東京で出た仲裁判断は、そのままでは台湾の取引先の預金を差し押さえる根拠になりません。台湾の裁判所による承認が先に要ります。
仲裁法第47条は、中華民国の領域外で作成された仲裁判断と、領域内でも外国法に基づいて作成された判断を「外国仲裁判断」と呼びます。外国仲裁判断は、裁判所の承認裁定を得て初めて、当事者間で確定判決と同じ効力を持ち、執行名義になります。日本商事仲裁協会(JCAA)の仲裁でも、東京を仲裁地とする臨時の仲裁でも、扱いは同じです。
台湾はニューヨーク条約に加入していません。それでも承認の道はあります。仲裁法第7章(第47条〜第51条)が、条約とは別に要件と拒否事由を定めているからです。
申立てでそろえる書類
申立ては書面で行い、次の文書を付けます(第48条)。
- 仲裁判断書の正本か認証を受けた謄本
- 仲裁合意の原本か認証を受けた謄本
- 判断が外国の仲裁法規や仲裁機関の規則によったときは、その全文
外国語の文書には中国語訳が必要です。認証も要ります。その認証は、中華民国の在外公館や代表処、政府の授権を受けた機関によるものとされています。日本で作成した文書なら、台北駐日経済文化代表処などでの手続を見込みます。申立書は相手方の人数分の副本を出し、裁判所が送達します。
JCAAの規則や日本の仲裁法の全文、その中国語訳まで求められる点は、準備に時間がかかるところです。契約書の仲裁条項が売買契約の本文にあるなら、契約書全体の写しをどう出すかも決めておきます。
裁判所が必ず却下する場合と、却下できる場合
第49条第1項は、承認や執行が台湾の公序良俗に反する場合と、台湾法では仲裁で解決できない紛争である場合に、裁判所は申立てを却下しなければならないと定めます。
第2項は相互主義です。判断地国などが台湾の仲裁判断を承認しない場合、裁判所は申立てを却下することができます。義務ではありません。日本の仲裁法第45条は、仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず、仲裁判断に確定判決と同一の効力を認めています。日本の判断について第2項が問題になる場面は、限られると考えられます。
相手方が20日以内に出せる異議
第50条により、相手方は申立ての通知を受けてから20日以内に、却下を求めることができます。事由は六つです。
- 当事者の行為能力の欠如により仲裁合意が効力を生じない
- 合意した準拠法(定めがなければ判断地法)により仲裁合意が無効
- 仲裁人の選定や手続について適切な通知を受けていない、その他適正手続を欠く
- 判断が仲裁合意の対象と関係しない、または範囲を超える(範囲外の部分を除いても判断が成り立つときは、残りの部分は対象外)
- 仲裁廷の構成や手続が当事者の約定に、約定がなければ仲裁地法に違反する
- 判断がまだ当事者を拘束していない、または取り消された・効力を停止された
日本で取消しの申立てが係属しているときは、裁判所は申立てにより担保を立てさせて承認や執行の手続を停止できます。取消しが確定すれば、承認の申立ては却下され、すでに承認されていれば申立てにより承認が取り消されます(第51条)。
承認の裁定が出た後
裁判所での手続は、仲裁法に定めがない部分は非訟事件法により、そこにも定めがなければ民事訴訟法を準用して進みます(第52条)。承認の裁定に不服がある側は、非訟事件法の定めにより抗告できます。申立てを退けられた申立人も同じです(非訟事件法第41条)。
承認された判断は執行名義になります。そこからは通常の強制執行です。銀行預金、売掛金、不動産など、執行する財産の所在地の裁判所に申し立てます(強制執行法第7条)。相手の取引銀行や主要な取引先が分かっていれば、その情報がそのまま執行の申立てで役に立ちます。
判決で争った場合との違い
日本の裁判所の判決を台湾で使う道もあります。この場合は民事訴訟法第402条の要件、つまり管轄、被告への送達、公序良俗、相互の承認が問われます。詳しくは外国の確定判決で台湾の財産を差し押さえるにはを参照してください。これから契約を結ぶなら、どちらの道を選ぶかは紛争解決条項で決まります。
承認を待つ間に財産が動くおそれがあれば、民事訴訟法第522条の仮差押えを検討します。請求と仮差押えの理由の疎明が必要で、担保を命じられることがあります(第526条)。
申立書に付ける書類のうち、見落としやすいのが仲裁合意の原本です。契約書が日本の本社と台湾の相手のどちらに保管されているかで、認証の段取りも変わります。
昊鼎国際法律事務所(103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2)では、wei@hoveringlaw.com.twで承認申立てのご相談を受け付けています。
参考にした公的資料
- 仲裁法 第47条、第48条、第49条、第50条、第51条、第52条(全文)
- 非訟事件法 第41条
- 強制執行法 第7条
- 民事訴訟法 第402条、第522条、第526条
- 日本 仲裁法(平成15年法律第138号)第45条
確認日:2026年10月24日。台湾の条文は中国語の原文を基準にしています。
よくある質問
- 台湾はニューヨーク条約に入っていません。日本の仲裁判断は台湾で使えますか。
- 使えます。台湾の仲裁法第7章が外国仲裁判断の承認を定めており、台湾の外で出された判断は、台湾の裁判所の承認裁定を得れば当事者間で確定判決と同一の効力を持ち、執行名義になります(第47条)。条約の加盟の有無ではなく、この章の要件と拒否事由で判断されます。
- 認証はどこで受ければよいですか。
- 仲裁法第48条第3項は、判断書と仲裁合意の認証を、中華民国の在外公館、代表処、弁事処その他政府の授権を受けた機関によるものとしています。日本で作成した文書なら、台北駐日経済文化代表処などでの認証を前提に準備します。外国語の文書には中国語訳も付けます。
- 承認の手続中に、相手が台湾の財産を移してしまわないか心配です。
- 金銭の請求を将来の強制執行のために保全する手段として、民事訴訟法第522条の仮差押えがあります。請求と仮差押えの理由を疎明する必要があり、裁判所は担保を命じることができます(第526条)。承認の申立てと仮差押えの順序と時期は、相手の財産の状況を見て決めます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



