台湾の顧客からAI検査機や特注治具の製作を止めるよう言われても、日本のメーカーが既に発注した専用部材の代金まで消えるわけではありません。顧客との契約がどう終わるかと、仕入先への注文を取り消せるかは、それぞれの契約の問題です。
部材を買った事実があっても、その代金を顧客に請求できるとは限りません。顧客から確定注文を受けていたのか、どの仕様で製作する約束だったのか、先行調達を求めたのは誰か。注文に至るやり取りによって、同じ支出でも顧客に負担を求める根拠が変わるためです。
ここで扱うのは台湾法が契約に適用される場合です。相手が台湾企業というだけでは準拠法は決まらず、当事者の合意などによって判断します(涉外民事法律適用法第20条)。
需要予測を受けて買った部材、注文を受けて買った部材
「納期に間に合うよう準備してほしい」という依頼で長納期の部材を手配した場合、その依頼にどこまでの購入約束が含まれていたかが争点になります。台湾の民法第153条では、明示・黙示を問わず、当事者の意思が一致すれば契約が成立します。売買では、対象と価格の合意が成立の基準です(第345条)。
書類の表題がforecastなら必ず参考情報、POなら必ず確定注文、と決められるわけではありません。需要予測にも一定数量を購入する約束が含まれるかもしれませんし、POが申込みに当たるのか、既に成立した合意の確認なのかも、前後のやり取りによります。基本契約、見積書、注文への回答、製作着手を求めたメールを日付順にたどるのは、どの時点で何が合意されたかを確かめるためです。
装置全体の注文が決まる前でも、部材の先行調達について別に合意する方法はあります。対象と金額の上限、取り消す場合の負担を定めれば、納期の準備を求める連絡にどこまで応じるかを判断できます。
製作を止められることと、費用を免れること
特注装置の取引には、物や権利の移転に対して代金を払う売買と、一定の仕事の完成に対して報酬を払う「承攬」の区別が関わります。承攬は日本語の請負に相当する台湾民法上の類型です。設計、製作、ソフトウェア調整、据付を組み合わせた取引では、特注品という呼び名ではなく、何を給付する合意だったかによって分類を考えます(民法第345条、第490条)。
承攬については、注文者は仕事の完成前であれば契約を終了できる一方、その終了で請負人に生じた損害を賠償しなければなりません(第511条)。この規定が一般の装置売買にも当然に使えるわけではなく、契約独自の中止・精算条項も読む必要があります。顧客の設備計画が変わっただけなのか、納期遅延や品質不良を理由に契約違反を主張されているのかでも、検討する根拠は違います。
中止の通知が届いた時点では、既に承認された設計、加工・組立の進捗、まだ取り消せる仕入先への注文が、当面の対応を左右します。どこまで作業を止めるかは、契約上の手順と安全上必要な処置を踏まえ、相手と確認することになります。その際に停止日と保管費用の扱いを残しておけば、回答を待つ間の費用も区別できます。待っている間に新たに発注したものがあれば、その経緯も後の精算で説明する資料になります。
交渉を続けている間にも、権利行使の期間は問題になります。承攬人の損害賠償請求権について、民法第514条第2項は、原因発生後1年間行使しないと消滅すると定めています。契約類型、請求の根拠、起算点を確かめる必要があり、精算交渉中という理由だけで期限を放置することはできません。
装置の販売価格と、実際に失った金額
損害賠償で問題になるのは、販売できなくなった装置の売上高だけではありません。台湾の民法第216条は、法律や契約に別段の定めがない限り、被った損害と失った利益を賠償の範囲としています。失った利益には、通常の状況や既定の計画・設備などから期待できた利益が含まれますが、販売価格の全額がそのまま損害額になるとは限りません。
例えば顧客専用に加工した部材と、別の装置にも使える汎用品では、中止後に残る負担が違います。未納入の部材も、仕入先が取消しに応じるかで支出が変わります。精算のために資料をまとめるなら、次のような対応が考えられます。いずれも、資料があれば必ず請求が認められるという意味ではありません。
| 対象 | 費用の裏付けになる資料と、残る確認事項 |
|---|---|
| 顧客専用の加工済み部材 | 図面の版、注文日、加工の進捗。他案件に転用できるか |
| 発注済みで未納入の部材 | 仕入先の取消条件、取消し・数量変更を申し入れた日、回答、実際に負担する額 |
| 製作・調整済みの作業 | 作業記録、外注費、その作業と今回の注文との関係 |
| 汎用品や未着手の工程 | 返品・転用の可否、中止によって支出せずに済む費用 |
予定利益の計算には、売上見込みと原価の内訳が必要になります。また、同じ原因となる事実から損害と利益が生じた場合には、その利益を賠償額から差し引く規定があります(民法第216条の1)。精算表には、顧客からの前払金、仕入先からの返金、部材の転用・売却の見込み、既に顧客へ渡した物を別々に記載すると、それぞれが計算にどう影響するかを追えます。どの額を控除すべきかは、請求の根拠と費用の関係によります。部材費を含めた損失に同じ部材費をもう一度足す、といった重複も避ける必要があります。
顧客から「納期遅延の違約金と相殺する」と言われた場合には、その主張も別に検討します。民法第334条が定める相殺の原則的な要件は、互いに債務を負い、給付の種類が同じで、双方の履行期が来ていることです。債務の性質や特約による制限もあります。相手が示した控除額を受け入れるかどうかは、そもそもその債権があるのか、金額と期限はどうか、契約が相殺を制限していないかを確かめた上での判断になります。
取消費用をあらかじめ決めるなら
次の注文で取消条件を交渉する際には、設計着手前、専用部材の発注後、組立後というように、製作段階に応じた精算方法を設けられます。仕入先への注文を取り消せない部材については、対象と証拠の示し方に加えて、顧客が引き取るかどうかも取り決める余地があります。費用の支払いに合意しても、部材の行き先が決まらなければ、保管の問題が残ります。
注文額の一定割合を取消費用とする場合は、その金銭が何の対価・補償なのかも問われます。条項が違約金と評価され、額が高すぎるときは、裁判所が相当額へ減額できるため、割合を契約に書けば常に全額を請求できるわけではありません(民法第252条)。
既に中止通知を受け、台湾法での対応を相談する場合は、装置取引の概要、製作の進捗、通知の日と回答期限を相談窓口へお伝えください。図面や注文書の原文は、共有方法を確認してからご準備ください。
参照した公的資料
- 台湾・全國法規資料庫:涉外民事法律適用法第20条。契約準拠法。
- 台湾・法務部:民法の売買・承攬の規定。本文の各条リンクと併せて参照。
法令確認日:2026年10月8日。本稿は台湾法に関する一般情報です。個別の注文の拘束力、契約終了の効力、請求額や期間は、契約書と取引記録に即して判断する必要があります。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。


