ニュースをきっかけに執筆した記事です。公開日以降に状況や法令が変わっている可能性があります。
台湾光罩は、熊本市の半導体装置技術サービス会社T.C.K Corporation(TCK)の全株式を取得する方針を決議しました。取得額は7億5000万円です。中央社の2026年10月16日付報道によると、取締役会は同日、この買収を決議し、同社は日本での装置組立や関連のエンジニアリングサービスに進出する狙いを説明しています。記事が伝えるのは買収の決議であり、台湾当局の承認取得を示すものではありません。
台湾企業に株式を売却する日本のオーナーにとって、買主が台湾側でどの手続を採るかは、代金を受け取る条件にも関わります。事前の承認を決済の条件にするなら、その承認を示す書面が必要になります。実行後に報告する場合には、日本側から渡す資料を決済後まで確保できるかが、契約を詰める際の論点です。
海外企業の株式取得も投資手続の対象
「公司國外投資處理辦法」(会社国外投資処理弁法)第3条は、外国企業の株式や出資持分を保有することを国外投資に含めています。短期の外国有価証券の購入は除かれますが、現地で工場を新設する投資だけを対象とする制度ではありません。既存企業の株式を買う取引にも関わります。第2条が定める所管機関は経済部で、承認や報告等の事務を他の機関に委ねることも認めています。
買収先への融資も予定する場合は、融資期間も判断材料です。第3条は、同条所定の投資先に対する期間1年以上の貸付けも国外投資に含めています。株式代金と貸付金がある取引なら、それぞれの資金が何のために渡され、どの権利として残るかを区別して説明する必要があります。売買契約と融資契約を並べると、台湾側で検討する投資の内容を把握できます。
ここで扱うのは台湾の買主側の手続です。日本の外為法による届出が必要かどうかは、対象会社の事業内容などに応じ、日本の専門家や財務省の案内に照らして判断する事項になります。本件への適用は断定できません。
金額が分ける事前承認と実行後の報告
同弁法第5条は、投資額が新台湾ドル15億元を超える場合、投資前に申請書と所定の書類を提出し、承認を申請するよう求めています。基準は台湾ドル建てです。
15億元以下の場合は、第9条により、投資前に第5条に従って承認を申請するか、実行後に「備查」と呼ばれる報告をすることができます。報告期限は実行後6か月以内です。15億元ちょうどもこの区分に含まれます。報告を選べるという規定なので、この区分の取引について承認書が出ることを当然の前提にすると、買主が予定する手続と契約条件が合わなくなるおそれがあります。
申請する会社の特定にも意味があります。第5条は会社登記の証明書の写しを求め、代理人に手続を委ねる場合は委任状も求めています。交渉の窓口となる企業と実際に投資する企業が異なる計画では、契約上の買主と台湾側の申請主体がどう対応するかを説明してもらうことで、誰の承認や報告を確認すべきかが定まります。
中央社の2026年10月16日付記事は、今回の取得額を新台湾ドル約1億6000万元と換算しています。ただ、報道には台湾側で採る手続や、その申請・報告状況は記されていません。記事の概算額だけを根拠に、本件の手続が確定したと扱うことはできません。個別の取引では、投資の内容と法令上の金額を買主の資料に照らして判断します。
法改正の施行時期にも注意が要ります。2025年5月7日改正の産業創新条例第22条は、確認日現在、法務部の法令データベースで施行日未定と表示されています。ここで説明した金額による区分は、現行の会社国外投資処理弁法に基づくものです。
決済後の報告には実行を示す書類
事後の備查では、何を提出するのでしょうか? 第9条は、第5条所定の書類に加え、投資を実行した証明と、投資先企業の設立または変更登記の証明を求めています。買主が社内で投資を決めた資料だけでは、実行の証明までそろったことにはなりません。
書類は、証明する事実から考えます。支払記録は資金を送った経過を、株式取得に関する書面は取得の内容を確かめる材料になります。一方、投資先企業の設立・変更登記については、どの書類を台湾側に提出できるか、日本側の資料と照合する作業が残ります。何をもって足りるかは、提出要件と取引の具体的な進め方に即して判断します。
売主にとっては、決済後の協力範囲が問題です。どの書類を誰が保管し、いつ買主へ渡すかを契約で決めておけば、株式を譲った後に初めて資料を探す事態を避けやすくなります。台湾側で必要な書類が日本側の決済書類に含まれるかを照合し、足りないものは取得方法も含めて相談できます。
単に「必要な資料一式を提供する」とだけ合意すると、売主が用意できる書類と買主が求める書類の範囲がずれた場合に、追加の取得費用や手配を誰が負担するかという交渉が残ります。資料名まで具体化します。入手に時間のかかる書類があれば、その予定を共有し、報告期限に間に合う受渡し時期を決めることになります。これは書類の手配に関する契約上の提案で、売主に台湾の報告義務が移るという説明ではありません。
承認を先に受ける取引にも、実行後の報告は残ります。第8条は、承認を受けて国外投資をした会社に対し、実行後6か月以内に、実行証明と投資先の設立・変更登記の証明を提出して備查をするよう求めています。起算点は投資の実行です。取締役会の決議日や契約締結日を、そのまま報告期限の計算に用いることはできません。
審査の決定期限と契約上の決済日
事前承認を決済条件にする取引では、申請から決済までの日程をどう組むかが交渉に入ります。同弁法第10条は、会社が書類をそろえた後1か月以内に決定するよう定め、他の所管機関の権限に関わる案件では2か月以内としています。書類がそろった時点が基準です。申請書を出した日だけでは、この期間を数え始められるか分かりません。
しかも、条文が定めるのは決定までの期間で、承認されるという結果ではありません。売主が代金の受領を見込む日を置くなら、買主が書類をそろえたことをどう知らせ、決定内容をどの書面で共有するかまで契約案に反映できます。期限までに条件を満たせなかった場合の延長や終了の扱いも、当事者間で詰める部分です。法定の審査期間だけを転記した契約では、買主が申請準備に使う時間や、書類を補うために売主の協力が必要になったときの連絡方法まで決まりません。
承認後に決済を延期する場合には、承認の期限も関わります。第7条によると、定められた期限内に投資の全部または一部を実行しなければ、未実行部分の承認は期限満了時に失効します。正当な理由がある場合は、満了前に延長承認を申請できます。申請だけで延長が決まるわけではありません。
双方が決済日の延期に合意する際は、承認書の期限と新しい日程を突き合わせる必要があります。契約上の日付を直すだけで、行政上の承認期限も延びるとは扱えないためです。日本の売主が買主に求める資料も、この段階では申請予定の説明から、承認書や延長の判断を示す書面へ変わります。
台湾側の手続と株式売買契約の相談
昊鼎国際法律事務所では、曾雋崴(Wei Tseng)弁護士が台湾側の投資手続に関する相談を受け付けています。初回のご連絡では、買主が予定する投資の内容と契約案の進み具合をお知らせいただければ、承認を決済条件にする部分や、決済後の資料提供について相談の対象を絞れます。
台北事務所:103 臺北市大同區承德路一段35號7樓之2
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参照した資料
- 中央社「台灣光罩斥資1.6億元 收購熊本半導體設備服務商TCK」(2026年10月16日):記事
- 法務部・全国法規資料庫「公司國外投資處理辦法」(2010年7月23日公布、2026年10月18日確認):第2条、第3条、第5条、第7条、第8条、第9条、第10条
- 法務部・全国法規資料庫「產業創新條例」第22条と施行状況(2025年5月7日改正、施行日未定の表示を2026年10月18日確認)
- 日本財務省「対内直接投資審査制度について」(2026年10月18日確認)
確認日:2026年10月18日
よくある質問
- 台湾企業による日本企業の買収は、必ず台湾で事前承認を受けるのですか?
- 会社国外投資処理弁法の金額による区分では、投資額が新台湾ドル15億元を超える場合は、投資前の承認申請が必要です。15億元以下の場合は、事前の承認申請か、投資実行後6か月以内の備查(所管機関への報告)を選べます。本件で採られる手続や、他の規制の適用まで確定する説明ではありません。
- 事後報告の6か月は、取締役会の決議日から数えますか?
- 台湾の会社国外投資処理弁法第9条が定める起算点は投資の実行です。取締役会決議日を起算点とはしていません。実際の支払いや株式取得の経過を示す資料に基づき、実行時点を確かめます。
- 承認申請を出せば、1か月後には決済できますか?
- 台湾の会社国外投資処理弁法第10条は、会社が書類をそろえた後1か月以内、他の所管機関の権限に関わる案件では2か月以内に決定するよう定めています。これは審査の決定期限であり、承認や決済日を保証する規定ではありません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



