3か月続けて給料が半分。残業代も出ない。そのうえ会社から「辞めるなら辞職届を書いてほしい」と言われた(架空の例です)。言われるままに自己都合の辞職届を出せば、台湾では資遣費を受け取れません。勞動基準法第18条は、第12条の懲戒解雇、第15条による労働者からの終了(自己都合退職)、有期契約の満了を、資遣費のない離職として挙げているからです。
ところが、同じ状況で第14条を根拠に「雇用主の賃金不払いを理由に契約を終了する」と告げれば、話は変わります。辞めるという結果は同じでも、法律上は雇用主側の落ち度による終了になり、資遣費を請求できます。資遣費の仕組み全体は台湾の資遣費:会社都合・懲戒解雇・自己都合で何が変わるかで扱いました。
第14条が挙げる六つの事由
第14条第1項は、次の場合に労働者が予告なしで契約を終了できると定めています。
第1号は、雇用主が労働契約を結ぶときに虚偽の意思表示をし、労働者がそれを信じて損害を受けるおそれがあるときです。実際には存在しない海外拠点への配属を約束して採用した、といった場合が当たり得ます。
暴行と重大な侮辱が第2号です。雇用主、雇用主の家族、雇用主の代理人が労働者に対してした場合に限ります。同僚による行為はここに含まれません。
健康を害する仕事を放置した場合が第3号です。契約で定めた仕事が労働者の健康を害するおそれがあり、雇用主に改善を通知しても効果がないときを指します。改善を求めたという事実が要件になっているので、通知の記録が意味を持ちます。
法定伝染病に関わるのが第4号です。雇用主、雇用主の代理人、または他の労働者が法定伝染病にかかっていて、一緒に働く労働者に感染するおそれがあり、その健康を重大に害するときです。
賃金の不払いは第5号です。雇用主が労働契約で定めた報酬を支払わないとき、または出来高払いの労働者に十分な仕事を与えないとき。冒頭の例はここです。
最後の第6号は、雇用主が労働契約や労働法令に違反し、労働者の権益を害するおそれがあるときです。労働保険・健康保険の未加入、残業代の不払い、法定の休日や休暇を与えないことなどが、この号に当たり得ます。
同条第4項は第17条を準用すると定めています。これが、労働者側から終了しても資遣費を受け取れる根拠です。新制が適用される年数については勞工退休金條例第12条も、第14条による終了を資遣費の対象として明記しています。
第1号と第6号には30日の期限がある
期限は30日です。第14条第2項により、第1号と第6号を理由にする場合、労働者はその事情を知った日から30日以内に契約を終了しなければなりません。第6号については但書があり、雇用主の違反がある場合は損害の結果を知った日から30日以内でもよいとされています。
この30日は見落とされやすい期限です。保険に入れてもらえていないと気づいてから何か月も働き続け、辞めるときになって初めて第6号を持ち出すと、「知った日」から30日を過ぎていると会社に反論される余地が生まれます。一方で、未払いが毎月続いているような場合は、新しい違反のたびに新しい「知った日」が生じると考える余地があり、どの違反をいつ知ったかの整理が結果を左右します。
第2号から第5号には期限の定めがありません。ただし第3項には別の制限があり、第2号の代理人による暴行・侮辱について雇用主がその代理人との契約をすでに終了している場合や、第4号の法定伝染病の人が衛生法規に従って治療を受けている場合には、労働者は第14条で契約を終了できません。
終了の告げ方と、残しておくもの
予告は要りません。ただ、何を理由にしているかが相手に伝わる必要はあります。口頭だけで「辞めます」と言えば、会社はそれを自己都合退職として処理するでしょう。書面やメールで、どの事実を第14条のどの号の事由として契約を終了するのかを書き、送った日が分かる形で残しておくと、後から「どちらが、どの理由で終えたのか」を争うときの出発点になります。
給与明細と振込記録、労働保険の加入状況、改善を求めたメール、会社とのやり取りの録音などが、各号の事実を裏付ける材料です。会社から自己都合の辞職届や合意書への署名を求められたときは、その書面にどの終了事由が書かれているかを読んでから判断します。
終了を告げた後:30日の支払期限と労働局の調解
終了を告げた後の資遣費は、第17条第2項により契約終了から30日以内に支払われます。新制の年数分も勞工退休金條例第12条第2項で同じ30日です。離職時には第19条の服務證明書(在職証明)を請求でき、雇用主は拒めません。次の就労許可や居留の手続で勤務歴を示すときに使います。
会社が「自己都合だから払わない」と応じない場合、いきなり訴訟ではなく、勞資爭議處理法第9条の調解を使う道があります。申請先は労働者が働いていた場所の直轄市・県市の主管機関(台北市なら労働局)で、第11条により、申請者の希望に応じて調解人を指名する方式か、調解委員会を組む方式で進みます。未払い賃金と資遣費をまとめて議題にできます。調解が成立しなければ、裁判所の労働調解と訴訟に進みます。
調解の場では、会社側が「第12条の事由があった」と主張して懲戒解雇だったことにしようとすることがあります。そのとき判断材料になるのは、どちらが先に、どの日付で、どの条文を根拠に契約を終えたかです。終了の通知を出した日付と理由が書面で残っていれば、話はそこから始まります。
同じ事実でも、台湾の労働紛争では、どちらが先にどの条文で契約を終えたかによって、資遣費を請求できる側とできない側が入れ替わります。会社に第12条の事由があると主張される前に、労働者が第14条で終了を告げることもあれば、その逆もあります。どちらの立場でも、期限と記録を先に整えることが出発点になります。
辞める前に自分の状況が第14条のどの号に当たるか確かめたいときは、昊鼎国際法律事務所(wei@hoveringlaw.com.tw)で日本語で相談できます。労働契約書、直近の給与明細、会社とのメールや通知があれば、終了の理由と期限を具体的に検討できます。
参考にした公的資料
確認日:2026年10月6日(台湾時間)。
- 勞動基準法 第12条、第14条、第15条、第17条、第18条、第19条(2024年7月31日改正)
- 勞工退休金條例 第12条(2019年5月15日改正)
- 勞資爭議處理法 第9条、第11条(2021年4月28日改正)
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よくある質問
- 会社が給料を遅配しています。自分から辞めても資遣費を請求できますか?
- 勞動基準法第14条第1項第5号は、雇用主が労働契約どおりに報酬を支払わない場合、労働者は予告なしに契約を終了できると定め、同条第4項が第17条を準用しているため資遣費を請求できます。終了の意思は、遅配を理由にすることが分かる形で会社に伝え、記録を残します。
- 労働保険に加入してもらえていません。これも理由になりますか?
- 労働保険・健康保険の未加入は、雇用主が労働法令に違反して労働者の権益を害するおそれがある場合(第14条第1項第6号)に当たり得ます。この号を理由にするときは、その事情を知った日から30日以内、または損害の結果を知った日から30日以内に契約を終了する必要があります。
- 30日を過ぎてしまったら、もう請求できませんか?
- 第1号(契約時の虚偽)と第6号(法令・契約違反)の終了には30日の期限がありますが、第6号については損害の結果を知った日から数え直せる場合があります。他の四つの号には期限の定めがありません。期限を過ぎた後は通常の自己都合退職として扱われ、資遣費は請求できなくなるため、理由と日付を整理してから終了を告げます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。



