、英文本文。第4・5・7・12・14~16・22・24条を中心に参照。
- 日本財務省、平成28年度改正関係参考資料(国際課税関係)(2016年度)。日台民間租税取決めを実施する国内法の整備。
- 台湾財政部、亞東關係協會與公益財團法人交流協會避免所得稅雙重課稅及防杜逃稅協定の効力発生・適用開始(2016年6月15日公表、2021年11月3日更新)。歴史的な適用開始日の確認に使用。
- 法務部・全國法規資料庫、所得稅法:第5条、第7条、第8条、第73条。税率、居住者、源泉所得、非居住者の申告。
- 法務部・全國法規資料庫、各類所得扣繳率標準第3条。非居住者給与・外国企業への使用料の源泉徴収率。
- 法務部・全國法規資料庫、適用所得稅協定查核準則:第7条、第8条、第9条、第14条、第17条、第20条。PE、期間の計算、ノウハウ、複合契約の所得区分。
- 法務部・全國法規資料庫、適用所得稅協定查核準則:第23条、第25条、第26条、第34条。免税・上限税率の適用手続、2025年4月8日改正の還付申請期間と経過措置。
- 日本国税庁、相互協議手続に関するガイダンスQ&A「5.日台民間租税取決め関係」。日本側手続の一般的な位置付け。
本稿は一般的な情報であり、個別案件への法律・税務上の助言ではありません。資料最終確認日:2026年10月4日(台湾時間)。
よくある質問
- 台湾滞在が183日以内なら、日本から支払われる給与は台湾で免税になりますか。
- 日数だけでは決まりません。取決め上の日本の居住者について、第15条第2項は、該当するいずれの12か月間でも台湾滞在が合計183日を超えないこと、台湾の居住者でない雇用者またはその代理による支払いであること、台湾にある雇用者のPEまたは固定的施設が報酬を負担しないことのすべてを求めています。台湾に住所がない個人に関する、国内法の暦年ごとの183日以上という居住者判定とは別です。
- 技術者を交代させれば、日本企業のサービスPEは生じませんか。
- 交代だけでは避けられません。単一または関連するプロジェクトについて、企業が台湾で役務を提供する期間を判定します。取決め第5条第3項は、該当する12か月間で合計183日を超える場合をサービスPEの対象としています。台湾の適用規則では複数人の滞在が重なる日を重複計上しませんが、担当者が変わっても前任者の期間が消えるわけではありません。据付工事などには別に6か月超の規定があります。
- 台湾の顧客から受け取る技術サービス料にも、使用料の10%上限が適用されますか。
- 一律には適用されません。特許・秘密工程などの使用対価やノウハウの対価に当たるか、企業による役務提供の対価かを分けます。使用料の10%上限には日本の居住者である受益者などの条件があり、事業利得に当たるサービス料はPEの有無などに基づき判断します。免税や軽減税率の適用には、それぞれの証明資料と手続が必要です。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。


